[和がれゆく怯懦気のライラ] Action 14ー3[後](Tsugumi's short story.)
-(俺は一体何処であの"顔"を見たんだろうか…?)-
先程ぶつかってしまった男性がどうも【知らない人】だとは思えなくて、俺はつい身バレ覚悟で声を掛けてしまった。同業者であれば"声"で気づくことが出来るかと思ったのだが…、会話をしたところで思い当たる人物は浮かばなかった。結局相手も『勘違いでは』と言って否定していたので俺の思い違いだったことにはしたが、未だに後ろ髪を引かれているような…そんな気分が抜けなかった。
-(うーん…。何処かで見た顔だと思ったんだけどな…。学生って言ってたけどお酒を買おうとしてたし、歳はそんなに違わないよなぁ。同じ高校…ってことはないか。俺、割と目立つことばっかりやってたし、生徒会長の顔を見たらピンときてもよさそうだもんな…。)-
また何かにぶつかってしまわないよう、俺は足を止めた状態で色々な思考を巡らせていたが、時間をかけたところで答えは出てきそうになかった。俺は思い出すことを諦め、今一度店内を巡ろうと足を踏み出したのだが、その瞬間に自分が籠に入れていた商品のことを思い出した。
-(あ…、今更だけどこっちの籠の中は大丈夫かな?)-
男性を気遣うあまり、自分が持っていた籠を疎かにしていたことに気づいた俺は、慌てて中に入っていた商品を手に取って外装の確認を行った。さっきの男性と違い…俺は贈答仕様のお酒を籠に入れていた為、瓶が割れるなどの心配はなかったが、手土産として持たせるに見た目は大事だと思い、傷や凹みの有無を念入りに確認した。
-(大きい凹みはなさそうだし、とりあえず大丈夫そうだ。畏まった場に持って行く訳でもないし、見落とすくらいの傷があっても問題はないかな。)-
そう思って俺は商品を籠の中に戻すと、わざと時間を費やすようにして再び店内を歩き始めた。
-(寧勇の買い物そろそろ終わってるかな?この時間の食品エリアって人が多そうだし、迎えに行くよりここで待ってた方がお互い見つけやすいか…。)-
色んなものに目移りしてしまう寧勇は、俺にお酒の厳選を託すと、一人食品エリアに混雑部分に特攻を仕掛けてそのまま姿を消してしまった。人目にあまり触れさせないように…という寧勇なりの気遣いだったとも取れるが、俺としては寧勇を一人にすることも中々心配だった。
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-(うーん…、流石にこれ以上は時間を潰せそうにないし、迎えに行くか…。)-
数分待っても寧勇がここへ来る様子がなかったので、俺はお酒の会計を済ませて寧勇が特攻していった混雑エリアへ向かうことにした。本当は寧勇が気になるお酒なども一緒に見ておきたかったのだが、それはまた今度ということにして諦めること選んだ。
-(お酒のあてを探しに行ったはずだから、総菜か…、あるいはチーズ売り場ってところかな?)-
俺は自分の勘を頼りに、周りを見渡しながら歩みを進めていたのだが、その道中で思っていたよりも早く寧勇の姿を捉えることが出来た。どうやら寧勇は目的の買い物を終え、こちらに向かっている途中で何かのトラップに引っ掛かってしまったらしく、その証拠に…寧勇の手には既に購入済の商品が握られていて、その状態で色々な商品を見て回っている様子だった。
「おーい、買い物は終わったんじゃないの?」
「あ、ごめんなさい。会計を終えてそっちに向かおうとしてたんだけど、ついコレに目を奪われてしまって…。」
「…ん?」
寧勇が手に持っていたものは《北海道産ヨーグルト酒》という何とも変わった商品で、さらにその目線の先にあったのは《静岡県産ワサビ酒》という、これまた変わった商品が並んでいた。
-(物産展…かな?見たことない商品ばかり並んでるし、そりゃ寧勇も目を奪われるか…。)-
「寧勇ってそういう変わり種みたいなお酒が好きなの?」
「うーん、飲んだことがないものを好きとは言えないけど、興味はあるわね。何事も味わってみないことには判断出来ないもの。」
「チャレンジ精神が強いなぁ…。俺にはちょっと無理そう。」
「そうなの?」
「うん…。俺はどちらかというとこだわり派だから、一度好きになるとそればかり選んでしまうんだよね。」
「あら…、それはちょっともったいないわね。でも、その気持ちも十分分かるわ。」
そう言うと、寧勇は手に取っていたヨーグルト酒を元々置いてあった商品棚に戻し始めた。
「あれ…、買わなくていいの?」
「ええ、折角壬がこだわりのお酒を選んでくれているのだから、今日はそっちを楽しまないと。壬が選んでくれたもので美味しくなかったものなんて一度もないから、きっと今回も間違いないはずでしょ?」
「うーん…、そうだと良いな。」
俺が自信なく返事をしたその瞬間、何故か寧勇は俺から顔を隠すようにしてクスクスと笑い始めた。それを見た俺は一体何が可笑しかったのか理解出来ず…、普通に困惑してしまった。
「え?俺、何かおかしなこと言ったっけ?」
「いえ…、ごめんなさい。笑ってしまったのは私の勘違いよ。考え事をしていたせいか、ちょっと言葉の意味を履き違えてしまったみたい。だからあまり気にしないで。」
「あ…、うん…。一体何と勘違いしたの?」
「そんなの恥ずかしくて言えないわ。そうね…、とりあえず『もっと自信を持って』って言いたかったのは、どちらの意味でも変わらないわね。」
「何だろう…。余計に気になるな。」
「ふふっ…、これ以上は絶対に内緒。私は壬が相応しいものを選択するだろうなって…、単純にそう思っただけよ。」
寧勇は決して俺のこと馬鹿にしたい訳ではなく、むしろ賞賛するようなことを言って、笑ってしまったことを誤魔化していた。自分の行いが肯定されるのは割と嬉しいことだったので、俺は寧勇に非はないということに(無理矢理)納得すると、それ以上『笑った理由について』は聞かないことにした。(ちょろい)
「まぁ…、良いか。お酒はあまり癖のないものをえらんだつもりだから、普段お酒を嗜むことがない人でも飲みやすいとは思うよ。」
「それは良いわね。何せ友達は皆二十歳ですもの。そういう心遣いはとてもありがたいわ。」
「どういたしまして。」
「あ…、お酒はもういいとしても、このチーズ数の子は買っておこうかしら…。前から少し気になってたのよね。」
「ふっ…、別に急いでる訳でも無いし、もうしばらく商品を見て回りなよ。普段見れない物ばかりだから、気になるなら買っておいた方が良いと思うよ。」
「そうね…、ならもう少しだけ…。」
そう言って別の商品棚に向かって行く寧勇を見送りつつ、俺はさっきまで寧勇が見ていた変わり種のお酒に手を伸ばした。
-(さっきの人も、こういうの見てたら買ってそうだな。ラインナップに似たものを感じる…。)-
話題性を重視したようなラインナップを見つめるうちに、俺はそれらの商品に対し割と冷めた感じの印象を持ってしまっていた。決して購入する人に対して嫌悪感は抱かなかったが、こだわり派の俺は飲まず嫌いと分かっていても『好きにはならないだろうな』という偏見を覆すことが出来なかった。
-(こういうのって、最初は物珍しさから手を出すんだけど、ずっと飲み続ける程好きにはならないよな…。結局は元に戻ると言うか…、ベタでも地味でも本当に好きなものには敵わない気がする…。)-