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[流れゆく今日だけのライラ] Action 14ー9(Neisa's short story. )

-(私と燐のことを酒豪呼ばわりしてたけど…、楼羅も十分強いのでは?)-


 燐から託されたお酒を飲み終わった楼羅は、あと片づけを始めようとテーブル上のゴミを集め始めいた。だけど空き缶だと思って持ち上げたものが氷華の飲みかけ(残量・多)だということに気がついてしまい、楼羅は少し困惑しながらも先程同様…自らの体内に摂取することでそれを処理をしようとしていた。


「氷華はそんなにお酒強くないのに、楼羅はこれだけ飲んでも平気なのね。」

「まぁ双子だけど二卵性だし、体質の違いっていうのは割とあるよ。性格や行動が似てるのは、ずっと一緒のことをして育ったからって感じかなぁ。たまにシンパシー的なことは感じるけど…、それもずっと一緒に居るのが原因だろうね。」


-(それはきっと二人に憑いているクモツメのせいなんだろうけど…、黙っておこう。)-


「ずっと仲が良いのね。突き放したいと思ったり、嫌いになったことはないの?」

「本心からそう思ったことはないよ。からかわれようと、恋人に間違われようと『別に』って感じだったし、とりわけ恥ずかしいと思ったこともないかな。」

「あら素敵。」


 私からの質問に、楼羅は恥ずかしげもなくスラスラと言葉を並べていた。活舌もしっかりしているし、酔っているという雰囲気ではないのだが、今の楼羅はとても素直な上に若干お喋りになっているようにも思えた。


-(この状態の楼羅と話すのは、ちょっと楽しいかもなぁ…。このあと『洗い物をする』って言ってたし、ちゃんと正気なのか確かめる為にも、もう少し話してみよう…。)-


 実は今無理をしている状態で、このあと洗い物をして怪我をする…なんてことになっては大変なので、私は楼羅の状態を確認しつつ、軽忽と思いながらもお喋りを楽しむことにした。


「もし氷華に【素敵な人】が出来たとしたら、お兄ちゃんとしてはショックなのかしら?」

「いや。俺は氷華に嫌われさえしなければそれで良いよ。でも…、もし俺を嫌いになった代わりに他の人を選んだのであれば、それは歓迎出来ることではないと思ってる。」

「あら…。つまり自分より重要なポジションを埋められるのは構わないけど、自分が居るポジションを奪われるのは嫌なのね?」

「そう、それ。俺のポジションを奪った()()()()()()で、氷華が幸せになれるとは思えないし…。」


-(いつもと違って歯に衣着せぬ言葉選びになってる…?)-


「成程。今あるパーツを変えるだけでは、良い方向には変わらないってことね。その気持ちなら私にも分かるわ。あなた達を選んだ今の状況が、まさにそんな感じだもの。」


 自分の経験に当てはめ…私がそんな言葉を口にした瞬間、楼羅の纏っている空気が一気に変わるのを感じた。


「……。」

「(…え?)」


 さっきまで饒舌だった楼羅が急に口をつむぎ、神妙な面持ちになって私の目を見つめていた。私は楼羅にとっての地雷を踏んでしまい…何か怒らせてしまったのではと不安になったが、その表情はどちらかと言えば『怒』ではなく『哀』を象っているようにも見えた。


「……。寧勇に聞いておきたいことがあるんだけど…。」

「何…かしら?」

「俺達って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……。」


 楼羅のその言葉を聞き、私は初めて自分の行いが楼羅を不安にさせているということに気が付いた。今まで一緒に過ごしてきた楼羅は、私にどんな不審点があろうとも何も聞き出そうとはしてこなかった。それにも関わらず、楼羅は今こうやって質問をしてしまっている。その事実が、私に『逃げるな』と言っているように思えた。


-(あぁ…、私は何て愚かなで甘えた行動をしてしまっていたのだろうか…。)-


 『いずれ話してくれればいい』、そんなことを言っていた楼羅が、今日だけは私に対して素直に本心を晒してしまっている…。お酒が入っているとは言え、楼羅は思はず私に質問してしまうほど、このことについて考えてしまっている…。


 私は自分自身の行いを、余すことなく反省した…。


「そう…よね…。そうやって疑いたくなるのは当然だと思うわ…。不安にさせてごめんなさい。でも私はっ…。」

「あ、いや…、そういうことじゃなくて…。」

「…え?」


 楼羅から不安を拭ってあげなければと思い、私は今までの行動の意味や三人を選んだ理由などを可能な限り言葉にして伝えようとしていたのだが、その言葉は直ぐに遮られてしまった。


「疑ってるとか、謝って欲しいとか、そういうことを言っている訳じゃなくて…。俺はただ寧勇の口から『はい』という返事さえ聞ければ、それで良いんだよ。」

「…。それ…だけ?」

「それだけ。寧勇の事情を知ってしまったとき、燐に繰り返し『大事なことは本人から()()()()()』って言われてたんだ。燐はきっと自分の言う仮初めの言葉じゃなくて、寧勇の言う真性な言葉を信じて欲しかったんじゃないかな?」

「それでさっきの質問を?」

「そう。寧勇が俺達を替えのパーツとして扱っていないことはちゃんと分かってる。だけどそれは燐に言われた言葉だったから…、俺はちゃんと寧勇の口から言われた言葉を『信じるべき言葉』として得ておきたかった…。」

「疑うとか…、不安とかはないの?」

「…ないよ。疑う材料は無い…、だけど信じる材料も足りない。だから俺は寧勇自身の言葉が欲しい。その言葉で、ちゃんと俺を信じさせてくれないかな?」


-(なんだ…。こんなときであろうと、結局何も変わらないじゃないか…。傷口には触れようとせず、待つことで人を信じようとする。臆病で怯懦…、そして…、ひたすらに思いやりに溢れたいつもの楼羅だ。)-


 私は楼羅の優しさを嚙みしめながら、何の飾り気も無い…ありきたりな言葉を楼羅に伝えようと、そっと口を開いた。


「……替えのパーツなんかじゃない。文字通り、あなた達は私にとって()()()()()()()友人だもの。……。この言葉で信じてもらえる?」

「うん、その言葉で十分。本人の言葉に勝る真実の言葉なんて、他の誰にも言えやしないんだから。」


 そう言って満足気な表情を浮かべると、楼羅は氷華分の飲みかけだったお酒も全部飲み干し、改めてテーブルの上を片付け始めた。


-(あ…、これどうしよう…。)-


 私は手元に飲みかけのグラスを置いていたのだが、どうにも自分の好みに合わず、あまり量を減らすことが出来ていなかった。楼羅が洗い物をすると言っていたので、出来ればこのグラスも洗い物としてまわしたかったのだが、値段や量的にももったいないと思ってしまい『捨てて欲しい』とも言いづらかった。

 

「ねぇ、良かったらこのお酒も楼羅が飲んでくれない?あまり私の口に合わなくて、飲み切れそうにないの。」


 簡易的なお盆を用意し、そこに空き容器を集める楼羅に向かって私は手に持ったグラスをアピールしてみた。だけど楼羅は私のその行動に、何故だかあまり良い表情を見せなかった。


「口を付けてるんでしょ?だったらダメだよ。」

「どうして?燐や氷華の分は飲んでたのに…。やましい気持ちがなければ平気なんでしょ?」

「……だからだよ。」

「……。」

「じゃ、俺はキッチンにこれ持って行くから、あとは任せるね。」

「…あ、はい…。」


(バタンッ…。)


「…………。…………。え?」

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