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コラージュに混じる姫と王子 Action 12ー5

「折角楼羅がその気持ちを打ち明けてくれた訳だし、私としては何かしらの力になりたいんだけど…。その前に少しだけ楼羅に確認しておきたいことがあるから、聞いてもらっていいかな?」

「何?」

「楼羅は寧勇のことを『憧れ』としての好きなのか、『恋愛』としての好きなのか分からないって言ってたけど…、私はこの話を聞いた最初の瞬間に、楼羅が寧勇に対して『同情』してるんじゃないかと思ってたんだ。」

「同情?」

「…そう。だって楼羅言ってたでしょ。『寧勇は恋人との関係が上手くいってないから、自立しようとしてるんじゃないか?』って。それって少なからず寧勇のことを憐れみの目で見ていないと、言えない言葉だと思うんだよね。」

「あー…、うん…。確かに言った…かも。」


 そう言いながら、明らかに気落ちしている楼羅を見て、私は慌てて言葉を追加した。


「あ、別にそれが悪いことだって言ってる訳じゃないよ。私はそれが【楼羅】にとっても【私】にとっても『勘違いだった』ってことが言いたかっただけ。」

「え?」

「だって…、寧勇は恋をしていないって自覚があるんだから、恋で悩む必要はないんだもん。寧勇は恋人と別れたいから自立するんじゃなくて、自立したいから恋人と別れようとしてる。それって憐れむような話じゃないでしょ?」

「うん、それはそうだけど…。」


-(うーん…。この反応を見る限り、楼羅はまだ気づいてないなぁ…。)-


 私の説明が下手なせいか、楼羅は私の指摘する()()()に気づいてくれていないようだった。私としては、楼羅が自分の気持ちと向き合う際に弊害となり得るであろう『誤想』をどうにか除いてあげたいのだが、楼羅からは思ったような反応が得られなかった。


-(と、なると…、ここはもっと分かりやすく()()()沿()()()()をして、楼羅には理解してもらおう…。)-


 そう思った私は、今の消極的な空気を切り替えようと思い、楼羅の目の前に両手を構えると、その手を一度だけ大きく叩いた。


「(パァーン)…はいっ!じゃあここで一旦気持ちを気持ちを切り替えて()()()!」

()()()?」

「はい、楼羅()に問題です。」

()?」


 私の無理くりなテンションの上げ方に、楼羅はたじろぐような表情を見せていたが、私は構わずそのテンションを保ち続けたまま話を続けた。


「寧勇は何故、私達に自分が小薬さんだと正体を明かし、自分の活動を手伝って欲しいと言ったのでしょうか?」

「え…?だからそれは…、恋人と別れたあとの、新たな活動拠点が必要だからでしょ?だから俺達に手伝ってもらいたくて…--。」

「はい、0点。」

「何でぇ!?」


 私の謎テンションに引っ張られたせいか、楼羅は採点に対し激しいツッコミを入れていた。やっと楼羅からそれらしい反応が貰えたことで、私は話に手ごたえを感じることが出来た。(これには思わずニンマリ。)


「活動拠点が必要なら、恋人と別れなければいいじゃん。喧嘩した訳でも、相手を嫌いになった訳でもないんだから、それで問題ないはずでしょ?」

「いや、それを望んでないから寧勇は別れようとしてるんでしょ…。」


 私の言ったことを、楼羅は当然のように否定した。その否定が何を意味するのか…、それを分からせる為に、私は一言だけ呟いた。


「……。()()?」

「……。」

 

 その一言を聞いた楼羅は、私を見つめたまま一瞬固まってしまっていた。


「『何で』って…、それは……。」


 我に返った楼羅は慌てて口を開こうとするものの、そのあとに続く言葉が中々出てこない様子だった。さっき私の言葉を否定したのだから、楼羅はその答えを分かっているはずなのに、それを言葉にすることが出来ず、困惑の表情を浮かべていた。


-(やっぱり…、ちゃんと心で理解するのって難しいよね…。)-


 頭では理解出来ている…、それを楼羅に思い知らせたことで、とりあえず私は一旦満足した。だけど、その様子があまりにも心苦しく思えてしまい、私はすぐさま楼羅に助け舟を出すことにした。


「さっきも言ったけど、私は『他人を巻き込んだズルい考え方』に説教しただけであって、寧勇の居る『甘えっぱなしの環境』を否定した訳じゃない。今の()()()()()()()()()()()()()()()()()であって、その過程に『恋人と別れる』っていう項目があるに過ぎないんだよ。」


