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糊浮きの冊子 Action 13ー10

 最高の有識者である氷華から『楼羅が素直(仮)になる方法』を聞けはしたが、私はその意見にあまり納得が出来ていなかった。


「『お酒』って言われてもなぁ…、この前一緒に飲んだとき、楼羅が空気を読んでないなんて思わなかったよ?」

「あー…、私が一緒に居るときは介抱を見込んで酔わないようにしてるみたいだから、この前のじゃ分かんないと思う。前に親戚の集まりがあったとき、私が居ない席で楼羅がそこそこ吞んでたみたいなんだけど…、あとから親戚に話を聞いたら、配慮や温情なしに淡々と物事を喋るようになってたって言ってたんだよね。私も少しだけ様子は見たんだけど、人生論を語り出したおじさんに対して『余計なお世話なので他所行って下さい』って言ってたし、確かにそうなのかもなーっとは思った。」

「うわぁ…、それはレアだ。そんなこと言って、楼羅はおじさんには怒られなかったの?」

「ん?逆におじさんがショック受けてしおらしくなってたよ。『いつもなら素直に俺の話聞いてくれてたのに』…って。おじさんは楼羅のことをスポンジか何かと勘違いしてたみたいだから、急にコンクリートブロックを殴った感じになって痛かったんじゃないかな?」

「あ、そりゃ痛いわ。」


 素面ではあり得ないだろう楼羅の応対を聞き、私はお酒の力を信じ始めていた。


-(お酒かぁ…。確かに『本心』は聞けそうだけど、オプションで『棘』が付く可能性があるからなぁ…。)-


 私の中で【酔っぱらい】のイメージは、どうしても怒りっぽいものが思い浮かんでしまい…良いものだとは思えなかった。普段の生活で感情の起伏が少ないだけに、楼羅のそういった一面を引き出してしまう可能性を考えると、効果はあれど採用はすべきではないとも思えてきた。


-(かと言って有効手段は捨てたくないしなぁ…、一応確かめてみるか…。)-


「楼羅ってさ、お酒に酔ったら怒りっぽくなるの?」


 私のその問いかけに、氷華は迷うことなく首を横に振った。


「ううん、そんなことはないよ。本当に空気を読まなくなるだけ。喜怒哀楽も変わらないし、声量も表情もいつも通り。ただ…空気を読まない!(n回目)」

「空気…ねぇ。」


-(そのくらいであれば問題は無…、いや、他の問題があるな…。)-


 私は軽く『楼羅と一緒にお酒を飲む』というシチュエーションを想像したのだが…、想像の中の私は、即座に壁とぶつかってしまっていた。


「その状態の楼羅と会話してみたい気はするんだけど…、多分氷華と同じように、私が一緒にいる場だと酔う程お酒飲んでくれないよねー…。」

「ま、そうだろうね。リンリンのお酒の強さがまだ不明瞭だし、楼羅も引率意識が高いから、酔う程飲みはしないと思うよ。()()()()()()()()()()って分かってたら、楼羅も介抱しなくて済むから遠慮することなく付き合うんだろうけど、そういうシーンは中々…ねぇ。」


-(飲む相手が…、お酒に強い…?……あ。)-


 私は今…、頭の中でとんでもないシチュエーションを構築してしまった。


-(いやいや…、もうちょっと考えろ自分。私は楼羅から寧勇への気持ちを確かめたいって思ってるのに、その場に()()()()()()()()()()()()()思考は、流石に頭が悪すぎるだろぉ…。)-


 私は安直に『お酒に強い人物と楼羅を一緒に飲ませればいい』と考えてしまったのだが、その結果思いついたのが『寧勇と二人きりで飲んでもらう』という…、実に頭の悪い構想だった。私や氷華が同席してしまっては、楼羅は絶対に酔う程飲んでくれないので、そこは席を外さなければいけなかった。だけどそれでは『本音を聞く』という本来の目的が達成出来ないので、先に二人だけで飲ませておいて、あとから合流するという手段を使えばワンチャンいけなくもないか…と、頭の悪い私は考えてしまっていた。


「……。ねぇ、氷華。」

「なに?」

「私達って、来週一週間はバイトで忙しいでしょ?」

「うん…、そうだね。」

「寧勇は『来週どこかで集まれたら良いね』って言ってたよね?」

「…言ってたね。」

「楼羅って、平日はあまり店の手伝いに出てないよね?」

「リンリン…、まさかとは思うけど…。」

「あぁ…、そのまさかだ!」(?)

