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流れゆく怯懦気のライラ Action 14ー5

「リンリンお帰りぃー。」


 沓抜家に到着し、楼羅と共に氷華の部屋に入ると、そこにはテーブルを挟んでお風呂上りの一杯をキメている氷華と寧勇の姿があった。どうやら一つの缶を二人で分け合っているようで、二人の持っているグラスには、何かまでは分からなかったが同じ朱色の飲み物が注がれていた。


「あれ…、いつから私の家ココになったんだっけ?記憶に無いんだけど…。」

「うーん、俺の記憶にも無いから、考えなくていいんじゃないか?」

「そっか、じゃあそうする。」

「あなた達…、受け答えが結構雑ね。」

「まぁ酔った身内に対する受け答えなんて、大体こんな感じでいいでしょ?真面目にツッコミ入れてたらキリがないし…。」

「酷いなぁ。お酒は飲んだけど、私はまだ正常だよ?あ、リンリン()お風呂入る?」


-(本当に二人で入ってたんだぁ…。よく見たら、二人共ちゃんとスッピンになってる…。)-


「私はバイト終わりにシャワー浴びて来たから大丈夫だよ。既に二人と同じスッピン状態。」

「えっ、燐それすっぴんだったの?」

「えぇ…、気づいてなかったの?」


 私は自然と寧勇の隣に座り込みながら、楼羅に向かってあからさまなガッカリを見せつけた。勿論本気で凹んでいる訳ではなかったが、『【メイク後】と【スッピン】くらいは見分けて欲しかったなぁ』という僅かな乙女心が作用して、楼羅にそんな悪戯をしてしまっていた。


「はいっ、楼羅戦犯です。ちなみに私も気づいてなかったけど、裸眼なのでノーカンでお願いします。」

「はい許す。」(※激甘)

「まじか…。と言うか、何でボードゲームカフェにシャワー室があんの?」

「あの店って元々ネットカフェがあった場所を改装して作られたらしいんだよね。だからその名残でシャワー室が残ってるみたい。来客用には解放してないけど、従業員は自由に使って良いっていうルールだから、皆バイト終わりに使って自分ん家の光熱費を抑えてたりするだよ。」

「へぇー…、それは店長が太っ腹だね。」

「…。えっと…、ボードゲームカフェって?」


-(…ん?この反応はまさか…。)-


 楼羅がワーキングチェアーに腰を下ろし、皆が着席を終えたという瞬間に、寧勇がそんな疑問を口にした。私は一瞬何を問われているのかを素で見失っていたのだが、寧勇のその純粋無垢な表情を見て、自分の思い違いに気が付いてしまった。


「あ、そっか…。私、寧勇にバイト先の話をしたことがないのかぁ…、ごめんごめん。ボドゲカフェは私のバイト先だよ。」

「ボドゲカフェ?ボードゲームのするカフェ?」

「そう。まぁカフェとは名ばかりで、実際は娯楽施設って言った方がいいかな。私はそこの裏方担当。」

「裏方ってことは…、調理とかを担当してるってこと?」

「ううん、カフェの方の裏方じゃなくて、ボドゲの方の裏方。毎日のように増え続ける世界各地のボードゲームを理解・翻訳・解説するのが私の仕事。日本語版のルールブックを作ったり…、実践動画を作ってみたり…、まぁそんな感じかな?」

「それは凄いけど…、何だか珍しいバイトね。」


 基本的にゲームが好きで、情報収集も得意。そしてパソコンの操作スキルが高いということを評価された私は、店長から作業系の仕事を任されるようになっていた。時間を掛ければ誰でも出来る作業ではあったが、速度や完成度を鑑みて『私に一任するのが正解』だと判断した店長により、私は単独でこの作業を任されていた。


「思うんだけどさ…、それって本当にバイトの仕事なの?」

「ううん、本当は店長の仕事。」

「だよね!?」


 楼羅の疑問は当然だと思った。バイトという役職の割に求められているものが多い…と、私も重々思ってはいたが、そこに不満などの負の感情は一切感じていなかった。

 

