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オスマンサスの花言葉 Action 15ー2

 引き続き雨が降りしきる中、授業の終わった私は直ぐにバイト先に向かって移動を始めた。泊りがけだったということもあり、いつもよりも多少荷物が多かった私は、それらが濡れてしまわないようにスマホなどは見ないようにして行動をしていた。バイト先に到着してから、私はようやくスマホを確認することが出来たのだが、そのとき既に数件のメッセージが溜まっている状態になってしまっていた。


-(楼羅のこれはなんだろう…、写真?)-


 楼羅から届いていた最新のメッセージには⦅写真を送付しました⦆という仮タイトルのような表記がされていた。内容が気になり直ぐに確認すると、そこには⦅これ、燐の忘れ物?⦆という文字のあとに二枚の写真が添付されていた。


-(これは…、私の物ではないけど、ポーチとバレッタかな?)-


 そこに写っていたのは何の変哲もない黒いポーチと、リーフを模ったと思われる髪飾りだった。どちらも比較物が写っていないので大きさがよく分からなかったが、髪飾りの方は太めのデザインになっていたので、氷華の髪の長さでは使わないだろうなということは想像出来た。


⇒⦅どの辺りにあった?⦆

⦅髪飾りは洗面所、ポーチは…多分藍原さんが腹の下に隠してた⦆

⇒⦅それ忘れ物って言うか、藍原さんの犯行では?⦆

⦅…すまん<(_ _)>⦆


-(これはどっちも寧勇の物だろうなぁ。とりあえずポーチの中が何なのかも気になるし、私から寧勇にメッセージを送ってみるか…。)-


 ポーチの中身によっては気まずい空気になりかねないと思った私は、『自分の物ではない』と返信する前に寧勇に確認をとってみることにした。


⇒⦅沓抜さん家に忘れ物があったらしいんだけど、この写真…両方とも寧勇の物だよね?⦆

⦅はい。さっきまでずっとバッグの中を探してました。⦆

⇒⦅どうする?直ぐに必要なものなら楼羅に頼んで届けてもらおうか?⦆

⦅手早く話したいから今から電話掛けてもいい?⦆

⇒⦅OK!⦆


 メッセージに返信を送ると、直ぐに寧勇から電話が掛かって来た。


「ごめんなさい。実は今から新幹線に乗って移動することになったから、その忘れ物…回収出来そうにないの。」

「あれ?移動は明日の予定じゃなかったっけ?」

「悪天候の影響で『明日の電車が止まるかもしれない』って情報が出たから、一日早く移動することになったの。壬はバンド陣とギリギリまでリハーサルしてから、一緒に車で移動するってことでまだこちらに残ってるんだけど、私はオフィーさんと一緒にホテルで待機しようってことになったの。」

「あらら、マジですか…。」


 急な予定変更に、私はおろか氷華もついていけていない様子だった。


-(ん?と言うことは…、さっき写真に写ってたポーチって…)-


「バッグの中を探してたってことは、あのポーチ…大事なものが入ってるんじゃないの?」

「えっと…、充電ケーブルが数種類とモバイルバッテリー…、あとはイヤモニってところかしら。」

「イヤモニ…って、それライブで使う大事なやつでは!?」

「ええ、一応フェス用にと思ってオーダーメイドで購入したしたんだけど…、これはもう間に合わせで用意するしかなさそうね。」


 ライブ中にアーティストが使用するイヤモニは、パフォーマンス上昇の為に自らの耳方を採取して作られるときいたことがあった。寧勇も例に洩れず、自分専用のイヤモニを携帯していたようなのだが、それが使用できないとなると、多少なりともパフォーマンスに影響が出ることが懸念された。


-(恐らくだけど…、寧勇は今まで専用のイヤモニを使用した状態でしかパフォーマンスの練習はしていないんじゃないだろうか…。だとすると、やっぱり本番では使い慣れたものを使用しないと本調子にはなれないんじゃ…。)-


 私はさっき寧勇から聞いたスケジュールと自分のスケジュールを瞬時に照らし合わせ、一つのプラン導き出した。


「望月さんはまだこっちに残ってるんだよね?」

「ええ、そうだけど…。」

「だったら私が望月さんにこのポーチを預ければ、本番までには寧勇の手元に届くってことだよね?」

「それはそうだけど…、燐は今日もバイトなんでしょ?まだ雨も強いし…、移動が大変になるだろうからそこまではさせられないわ。」

「でも…、私は万全の体勢で寧勇にステージで歌って欲しい。」

「……。」


 寧勇の心配を他所に、私は自分の思いを力強く言い切ることで、寧勇に自分の思いが本気であることを訴えかけた。お互いに相手のことを思っているからこそ、意見が一致しないのは重々承知だったが、だからと言ってこちらが簡単に引く訳にはいかなかった。


