[千思万考のリプレイス] Action 1-7(Neisa's past story. )
【フウト国軍 中央部ヒスイ部隊 部隊長 ネイサ・カザリオ】
私の家は代々、王家の近衛兵として責務を全うしてきた家系だった。幼い頃から父や兄の背中を見て育った私は何の違和感を抱くこともなく、自らの意思で軍に入隊することを選んだ。
軍とは言っても、フウト国は長年『中立』の立場を守っているので、周辺国と血を流すような争いをすることもない。私は王家の近衛兵として、主に第二王女【コトハ】様の護衛を任されていた。
十六歳で軍に入隊した際、同じく十六歳で公務を始めたコトハ様の為に新設されたのがこの【ヒスイ部隊】だった。同じ歳、同じ女性ということも影響したのか、私はそのヒスイ部隊に配属されることとなった。
「本日よりヒスイ部隊に配属されましたネイサ・カザリオです。」
配属初日、ヒスイ部隊はコトハ様が用意した一室に集い就任の顔合わせをした。その時初めてヒスイ様のお顔を拝見し『私がこの部隊に配属された理由はこれか』と察知した。
「初めまして、ネイサ・カザリオ。会える日をずっと楽しみにしてました。それなのに、あなたのとは初めて会った気がしないわ。」
目の前で優しく微笑むコトハ様は私にとてもよく似ていた。背丈や髪色、顔の系統はほぼ同じ…。違う部分をあげるとすれば、軍の訓練を受けてきた私の方が筋肉質であることと、目の色が若干異なるぐらいだった。
「やはり、私はコトハ様の影武者ということでしょうか?」
就任の顔合わせが終わった後、私は部隊長の部屋を訪れ真意を問いただした。
「…わからん。お前をヒスイ部隊に指名したのは俺じゃないからな。コトハ様とお前さんの顔、両方知っている奴じゃないと影武者なんて思いつかんだろうし…。俺よりもお前の兄さんの方が分かるかもな。」
「兄…ですか?」
「お前の兄さんアゲート部隊長だろ。第一王子の近衛兵なら何か知ってるんじゃないか。」
~
「…という訳なんですけど、アゲート部隊長何かご存知ですか。」
「硬いなー。別に2人っきりなんだから『兄さん』呼びでいいのに。」
仕事中の空いてる時間を見計らって、兄【イザミ・カザリオ】の仕事部屋を訪れた。
「一応仕事上の話ですので。それに、女たらしの部隊長をあまり『兄』と呼びたくありません。」
「失礼だな。話しかけてくる女性を無下にできないだけだよ。」
「私から言わせればただの不誠実です。…で、どうなんですか?」
問いただすと、兄は腕を組んで『う~ん』とうなり考えだした。
「その感じだと何か知ってるんでしょ?」
「知ってる…というか、コトハ様にお前のことを教えたの俺だからなぁー。」
「は?」
「いやいや、怒らないで。俺は純粋にお前をコトハ様に紹介したかっただけなんだよ。でも何かしらの道理がないと王族に妹を合わせることなんてできないから、仕方なく…。」
「仕方なく…『影武者に適任な奴がいる』って言ったんですね。」
「そう。たった一人の妹にコトハ様の為の犠牲になってもらおうなんて本気で思う訳ないでしょ。」
「まぁ、そういうことにしときましょう。それで?何故私を紹介したかったんですか?」
「そりゃ話し相手…というか『友人』になってもらいたかったからだよ。今から職務で色んな国々を周るかもしれないのに、護衛が堅苦しいおじさん連中ばかりだとコトハ様も休まらないでしょ?」
その言葉を聞いた私は、自らの手を力強く握りしめることでどうにか『感情』を抑えこんだ。
「私も一国の軍人です。やることはあなたの言う『堅苦しいおじさん連中』と一緒です。別に影武者だって嫌だと言ってる訳じゃありません。むしろ名誉なことだと思っています。私をただの小娘と思って『王女の友人』などというポジションに置かせたいのであれば、それは私に対する侮辱です。」
私は自分で道を選び、努力し、その結果ヒスイ部隊に配属されたと思っていた。だが、ふたを開けてみればそれは兄に用意されたものだったと分かり、やるせない気持ちになった。
「侮辱なんてするもんか。お前の努力してる姿だって、多分父さんより俺が知ってる。だからこそお前をコトハ様の傍に置いておきたいんだよ。お前なら色んな意味で、コトハ様の力になれると思っている。」
「…。そんな風に甘い言葉と作り笑顔で女性を口説いていると思うと腹が立ちますね。」
「まぁ照れるな妹よ。」
-(兄のこの強メンタルをいつかへし折ってやりたい…。)-
「気分が悪いのでこれにて失礼します。時間を取らせて申し訳ございませんでした。」
「気にしないで良いよ。また何かあったらおいで。」
兄の職務に対する姿勢や功績などは尊敬できるものの、昔から女性や私に対して激甘なところは正直どうにかすべきだと思う。いくら仕事ができても、あの状態では本当に愛する人ができたときに相手も兄も苦労することになるだろう。
その後、私は兄を見返すべく血の滲むような努力を重ね、自らを鍛え上げた。知識や武術においても『女』だからと舐められないように、決して弱点は見せぬように心がけた。
そうしてヒスイ部隊としてコトハ様と共に行動し、二年後にはヒスイ部隊の部隊長に任命されることとなった。
コトハ様は王族の中でも『外交』に優れた方で、普通なら他の官僚に任せるような場面でも、自ら周辺国に赴き直接交渉を行うような方だった。それ故に、私達ヒスイ部隊も多くの外交に同行し、コトハ様と多くの時間を外の国で一緒に過ごしていた。
しかし部隊長になって一年後、とある争いの最中に私の命は尽きようとしていた。