 その言葉を聞いた楼羅は、ようやく私が望んでいた()()()()()()()()の顔を見せてくれた。


「つまり俺達は、恋人が居た場所を埋めるための()()()()()()ってこと?」

「そういうこと。寧勇は恋人と手を切るから私達と手を組んだんじゃなくて、私達をパートナーに選んだから恋人と別れる決断をしたんだよ。」

「マジか…。」


 勘違いに気づき、寧勇の本当の思惑を知った楼羅は、事実を受け止めきれていないのか茫然としていた。

 

「誰かの意思に甘えるんじゃなくて、自分の意思で生きる道を選びたい…、そんな感じのことを寧勇は言ってたと思うよ。」

「それと似たような台詞、私も聞いたことあるよ。『成長の証として自分の我儘を通していきたい』って、ネーサがこの前言ってた。」


 ちゃんとした事実味を持たせてあげようと私が寧勇の言葉を転用すると、それを聞いていた氷華も私と同じように寧勇の言葉を転用し、それを楼羅に教えてあげていた。それを聞いた楼羅は『そっか…。』とだけ呟くと、伏し目がちに悠然な表情を浮かべていた。


「ここまで聞けば、もう寧勇が『同情』の対象ではないってことは分かるよね?それを踏まえて、楼羅には自分の気持ちと向き合って欲しい。二人の間を取り持つことは簡単だけど、それはちゃんと楼羅が望むような形で叶えたいから、私は楼羅が決めるまで何もしない。それで良いよね?」

「…うん。そうしてもらえるのが一番有難い。出来るだけ今まで通り、普通の状態でこの気持ちと向き合いたい。だから氷華も…」

「へ?」

「変に俺を気を遣うような真似はしないでくれ。当然、寧勇に探りを入れるような真似もナシで頼む。」

「そんなの分かってるよ…。私って信用足りてない?」

「いや、そんなことはないけど…。」

「あっ、だから私だけ教えて貰えてないんだ!」

「何を?」

「ネーサの言っていた【バックアップしてくれてる人】が【恋人】だってこと、知らなかったの私だけなんでしょ?」

「「……。」」


 不満気な態度で愚痴を溢す氷華を見て、私と楼羅は思はず『やってしまった』という空気を放出してしまっていた。


-(しまったぁー…。私から恋人については語らないつもりだったのに、つい二人()が気づいている(てい)で喋ってしまっていた。)-


 同棲の事実を知らない氷華にとっては、『バックアップを断つ』→『拠点移動』→『同棲解消』→『恋人解消』という一連の繋がりは見えていなかったはずだった。なのに、私がうっかり『恋人と一緒に居ること』=『現状の活動拠点』だということを提示してしまった為、【寧勇の恋人】がバックアップ元であることを氷華に気づかせてしまっていた。


-(楼羅においては、自力で気づいていそうな場面が何度かあったから…いっそ開き直れる。それでいて『あえて私に話させまい』と、あえてその手の話題を避けてくれていた気もする…。)-


 そんな楼羅の気遣いも空しく…、墓穴を掘ってしまった私は『氷華どう説明すべきか』と考え始めていた。色々と言葉を探っていたそのとき、説明義務が生じているであろう私よりも早く、楼羅が氷華に向かって弁明をしようと口を開き始めた。


「氷華だけが知らなかったって訳じゃないよ。俺だって、二人からは本当に何も聞かされてなかった。ただ何となく『そうなんじゃないか』と思ったことを口にしたら、燐がうっかり肯定してしまったってだけなんだよ。」

「うわぁ…、つまり楼羅はリンリンにカマを掛けたってこと?」

「そうそう…。そういうことだから、これ以上あまり燐を困らせないようにしてくれ。俺だって、悪いことをしてしまったなぁーっと思ってんだから、燐に責任を感じられると困る。」


 そう言って氷華をなだめる楼羅の姿は、【兄】という言葉を強く感じさせるものだった。楼羅は私が犯した失態を自分のせいにし、氷華が感じてしまったヘイト的な感情を全て自分に差し向けようとしてくれていた。その楼羅の行動に、私は申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。悄然とした状態で二人を見つめていると、ふと目が合った楼羅が、氷華に気づかれないように『()()()()()』の五文字を口で象り、そのまま軽く笑って見せた。


-(ホント…、損する性格だよ、それ…。)-


 いつだって自分の意欲をしまいこんでしまう楼羅に、私は少しずつ歯痒さを感じ始めるようになっていた。

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