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糊浮きの冊子 Action 13ー3

「お邪魔しまーす。家の方に入らせてもらうのは久々な気がする。」

「そうだっけ?とりあえず私の部屋に入っててもらっていい?私は一旦店の方に顔を出して『帰って来た』って報告してくる。」

「了です。」


 氷華の家に到着し玄関に入った私は、当然のように単独行動を許されてしまった。氷華は私を家の中に押し込むと、何の疑いも無く私を放置して店舗側へと去って行ってしまった。最近ではこういう機会も少なくなっていたが、高校の頃は週末の度にこんな感じだったので、放置も留守番も既に慣れっ子になってしまっていた。


-(本当に久々だなぁ…。今年は夏コミに参加してなかったから手伝いにも来なかったし…、半年ぶりくらいになるのかな?)-


 靴を脱いで家の中へお邪魔すると、私は言われたよう氷華の部屋に向かって進み始めた。その足音に気づいてこの家の番犬ペットであるパグの【藍原さん】が私の足元にトコトコと近づいてきたが、侵入者である私に藍原さんは全く吠える様子がなかった。


「藍原さん…、しっぽ振ってくれるのは嬉しいけど、侵入者が来たときはちゃんと警戒しないとダメでしょ?」


 そんな私の警告に藍原さんは聞く耳を立てず(まぁ…パグだもんなぁ)、小さなしっぽをひたすら振りながら『かまってくれよ』と言わんばかりに私をずっと見つめていた。その扁平な顔立ちのせいか、愛嬌よりも重圧的なものを感じてしまった私は、ついに藍原さんを抱きかかえ…、そのまま氷華の部屋へとお持ち込みしてしまった。



「あー、藍原さん!またリンリンに媚び売って部屋に入れてもらったんでしょ?」

「いや、媚と言うより圧がね…。藍原さん、ちゃんと自分の武器を分かってるみたい。」


 カップ飲料を二つ手に持った状態であとから部屋に入って来た氷華は、私の太股の上に乗る藍原さんを見て呆れ顔を浮かべていた。しかし主がどんな反応をしていようと、藍原さんは何食わぬ顔で私の足を占領していた。私は少し悪戯をするように足を組み直したりしてみたのだが、藍原さんは当然のようにその組み直した足の上へと乗っかって来た。


「藍原さん…、めっちゃ足好きだよね。一体()()()に似たの?」

「こらこら。」


 氷華は持っていた飲み物を私に手渡すと、空いた両手で藍原さんを抱きかかえた。


「藍原さん…、女の子の足が好きとか、まるでエロオヤジだよ?あなた女の子でしょ?」


-(あ、やっぱり氷華()に似たんだ…。)-


 美少女好きの氷華に影響され、藍原さんは見事女子の魅力に憑りつかれてしまっていた。氷華に抱きかかえられ、説教を受ける藍原さんの顔には『あんたのせいや』と書かれているように、私には見えてしまっていた。


「藍原さんは楼羅の足には乗らないの?」

「乗らなーい…。大体私かお母さんの足元に居ることが多いかなぁ。どちらかと言うと、楼羅は藍原さんにとってアクティブ要素だから、楼羅の元に『居座る』って言うよりも『連れ出そう』とする動きの方が目立つね。」

「藍原さん…、自分の欲望に合わせて主を使い分けてることかい?」


 床に降ろされた藍原さんを見つめ、私がそう問いかけると、藍原さんは言葉を理解したように舌を出して首を傾げた。


-(これはあざとい…。)-


 氷華は藍原さんを部屋の外に出そうとしていたが、私たっての希望でこのまま部屋の中に居てもらうことにした。アニマルセラピー的な効果なのか、私は藍原さんと一緒に居ることで随分と癒されているような気がしていた。藍原さんは再び私の足元にやって来ると、そのまま私達の会話を大人しく聞いていた。


「ハカセさんの告知動画を見て私みたいな考察をしてる人、今のところまだ出てきてないなぁ。少しくらいは居るかと思ったけど…、これは民度が高すぎて()()()口を塞いでるってことなのかな?」