 私の引く気のない意志が伝わったのか、寧勇は少しの間黙り込むと、妥協したかのように一つの提案をしてきた。


「…分かった。だったら私から壬にお願いして、燐の移動を手伝ってもらうわ。」

「どういうこと?」

「燐は今バイト先なんでしょ?そこから沓抜家に移動して忘れ物を回収…、更に移動して壬にそれを預ける…、それでようやく自宅への帰路につく…なんて、考えただけでも大変過ぎるわ。だからバイト終わりに壬に迎えに来てもらって、そこから沓抜家に向かって忘れ物を回収してもらったら、あとはそのまま自宅に送ってもらえば良いのよ。だったらお金も時間も掛からないし、安全に家に帰れるでしょ?」

「待って!!流石にそれは……。」

「でも、私はこの方法じゃない限り安心できないわ。この大雨ですもの…。移動中に何かあったらって考えたら気が気じゃないわ。もしこの方法を断るのだったら、私はイヤモニなんていらないから、燐に安全に家に帰って欲しい。」


 その厳しい口調に、本気で心配する寧勇が見えた私は、それ以上自分の意見を押し通せなくなってしまった。


-(はぁ…。流石にそこまで言われると、これ以上寧勇を心配させるような真似は出来ない…か。)-


「…分かった、それでいいよ。勿論、望月さんがそれを了承してくれるのであればだけど。」

「きっと大丈夫よ。壬に聞かされた話だと、夜は何の予定も入れてないはずだったから、急用が入っていない限りは引き受けてくれると思うわ。」

「うーん、予定はともかくとして…、望月さんの気分的な問題としては大丈夫なのかな?この前の防音室と違って完全に二人きりになる訳で、そこに抵抗感があったりしたら…。」


-(いくら寧勇の頼みだからといっても、自分の運転する車に恋人以外の女性を乗せてしまうのはモラル的に嫌がるんじゃないかな?)-


「前回の件と違って、今回は私の事情ですもの。そこは壬も理解してくれるはずよ。」


望月さんが寧勇の頼みを了承してくれる…。それを想像したときに、私は妙な不安感を覚えてしまった。


「……。本当にいいの?ライブパフォーマンスを崩さない為っていう名目ではあるけど…、言い換えてしまうと、これって望月さんと別れる為の布石を…望月さん自身に打たせているようなものだよ?」


 フェスが無事終われば、寧勇は望月さんに別れを告げてしまう…。その未来が私の頭をちらついて離れなかった。言い方は悪いが、寧勇は分かれるギリギリまで望月さんの甘い蜜を吸っているような状態だ…。それを考えると、別れ際くらいはあまり望月さんに頼らない方がいいのでは?…と、思わざる負えなかった。


 だけど寧勇は『開き直る』とも『悪びれる』とも違った様子で、この行動を正しいと認識しているようだった。落ち着いた口調で『そうね。』と肯定すると、寧勇は私を諭すように言葉を続けた。


「でも、それはもう今更の話なのよ。私は壬と出会ってからずっと利用してきたの。私はその全ての悪行を認めるつもりだから、ここで悪行が一つ増えたところで特に何も変わらないわ。それに…、これは私達の()()()()()()()()()()()()()()()のイベントだもの。それを万全な体制で成功させたいっていうアーティストしての感性は、何よりも壬が一番理解してくれるはずよ。」


 寧勇にそう言われ、私はフェス本来の目的を見失っていたことに気が付いた。私は寧勇個人の心配ばかりをしてしまい、アーティスト【()()()()()()()()()()を自分の思考から外してしまっていた。


「そっか…、そうだった。寧勇は沢山のリスナーを喜ばせたいからこそ、今の選択をしたんだったね。」

「そうよ。別れはあくまでも通過点…。私は壬のようにたくさんの人達を笑顔を目にしたいから、ステージに立つことを選んだの。」

「ごめんね、どうやら私の視野が狭かったみたい。目の前の事しか見えてなくて、大事なこと忘れかけてた。」

「仕方ないわ。私が『フェスの日に別れる』って言ってしまったから、燐としては()()()()()って認識になってしまうものね。あくまでもフェスはリスナーを楽しませる為のイベント…、それは忘れないでね。」

「うん、分かった。」


 これは『小薬さんの為に真千さんに協力を仰ぐ行為』だと考え直した私は、さっきまでの後ろめたさの残る考えを失くし、前向きに望月さんから協力を求めることに同意した。


「それじゃあ私は燐がバイトをしている間に壬に事情を説明しておくから、また数分後にメッセージを確認してみて。一応バイト先の住所も教えておきたいから、電話を切ったあとに送付をお願いしてもいいかしら?」

「うん、このあとリンク先を送っとくね。」

「ええ、ではまたあとで。」


 私は電話を切ったあと、寧勇に言われた通りバイト先の住所を送り、楼羅には⦅それは寧勇の忘れ物だから、今日中に回収しに行くかもしれない⦆とだけメッセージを送信した。

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