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流れゆく怯懦気のライラ Action 14ー2

 一頻り笑ったあと…、私達は寧勇に貰ったスケジュールを元に、フェスへ向かう時間や各々の行動予定を確認し合うことにした。寧勇曰く、フェスでの出演が終わるまでは現地で私達と会うことは不可能らしく…、残念ながら面会は『パフォーマンス後』ということになった。


「まぁ、こればっかりは仕方ないかぁ。ネーサが『ステージで顔出しはしない』って言ってたし、その分演出が特殊になって忙しくなるのは予想出来ることだもんね…。」

「うーん…。こうなったらお泊りしてもらうときに、とことん私達のお喋りに付き合ってもらうしかないね。お泊り会の日程っていつになりそう?」

「私とネーサのタイミングを合わせると五日かな?それ以降はネーサが無理っぽいし、水曜日なら私がバイト早めに上がれるから丁度良いと思う。」

「…となると、私はやっぱりあとからの参加かなぁ。真夜中ってほどに遅くはならないけど、二十二時は過ぎてしまうと思う。」

「だったら俺が燐のバイト終わる頃に迎えに行こうか?その方が早く帰れるだろうし、燐も俺と一緒の方が気を遣わずに家の中に入れるでしょ?」

「え…、それだと楼羅が私を迎えに行くまでお酒飲めないってことになるんじゃ…。」


 楼羅の気遣いは嬉しかったが、裏に思惑を秘めていた私はその申し出を素直に受け止めることが出来なかった。楼羅がどの程度お酒を飲めば気を遣わなくなるのか分からなかったが、私よりも長い時間飲ませることが近道だと思っていたので、私は無粋とは知りながらも少し困惑してしまった。


 だけどそんな邪な思いを知らない楼羅は、あくまでも私の為を思って、その申し出に追い打ちをかけてきた。


「なら尚のこと良いと思うけど?燐一人だけがシラフなのも可哀そうだし、一緒に飲み始めた方がいくらか気が楽でしょ?デキあがった中にシラフで放り込まれる恐ろしさは、あまり経験しない方が良いと思うよ。」


 気遣いの塊である楼羅にそう言われ、私は何となくその光景を想像してみた。


-(部屋の中にデキあがった三人が居て…、シラフの私がそこへ入る…、…。難易度高くない?)-


 楼羅の杞憂していたことを理解した私は、直ぐに心が動いてしまった。


「あー、うん…。そう言われるとなぁ…。確かにそうしてもらった方が良いように思えてきた。」

「えぇー、何か引っ掛かるなぁ。まるで『お酒を飲んだ私が厄介』みたいに聞こえるんですけど?」

「あくまでも『三人共デキあがってたら燐が可愛そう』って話だよ。別に氷華がどうこうって訳じゃないから。」

「ふふっ。私、お酒に酔った氷華見るの結構好きだよ。悪い酔い方はしないし、ほわほわして可愛いもん。」

「あれ…、急に恥ずかしくなってきた。もしかしてこの間酔ってたのって私だけ?」

「「うん。」」


 私と楼羅が即答すると、氷華は目をパチパチとさせてその驚きを表現していた。


「マジですか…。そう言われれば、そんなんだった気もしてきた。楼羅は最初からセーブしてたし、リンリンとネーサはお酒の飲み比べして遊ぶくらい強かったもんなぁ。」

「私は回し飲みしてただけで、そんなに量は飲んでなかったよ。酔って自力で帰れない…なんてことになったら大変だったし。」

「だったら次はもう少し量を増やしてみる?私も酔ったリンリン見てみたいし。」

「こらこら、次の日学校があるってこと忘れないでよ?飲んで寝るのは良いけど、二日酔いだけは勘弁してくれ。」

「大丈夫。私達には漢方というおまじないがある。」

「…妥協する気ないじゃん。」


 予定が定まったことで、氷華は既に()()()()()に向けて胸を弾ませてしまっていた。『楼羅の素直な気持ちが聞きたい』と言い出したのは私だったが、その後の提案・作戦・誘導(?)は全て氷華が誘因したものだった。協力的なことに対しては嬉しかったし…助かったとも思うが、やはり私には引っ掛かるものがあった。


-(流石にこれは『私の為()()』って感じではないよね…。やっぱり氷華にも何か思惑があるってことなのかな…。)-


 氷華が純粋に『楽しみたい』というだけの思惑で動いているなら何も心配は要らないのだが、私以上に『お酒を飲ませる』ということに執着している気がして、少し心配になった。


 『誰かを酔わせたい』…、もしくは『自分が酔いたい』という思考は、私と同じように何かに対し不安要素を持っているからではないかと…ふと考えてしまっていた。楼羅、寧勇、私、そして氷華自身…、その誰かに対して不安や不満を持っているとしたら、一体それが誰なのか…、そんな至らぬことを想像してしまっていた。