「や、やめろリンリン。それをやると、…、えーっと、その…、何かヤバいぞ!」(?)


 私の急な悪ノリ(三文芝居)に、氷華はカミカミになりながらも乗っかってくれた。


「止めてくれるな!『あとから合流する』って言えば、きっと楼羅も分かってくれる!!」(??)

「な、何故だ。なぜ楼羅が怪しむと分かっていながら、そんな無茶な飲み会をセッティングしようとするんだ!」(??)

「私は!素直に!喋る!楼羅と!話してみたい!!」(???)

「……え。それだけ?」

「それだけ。」

「二人を良い感じさせようとかいう…、そーゆーやましい気持ちは?」

「ない!」

「あ、ないんだ…。」


 私がただ『楼羅を酔わせたいだけ』だと知った氷華は、急にテンションが元に戻り(むしろ元より下がり)、毒気を抜かれたような表情を私に向けた。氷華は私に別の期待(?)をしていたようだったが、楼羅から『気遣うような真似はするな』と釘を刺されていた私は、その辺りはちゃんと守るつもりでいた。


「二人をくっつけようとか…、そういうことは一切考えてないよ。単純に私の希望(お酒)と寧勇の希望(集合)が噛み合いそうだなって思っただけ。」

「確かに噛み合ってはいるけど…、楼羅は私達が仕組んだって疑うんじゃない?」

「疑うも何も、寧勇が望んだっていうのは事実なんだから、問題はない…はず…、あれ…?」

「どうかした?」

「(まだ)恋人がいる人と二人っきりで飲ませるのは問題…かな?」

「うん…。それ普通に問題だよ。」

「うん…。普通に忘れてたわ。」


 やましい気持ちが無いとは言え、仮にも恋人が居る人と二人っきりで過ごさせるというのはいかなるものかと…、今更になってようやく気が付いてしまった。


-(何で先に気づかなかったんだろう…。やっぱり私の頭が悪かったんだろうなぁ…。)-


 いくら友達とは言えど、自分の恋人が男性と二人きりでお酒を飲むことを、望月さんが快く許すとは思えなかった。それは相手が『望月さんだから』という訳では無く、あくまでも『世間一般的に』という私の解釈だった。


「はぁ…、流石にこの案は捨てるしかないか。出来ればフェスまでに楼羅の素直な言葉を聞きたいとは思ってたけど…、単なる私の我儘だしなぁ。」

「まぁ、リンリンの思いも分からなくはないけどね。楼羅って、自分の欲よりも周りの空気を優先しがちだから、本当はどう思ってるのかって気になっちゃうんだよねぇ。」

「うーん…。」


-(そもそも、寧勇を同席させた場で『寧勇のどういうところが好ましいのか』って聞こうとしてたのが間(場)違いな訳だし、ここは潔く諦めるしかないか。)-


 そう思い、ため息をつこうとした瞬間、氷華が突然『あ!』っという声を挙げた。


「え、何!?」

「そうだ。ネーサを()()()()に泊るよう…誘ってみるのはどう?」

「えっと、家飲みして一泊…ってこと?」

「そう。これなら時間もお酒の量も気にせず、皆で集まって楽しめるでしょ?介抱なんてしなくても、酔った人は適当に寝かせておけばいいんだから、それぞれ自分が飲む量を気にする必要もないし。さっきリンリンが気にしていた倫理的なことも、これならいつもと同じような状況になるし…何も気にする必要はないでしょ?」


-(確かに…、『氷華の部屋に泊ってお酒を飲む』という案であれば、寧勇にも…そして望月さんにも変な思いはさせないはず…。楼羅に至っては自宅な訳で…、巻き込まれ側な故に『モラルがどうこう…』という問題は無い…。)-


「うーん…。中々の妙案ではあると思う…。」

「良いじゃん、皆でお泊り飲み会。これならバイト終わりのリンリンだって時間を気にせず参加出来るし、楼羅は強制せずとも参加が見えてる。あとは寧勇次第だけど…、さっきの小旅行への食いつきを見る限り、外泊への抵抗はなさそうだから、良い返事をくれそうな気はするんだよね。」


 いつの間にか、氷華は私よりも前のめりになって飲み会について考えてくれていた。もしかしたら、氷華には私以上に楼羅や寧勇に思うところがあったのかもしれない。その思いが何なのか…、私にはよく分からなかったが、私と氷華の思惑が上手く重なれば、楼羅から素直な思いを聞き出すことが出来るのではないかと、私は思い始めていた。

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