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コラージュに混じる姫と王子 Action 12ー9

「あ、もしかして道に迷ってる感じですか?良かったら俺達が案内しますよ!」


- (マジかぁ……。)-


 ハカセさんのポップアップストアを目指し、最寄り駅に到着した私と氷華は、駅を出て早々…不覚にも二人組の男性に声を掛けられてしまった。普通に歩くことさえ出来ていれば、目立つことなく【モブの一部】として風景に溶け込めていたかもしれないのだが、ちょっとした立ち往生しているうちに、私達は目を付けられる対象となってしまっていた。


-(マジでやらかした…。ちゃんと店舗に近い改札を通っていれば、迷うことなく最短距離を歩けたのに…。)-


 楼羅から心配されていたということもあって、私は事前に店舗までの道のりを頭に入れて来ていた。だけど改札内の構造に疎い私は、本来出るべきだった改札とは違う場所から駅の外に出てしまい、結果として道のりを見失い、声を掛けられるという事案に遭遇してしまった。


-(私は兎も角…、氷華をどうにかして守らないと。じゃないと……。)-


「……。」


 隣にいる氷華の様子を窺うと、私の予想通り…、その目は声を掛けて来た男性二人組の胸元辺りを、虫を見るように睨みつけていた。あまり褒められる表現ではないと分かっているが、氷華のソレは、殺意とも取れるような嫌悪感で既に満たされているような状態だった。


-(まっずい。)-


「あー…、お気遣いなく。迷ってないですし…、このあと予定もあるんで…。」

「え、予定があるんだったら急いだほうがいいよね?俺達が案内した方が絶対早く付けるから、そこまで一緒に行こうよ。」


-(うわぁ…。この強メンタル怖ろしいんですけど…。)-


 目の前の男性が氷華に話しかけしまわないように、私は男性からのタゲを出来るだけ自分に集中させようと試みていた。目の前の信号が変わるタイミングで走り出せばどうにか撒ける気はするが、奇しくも信号は先程変わったばっかりで、私達の助け舟にはなってくれそうになかった。


「大丈夫です。結構です。何を言われても一緒には行きませんので、お引き取り下さい。」

「…ねぇー、なんでそっちの子はずっと顔伏せてるの?もしかしてモデルとか?ちょっと顔見せてよ。」

「…!?」


 私が相手にならないと察したのか、男性は氷華にターゲットを移してしまった。顔を覗き込もうと、一人の男性がおもむろに近づいてきたのと同時に、ついに氷華から『チッ…』という舌打ちが放たれてしまった。


-(あ…、ヤベ…。)-


 氷華のストレスがMAXに達したことを感じ取った私は、事態が悪い方へと転がることを危惧した。自分に興味を持つ男性のことを【敵】だと思っている氷華は、ナンパ野郎に対し…とんでもない暴言を吐いてしまうという恐れがあった。それを回避しようと私は努力していたが、舌打ちが出てしまった以上、もうその暴言は止められそうになかった…。


「…籠崎さん!?」


 氷華の不機嫌を止められないと悟ったその瞬間…、二人組の男性の後ろから、()()()()()()私を呼ぶ声が聞こえて来た。


「…え?」


 あまり聞きなれていない声に、私も一瞬戸惑ってしまったが、二人組の男性も…、そして氷華も、突然ビジターが現れたことで言葉を失ってしまっていた。


「こんにちわ。この間ぶりだね。」

「はr…(じゃなかった)、()()さん!?」

「…良かった。見間違いじゃなかったようだ。」


 そこに居たのは、この間顔見知ったばかりの寧勇の養父【折坂春一】さん…その人だった。


「どうしてここに?」

「さっきまで友人と一緒に近くのお寿司屋さんで食事をしていたんだ。奢ってくれるって言うものだから、つい街中までおびき出されれしまってね。」

「そう…でしたか…。」


 そう言って会話をしながらも、私が男性二人組を視線で牽制していると、それに気づいた春一さんがその二人組に声を掛け始めた。


「君達はこの子達の友人かな?何だか怖がっているように見えるけど…、喧嘩でも始めたのかい?」

「あ、いや…、俺達は…。」

「ただ、道案内をしようと…。」


 友人との食事ということもあってか、春一さんは中々に格好の良い姿をしていた。見た目もスマートで、清潔感溢れるその見た目は、正に【イケオジ様】と言った感じだった。そんなイケオジ様によって私達の間を遮られた男性二人組は、途端に態度がしどろもどろになり、段々と後ずさりを始めていた。


「すまないけど、案内だったら間に合っているので、ここはお引き取り願おうか。この子達に何かあったら、()に顔向け出来ないんでね。」


 春一さんが紳士な態度を保ちつつも威圧する態度を見せると、二人組の男性は何も言わず、そそくさとその場から立ち去って行った。急な出来事に、隣に立っていた氷華はついて行けてなかったようだが、さっきまでの不機嫌オーラはどうやら収まってくれたようだった。


「はぁ~…。ありがとうございます。声を掛けて頂いて、本当に助かりました。」

「どういたしまして。こんなおじさんでも、役に立てたなら何よりだ。」


 私はしっかりと頭を下げ、春一さんにお礼を告げた。隣で棒立ちになっている氷華は、未だに何が起こったのか分かっていない状態だったので、顔を上げた私は、直ぐに春一さんのことを説明しなければいけないと思って口を開こうとした。


