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オスマンサスの花言葉 Action 15ー3

-(とは言え…、望月さんと二人きりになることを考えるとどうしても動揺が…。『好機』だとかそういう邪な考えはないけど、ちゃんと好きだと意識した手前…、どう振舞えばいいのか分からなくなってきた。)-


 私はバイト作業を着々とこなしながらも、迫りくる退勤時間に少しばかり怯えを感じてしまっていた。今まで二人で話すことはあっても、それはオープンな場所であったり、近くに寧勇がスタンバイしていたりという状況ばかりだったので、私の心の何処かには…少なからず余裕があったように思えた。


-(だけど今回"助け"は無い。それを想像しただけで、余裕なんてあっという間に消えてしまいそう…。)-


 高校のときのように『ドライな対応が出来ればどれだけ良いか』と考えもしたが、そこに戻ってしまうと成長も努力も無駄になってしまうので、あの時代を羨むのは止めることにした。欲のない感情だからこそ…あの対応が出来ていた。私は【今の自分】が欲を持ち変わってしまったことを実感すると共に、緩やかにその事実を受け止めることにした。



 休憩時間になりスマホを確認すると、寧勇と楼羅…、それと望月さんからメッセージが届いていた。寧勇からのメッセージを開くと、そこには望月さんが了承した旨の内容が書かれていて、⦅あとは本人と直接やり取りをして下さい⦆という言葉でメッセージは締めくくられていた。


-(成程…。それで望月さんからメッセージが届いてるって訳か…。)-


 それを踏まえた上で望月さんから届いたメッセージを開いて見ると、その内容は『寧勇からのメッセージの続き』と言ってもよさそうなものだった。運転手を頼まれた身でありながら、望月さんからのメッセージには私に対する感謝や謝罪が記されていて、それを読んだ私は一旦安心を感じることが出来た。


-(良かった…。文面だとそんなに嫌そうな感じではなさそう。うん…、()()()()。)-


 実際に顔を合わせて見ないことには本当のモチベーションは計れないので、私はとりあえずの安心材料として、その文面を雰囲気を信じておくことにした。


 望月さんのメッセージには『時間』や『場所』を指定する返信を取り急ぎ送らなければならなかったが、私はそれを送るよりも先に楼羅から届いたメッセージを確認しておくことにした。


-(楼羅のことだから…、『私が取りに行く』って伝えたら二日続けてここまで迎えに来そうだもんね…。流石にそこまでさせる訳にはいかないから、あえて【誰が】を記さずに『回収しに行く』とだけメッセージを送ったけど…、変に思われたかな?)-


 そんなことを思いながらメッセージを確認すると、中身はほぼ予想通りの文章だった。


⦅回収しに来るぐらいなら、持って行こうか?⦆


-(あ、やっぱりそう来ましたか…。)-


 こっちが【誰】と言わなくても、どのみち楼羅は人や場所を問うことなく、自分で忘れ物を届けるつもりだったらしい。そのスパダリ属性を知っているからこそ、楼羅には今日くらい(※昨日は飲み会・明後日は長距離運転手)自由に居てもらいたくて、こちらから回収しに行く旨を伝えたのだが、どうやらその願いは聞いてくれそうになかった。


-(ここはハッキリと『楼羅が動かなくて良い理由』を伝えるべきなのかもしれない。)-


 望月さんの存在は隠すべきだとは思ったが、楼羅の元を訪ねる時点で()()()()()()()()()()()()()()()()のはバレることなので、とりあえずは『私に移動手段がある』という事実を伝えることにした。


⇒⦅今日はバイトが終わったあと車で送ってもらえることになったから、そのついでに寧勇の忘れ物を回収させてもらおうと思う。今日中に回収出来れば寧勇の元へ届けられるはずだから、楼羅はそのまま家に居てくれれば良いよ。⦆


-(…うん、変な文章ではないはず。)-


 作った文章を見直し、おかしな部分は無いと判断した私は、そのメッセージを楼羅へ送信した。そして直ぐに私は望月さんの返信作業へと取り掛かり、バイトの終わり時間や車を停める場所などを記したメッセージを作り返信をした。


-(よし…、これで段取りは上手くいったかな?望月さんには手間を掛けさせることになってしまったけど、きっとリスナーを楽しませたいって気持ちは真千さんも同じだろうし、不快に思ってなければいいなぁ…。)-


 もし望月さんが少しでも不快な態度を示すようであれば…、申し訳ないが私は藍原さんを【犯人(犬)】として名前を売るつもりでいた。『これはペットの犯行なので何卒…。』などと言って、寧勇にヘイトが向かわないようにするつもりだったのだが、直ぐに返って来たメッセージを見て、それは要らぬ心配だったような気がしてきた。


⦅籠崎さんが寧勇の友人になってくれて本当に良かった。⦆


 私の目に写る…文末に添えられたその一言が、望月さんの胸の内を報じているように思えた。私か寧勇…、どちらか一方にでも煩わしさを感じていたら、こんなことは言ってくれなかっただろう。アーティストとリスナー、両者の視点が評価されたような気がして、私は思わず頬を緩めた。


-(やっぱり推しは最高だなぁ。【寧勇】(アーティスト)にとって大事なものも、【私】(リスナー)の大事なものも、全部見てくれてる気がする。)-


 煩わしさの有無…、その不安から解き放たれた私には、純粋な緊張だけが残ることとなった。少しでも緊張を解そうと、私は脳内で『車内で望月さんと二人きりになる』というシミュレーションしようとしたのだが、その瞬間…、私はそのシチュエーションを自ら蹴っていた過去を思い出してしまった。


-(そうだ…、高校一年生が終わるあの日、私は望月さんから逃げたんだった。下心を抱いてしまうのが怖くて、私はまたとない機会を自ら蹴ったんだった…。)-


 それを思い出した途端に、消えていたはずの不安が私を再び包み込んだ。もし望月さんがあの日のことを覚えていたら…、そう考えると『車内で二人になる』というシチュエーションは私にとって地雷と同然に思えた。


-(大丈夫…、きっとあんな突発な誘いなんて覚えてないはず…。私が過剰に反応してしまっただけだ。きっと望月さんは何も気にしてない…。)-


 全ての段取りを終えたあとの私には、逃げる手段もなかったし…逃げる考えもなかった。ここで逃げたら、それこそ私は四年前から何も変わっていないことになってしまう。寧勇が覚悟を決めた以上、私も『過去』と向き合わなければいけない。


「……。」


-(寧勇は『全ての悪行を認める』とまで言い切ったんだ…。だったら私も、望月さんが覚えていようと忘れていようと…、あの日の素行を謝らないと。)-


 私は気を引き締め直し、休憩後のバイト作業もきちんとこなし続けた。

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