「でもまぁコミュ症の私にとっては大分ありがたい仕事内容だよ。無理に人と接しなくていいし、得意なことを生かせるし、貢献も出来る…。おまけにシャワーも浴び放題ってなると、私のバイトって結構恵まれてると思うんだよね。」

「なるほどね。恵まれてるからバイトの愚痴を溢すことがない…、だから今まで話題にもならなかったってことなのかしら?」

「あー、確かに。言われてみればそんな感じかも。」


-(愚痴以外のバイト先の話なんて、された側からしたら『へぇ』程度の話題にしかならないもんね。)-


「でも…、それってちょっと皮肉よね。」

「え?」

「だって『良い話』よりも『悪い話』の方が、人に知れ渡るのは早いってことでしょ?何だかやるせないと言うか…、辛いものがあるわ…。」

「……。」

 

 そう呟く寧勇の横顔に、私は何故か哀愁のようなものを感じていた。寧勇としてなのか、小薬さんとしてなのか…、はたまた()()()としての経験なのかは分からなかったが、『悪い話が知れ渡る』ということに、何か思い当たるものがあったのかもしれない。


「…。よし、じゃあ今日はネガティブな話は出来るだけ抑えて…、ポジティブな話を心がけてみるっていうのはどう?」

「ポジティブな話?」

「そう。私達四人で、楽しい話を共有をしてみようよ。」


 まるで寧勇の羽織っていた哀愁を剥すかのように、氷華は勢いと活気の溢れる提案を言い始めた。


「ポジティブ…ねぇ。それはそれで難しそうだなぁ。」

「どうして?」

「だってポジティブな話って『自慢話』とか『惚気話』とか…、そういう感じのやつでしょ?インスタの投稿もやったことがない人間にはきっついよ?」


 そう言って私がポジティブ思考に難色を示していると、何故か氷華は一瞬寧勇を見つめるような仕草をし…、そして直ぐに私の方を向き直した。


「じゃあ聞くけど、リンリンとネーサが二人で会ってるときって一体どんな話をしてるの?毎回ネガティブな話だけをしている訳じゃないでしょ?」

「「……。」」


 氷華にそう聞かれ、私と寧勇は共に首を傾げると、今までの会話シーンを思い浮かべるように視線を上に向けた。


-(二人で会ってるときって…、大体『寧勇の今後に纏わる話』か『望月さん関係の話』だよね…。これを一言でいうなら…--。)-


推し(オシ)の話?」「(コイ)の話?」

「「……(コシ)の話?」」


 私と寧勇は顔を見合わせると、お互いに『ん?』というような表情を向け合った。


-(待って待って。そこで『恋』ってワードを出されると、このあと恋バナをリクエストされる展開になりかねないよ!?何かほら、もっとこう…、当たり障りのない言葉を…。例えば、そう!)-


「たわいのない話とか?」「相談する相談とか?」

「「猥談(わいだん)ないし掃除とか?」」

「「……。」」


 あまりの噛み合わなさと沓抜兄妹の聞き取り能力に、私は目も当てられなくなり…、思わず目頭を押さえてしまった。


「……酷い。」

「いや、流石に今のは俺らが悪かったな…。すまん。」

「リンリン、落ち込んでるところ悪いけど…、ネーサは腹抱えて笑ってるよ。」

「(ワイダン…、コシ…?フフフッ…、何でそんなところまで一致するの!?アハハッ…。凄い…。フフッ…。)」


 寧勇は必死に笑いを堪えているようだったが、完全にツボにはまってしまい…そこから抜け出せる様子がみられなかった。


-(えっと…、あまり当たって欲しくない考察なんだけど、もしかして寧勇って下ネタに弱い?)-


 品の塊とも言える寧勇が『猥談』という言葉一つハモっただけここまで笑っているのだから、私達三人は当然困惑してしまった。今まで上品な笑い声しか聞かせてくれなかった寧勇がここまで笑っている姿は、恐らくだが恋人である望月さんですら見たことがないだろう。もしかしたらアルコールが入っているのも一つの原因かもしれないが、私(達)は如何にも()()()()その姿を、段々『愛おしい』と感じ始めてしまっていた。

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