「この人はっ…--。」


-(あ…、何て言って説明しよう…。)-


 私は氷華の顔を見つめたまま、続く言葉が発せられずに立ち尽くしてしまった。キョトンとしている氷華…、それと目を泳がせている私を見て、春一さんはクスクスと笑っていた。


「すまない。横入りしてしまったのだから、まずは僕から名乗るべきだったね。僕は折坂春一と言って、籠崎さんとは知り合って数日の、うーん…、しがない管理人おじさんだ。」


-(管理人おじさんとは…?)-


「あの…、【折坂】って言うことは…、つまりネーサの…。」

「君もあの子と友達なのかな?だったら話は早い。僕は折坂寧勇の保護者だよ。」

「あー、だからさっき『娘』って言って……。あっ!助けて頂き、ありがとうございますっ。」


 イケオジ様が寧勇の保護者だと理解した瞬間、氷華は慌てて春一さんに頭を下げた。いくら男性の相手をすることが苦手な氷華と言えど、助けてくれた【友人の保護者】相手に、礼儀を欠いた態度を示すことはなかった。


「君も籠崎さんも気にする必要はないよ。僕はたまたま通りかかったに過ぎないんだから。」

「そうだとしても…、お手数おかけしたことに変わりありません。私は特にああいう場面が苦手だったので、本当に助かりました。」

「そうか…。君は…、いや、何でもない。」

「…?」

「まぁそういうことなら、次からはこういった人の多い場所をあるくときは、出来るだけ悠然とした態度で行動することをお勧めするよ。ああいう奴らは、弱みを見つけて足をすくおうとしてくるから、その()()()()()()()()()幾分かはマシになるはずだ。」


-(あぁ…、成程。だから寧勇と一緒に居るときに、私達は声を掛けらたことが無いのかぁ…。)-


 あんなに美人な寧勇が、不思議と声を掛けられない事実に私はようやく納得した。ぱっと見で分かる寧勇の完璧さに、相手は隙を見つけられず…声を掛けることが出来なかったということなのだろう。文句のつけようがない【高嶺の花】…、それが折坂寧勇という人物なのだろう。


「分かりました。出来るかどうかは分かりませんが、それなりに意識してみますね。心配して頂きありがとうございます。」

「いえいえ。僕はもう行くけど…、くれぐれも気を付けて。危なくなりそうだったら、ちゃんと逃げるんだよ?」

「はい。折坂さんもお気をつけて。」


 私がそう言うと、春一さんは片手を軽く上げてからこの場を去って行った。人混みの中に消えていくその背中を見送っていると、ふと氷華が呟いた。


「ねぇ…、今の人って【ネーサのお父さん】でいいんだよね?」

「うん…。私も知り合ったばかりだから、詳しく人柄を知ってる訳じゃないけど…、それがどうかしたの?」

「ううん。随分若い人だなーって思っただけ。」

「私も初めて会ったときはビックリしたけど、あれでも四十代後半なんだって。あの歳であの見た目は格好良すぎだよねぇー。」

「……。」


 氷華の話に合わせて私が年齢に対する驚きをを語ってみたが、肝心の氷華はと言うと…、そこに関心を示すようなリアクションはしていなかった。もう見えないはずの春一さんの姿を見つめるようにして、氷華はぼんやりと何かを考えているようだった。


「氷華?」

「何となくなんだけどさ…、ネーサのお父さん、少し楼羅に似てる気がしない?」

「楼羅に?うーん…、失礼を承知で言わせてもらうと、楼羅はあんなに愛想良くないと思うけど…。」

「見た目じゃなくて雰囲気って言えばいいのかな…。声のトーンも然りなんだけど、話し方や接し方が似てると言うか…。」


 氷華にそう言われ、二人の『人に対する接し方』をそれとなく照らし合わせてみたら、それなりに似ていると思える部分が見えて来た。人に関心は示すけれど干渉はしない…、少しベクトルは違うかもしれないが、そういうところは似ていると言えなくもなかった。


「まぁ言われてみれば…、似てるところはあるかも。手は伸ばされてるんだけど引張はしないと言うか…、良い意味で委ねられてると言うか…。」

「うん、そんな感じ。だからなのかな…。ほんの少し話しただけだけど、この人は決して私に()()()()()()()だろうなーっと思えて()()()()。」

「ん~…。私だから氷華の言いたいことは分かるけどさ…、傍から見れば支離滅裂してるよ、その言葉。」

「ふふっ…、確かに。」


 氷華特有の安心基準に、私達は呆れ笑いを浮かべるしかなかった。興味や関心を持たれることが苦手な氷華にとっては、誰かに助けられることすらも『不快』と捉えられる案件になってしまう。それを掻い潜った春一さんは、氷華にとっては貴重な人物ということになるのだろうが、その位置に立っている男性は他に楼羅しかいない為、氷華は春一さんのことを『楼羅と似た人』と捉えざる負えないのだろう。


-(氷華も中々難儀だよなぁ…。逆に言えば、氷華は自分を好きにならない人にしか、好意を持てないのだから…。)-


 氷華の愛はリターンの無い相手にしか注がれない。キャラクターにしろアーティストにしろ、氷華は次元を超えた相手しか愛せない性格()なのだ。

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