-(いくらなんでも考えすぎか…。フェス前なんだし、はしゃぎたくなるのが当然だよね。)-


 負の要素など感じさせない…、浮足立つ氷華を見て、私はその負の思考を遠くへと投げ捨てることにした。全てを自分に当てはめて考えるなど烏滸がましい…、そんな思いもありはしたが、『氷華が楽しそうだ』という事実だけで、投げ捨てるには十分な動機となっていた。


「じゃあ、フェス当日までのスケジュールも決まったことだし…、私はそろそろ帰ろうかな。()()()に関してはまだ定まりそうにないし、寧勇が来たときにでも考えよう。」

「そうだね。それまでに私がいくつか写真を厳選しておくから、皆で見ながら考えるのもアリってことにしよう。」

「賛成。」

「ん…?また俺の知らないところで何か話が進んでないか?」

「「……。え?」」

「おい…、とぼけるな。」


 宅飲みに引き続き、小旅行についても楼羅に相談していなかったことを私達は今更になって気が付いてしまった。私と氷華は苦し紛れに口角を上げて首を傾げて見せたが、勿論…、そんなぶりっ子技法が通る訳もなかった。


「あー、うん。それはまた今度ね。急ぎじゃないし、時間があるときにゆっくり話そう…、ね。」

「ふっ、甘いな。俺は今から燐を車で送りながらも、話を聞くくらいは出来るんだからな。」

「えー…。いつもならそんな風に無理矢理話を聞こうとはしないのに…。」

「一応言っとくけど、隠匿と陰謀は一緒じゃないからね。そこに目を瞑れる程…、俺はお人好しじゃないよ。」

「ぁー…、左様ですか。」


 楼羅の口から『お人好しじゃない』という言葉を聞けた私は、その態度とは裏腹に何故か安堵した気持ちになっていた。それは楼羅の素行が優しいさや甘さで出来ているのではなく、ちゃんとした信念の元で出来ているということを知れたからかもしれない。楼羅は厳格が欠けているということもでもなければ、他人に無関心な訳でもない…、それを再確認出来たことで、私は益々その本心を知りたいと思ってしまった。


「はいはい、じゃあ話は今度ってことにしてあげるから、とりあえず帰る準備をしてもらおうか。俺は店の裏から車移動させてくるから、燐は帰る準備が出来たら玄関前に移動しといて。、氷華もどうせ一緒に行くんだろうし、そっちの方で待ってて良いよ。」

「りょうかーい。」

「うん、ありがとう。」


 楼羅はフットワークの軽さを見せつけるかのように颯爽と立ち上がると、帰宅を手引きする言葉を残して私達よりも先に部屋を後にした。一瞬たりとも『煩わしい』というオーラを醸し出さず、気遣いの良さを見せつけられた私は、思わず心に秘めていた本音を洩らしてしまった。


「こういう楼羅の良いところは…、私ではなく寧勇に見てもらいたいんだけどな…。」


 寧勇には楼羅を…、楼羅には寧勇を…、もっと知ってもらいたい。そんな思いを、私はつい氷華に聞こえる形で吐露をしてしまった。それを聞いた氷華は特にリアクションすることなく、私と同じように楼羅が通過したあとの扉を眺めているように見えた。


「リンリンは、ネーサに楼羅を好きになってもらいたいの?」

「…?」


 帰宅準備をしようと立ち上がった瞬間、まだ座ったままで居る氷華が上目遣いで私にそう訊ねてきた。私はそんなことを言ったつもりはなかったので、少し不思議に思いながらもその質問に答えた。


「…ううん、私はただ知ってもらいたいだけだよ。『好きになって欲しい』だなんて無責任なこと…、私が願って良いことじゃないもん。」

「でも、楼羅の良いところを知ってもらいたいってことは、リンリンも少なからず()()()()()()を願ってるってことなんじゃない?」

「…!?」


 そんなことを考えたつもりはなかったが、氷華に指摘されたことで、私は無意識のうちに自分がそのような願望を抱いているということに気が付いてしまった。『無責任』だと言いつつ…、私は二人が結ばれる未来を心の何処かで描いてしまっていたらしい。


 結局私は否定する言葉が思い浮かばず、それを認める選択肢しか残されていない状況になっていた。


「そう…かもね。でも二人の気持ちを無視してまで、私は自分の願望を押し付けようとは思わないよ。二人共『好意』には繊細みたいだから、その本音が知れるまでは『二人を結び付けよう』だなんて思っちゃ駄目なんだよ。」

「ふふっ…、リンリンは本当に二人のことが大切なんだね。そんなに二人のことを思いやれるなんて、私ちょっと妬いちゃうな。」

「一体何を言っているのか…。私は氷華のことだって凄く大切に思ってるよ。」

「んふっ。それはそれでちょっと照れる…。」


 そう言ってはにかむ氷華に、私は笑顔で手を伸ばし、掴み返された手を引いて氷華を立ち上がらせた。

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