「いや、単純に誰も気づいてないだけだと思うよ。まぁ言っても初日だし、明日以降になればチラホラ出てくるかもしれないね。」

「それもそうか。…で、氷華の方の考察は何か進展したの?海や花について何か分かった?」


 右手をスマホ、左手を藍原さんに添えていた私は、両手を使い分けながらも氷華との会話(考察)を続けていた。私としては何気なく聞いたつもりの質問だったが、スマホ画面を見ている私に『ん~…』と言う唸り声が聞こえて来たことで、氷華が思いの他悩んでいるのだということに気が付いた。慌てて寧勇の様子を窺うと、その顔は無表情ながらも曇っているように私には見えてしまっていた。


「えーっと、それなんだけど…。どうやら小さいころの私って何故か海が苦手だったみたいで…、波の音を聞くだけで大号泣してたらしいんだよね…。」

「え…、溺れたトラウマでもあるの?」

「ううん、両親曰く『最初から』なんだって。だからあんまり海には近づかないようにしてたらしいんだけど…、それだと私の記憶にある海は何なのかってことになるでしょ?いつの間にか海嫌いは克服してたみたいなんだけど、()()()()()ってところを考慮すると、克服した後の記憶とは考えにくいんだよね。」

「まぁ…、そうだね…。」


 家に誘われたからには()()()()()()()が待っているものとばかり思っていのだが、寧勇の件と同様…、知ることで混沌と化す情報だったらしい。この記憶の肝である"朧げ"という部分から『幼少期の頃ではないか?』と疑っていたが、その説に関しては見直す必要があるようだった。


「う~ん…。あと『朧げな記憶』として考えられるのは、無意識のうちに視界に入ってた景色とかじゃない?ほら、電車やバスの窓に流れる景色とかだったら、自ずと記憶は朧げになるでしょ?それなら子供の頃じゃなくても、直近で見た可能性も出てくるんじゃない?」

「確かに…、意識してなければ記憶は朧げになるかもね。でも、そうなると探すヒントが無くなってしまうから、出来れば数少ないながらも、子供の頃に行った海であって欲しいと思ってしまうよねぇ。」

「その海が何処かは分かってるの?」

「うん。割と有名なビーチだったから、両親もちゃんと覚えてた。だけど検索して画像を見ても、私の記憶にある海とは全然違うように思えた。整備された可能性や、写真の角度にもよるんだろうけど…、現地を見ないことには否定も肯定も出来ないなーって思った。」

「そうだよね…。」


-(なんせ…視覚じゃなく嗅覚で思い出した記憶だもんね。()()()()を見たところで、あてにはならないだろうなぁ…。)-


「あ、そうだ。その()()()()()って写真に残してたりしないのかな?子供のときなら、例え大号泣してたとしても、思い出として納めてる可能性はあるんじゃない?」

「それはあると思うよ。でもアルバムとかにはしてなくて、ほとんどがデジカメのデータとして残してあるだけだから、探すのは割と大変かも。」


-(チッチッチ…、甘いな。)-


 徒労を気にする氷華に対し、私は軽くドヤ顔になってアドバイスを口にし始めた。


「それは大丈夫だと思うよ。ソフトを使えば関連するワードを入れるだけで検索してくれるから、⦅海⦆とか⦅青⦆とかで調べれば、見る写真の数は絞っていけるはず。流石に私がよそ様の家族写真を検索する訳にはいかないから、それは氷華が今度やってみて。やり方は教えるから。」

「うん、分かった。ウチって卒業アルバムくらいしか冊子状態の思い出は残してないから、あんまり写真を見返す機会って無いんだよね…。データを全て見返してたら、きっと鑑賞会になって時間が奪われてたに違いないな。」

「分かるー。漫画の整理してるつもりが、いつもまにか読書になってるあの現象でしょ?」

「そうそう。私もついこの間やっちゃってさ。一年…、いや二年前のものかな?同人系のイベントに持ち込んでたスケブが部屋の掃除中に出てきて、つい見返したくなって…掃除が進まなかったんだよねぇー。」

「何それ!?私も見たい。」


 脱線話あるある…、この話に花が咲いたことで、ものの見事に私達は主軸の話から脱線してしまっていた。(戦犯:私)

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