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コラージュに混じる姫と王子 Action 12ー2

 ハニートラップと言うのは些か誇張表現になるかもしれないが…、概ねの事態を把握した私は、寧勇と楼羅に対し凄く申し訳ない気分になってしまった。無意識のうちに片肘をつき、指先でおでこを抑えるような姿勢をとると、私は黙ってここに至る経緯を考え始めていた。


-(ん~…、散歩と交渉が重なったのはたまたまかもしれないけど…、『現状のデバイスを知りたい』って言い出したのは私だしなぁ…。その交渉風景を見たせいで、楼羅が寧勇に対し疑問を抱くのは…、些か責任を感じるというか…、あれぇ?)-


 私がこの件にどう関与しているかのかを楼羅に説明をしなくてはと思ったが、口外出来ない事情が多々ある為、納得且つ上手い説明文を直ぐに組み立てられなかった。頭を抱え思考を巡らせる中、私は()()()()にふと引っ掛かりを覚えた。


「燐?ずっと頭抱えてるけど…、やっぱり俺、いらないこと言ってしまった感じかな…?」

「ううん、そんなことはないよ。楼羅が一人で考え込んでしまうよりは、ちゃんと言って貰った方が私としても嬉しいし。」


 今まで伏目がちだった楼羅が、私を心配することでようやく目を合わせようとしてくれた。私は楼羅を安心させる為、テーブルについていた片肘を正し、綺麗な姿勢に座り直して見せた。そして、私が引っ掛かりを覚えたその言葉の意味を確かめる為、楼羅にその真相を聞いてみた。


「……。ちょっと気になったんだけど、どうして()()()なの?さっき、寧勇に対する気持ちを『好きかも』じゃなくて『好き()()()かも』って言ってたよね?」


 そう問うと、楼羅は優しくも少し苦しそうな表情を見せ、その答えとなる言葉を紡ぎ出した。


「だって、俺がその気持ちに気づいたのは、恋人と一緒にいる寧勇を見たからだよ?これが恋愛的な好意だったのかは自分でもよく分からないけど、少なくとも実ることがないのであれば、それは『過去』ってことで終わりにした方がいいでしょ?」


 その言葉を聞いた私は、何故か喉の奥が締まるような感覚に襲われていた。これが自分に対する『怒り』なのか、楼羅に対する『哀しみ』なのかも分からなかったが、私が納得出来ていないことだけは確かだった。


「じゃあ…、何でその『終わったこと』を…、わざわざ私に教えようとしたの?」


 私は締まる喉から懸命に声を出し、楼羅の意図を汲み取ろうと試みた。私のか細い声に、楼羅は少し驚いていたようにも見えたが、直ぐに冷静且つ淡々とした口調で、その意図を教えてくれた。


「…止めてもらう為だよ。俺も一応男だからね、何かあってからじゃ遅いでしょ。」

「『何か』って…、そんな…。」

「燐が寧勇のことを『大切な友達』だと思ってるなら、俺のことを無条件で()()()()()()()()()()()()()。それを伝えたかったんだ。」


 そう軽く言って見せる楼羅を見て、ついに私は我慢が効かなくなってしまった。出来るだけ感情的な発言にならないように心がけていたつもりだったが、今の発言で、私の感情のストッパーが外れてしまった。『哀』の感情が約半分を占めていたが、泣くことだけはどうにか我慢した。


「ねぇ、それは違うよ。楼羅()()が損な役回りを負う必要はないんだよ。」

「燐…?」

「だって、楼羅は『好き』って気持ちに気が付いただけでしょ?何でそれだけで『信用しちゃダメ』ってことになるの?」

「『何で』って…。そりゃ俺が【男】ってこともそうだけど、寧勇に恋人が居るって知っていながら情を抱いてしまったんだから、モラル的にも俺が…--。」

「そうじゃなくて!」

「…!?」

「何で楼羅は、私が信用する気持ちまで勝手に弄ぼうとするの?自分が我慢する立場にならなきゃいけないって考えるの?信用するかしないかなんていうのは、相手が決めることでしょ?それは楼羅が決めていいことじゃないよ!」


 楼羅に抱く『信用』を(ないがし)ろにされた気がしてしまい、私は珍しく…楼羅に対して()()()()()()ような姿勢を見せた。『信用するかどうかは私が決める』…、そう言うつもりで楼羅に強く出たが、私の意見を聞いた楼羅は『分かってない』と言わんばかりにため息をつくと、鋭い目つきで私を見つめた。


「じゃあ燐は、俺が寧勇を傷つけることがあったとしても、後悔しないと言い切れる?」


 まるで私を試すように楼羅が柄にもないことを言ったことで、『怒』が『哀』を追い抜いた私はとうとうキレた。


()()()!傷つけられたかどうかは私や楼羅じゃなく、寧勇が判断するでしょ?楼羅を信用しようがしまいが、寧勇が受け入れる可能性がある以上、私は勝手に後悔しない!」

「はぁ…、そんな可能性ある訳…--。」

「本当に無いと言い切れるの?…気持ちを伝えても無いのに。」

「……。」

「……。」


 お互いがお互いを睨み合い、数秒間の沈黙が流れた。


 先に動いたのは楼羅だった。私から目を逸らした楼羅は、分かりやすく首を傾げて、再び私を見つめ直した。


「あのさぁ…、どの口がそんなこと言えんの?寧勇の内情を知ってて、よくそんなこと言えるよなぁ。」

「どの口も何も、寧勇のことを知ってるからこそ言ってるんでしょーが。」

「知ってるんなら普通止めるでしょ…。何で告白煽って寧勇を困らせようとしてるんだよ…。訳わかんねーよ…。」

「……。それは…--」


「ネーサが()()()()()()()()()()()()?」

「「ぅわっ!?」」


 急に隣のテーブル下から声が聞こえ、私と楼羅は飛び跳ねる位の勢いで驚いてしまった。テーブル下を覗くと、まるで子供のかくれんぼのように身を屈める氷華の姿がそこにあった。氷華は上目遣いで私達を見つめていて、その表情は、私達の険悪ムードに引きずり込まれたかのような顔つきだった。


「ちょっ…、そこで何してんの!?」

「…課題出し終わったあとに、まだ二人とも居るかなーっと思ってラウンジ覗いたら、何か喧嘩してるみたいだったから…、普通に顔出すのが怖くて…。」

「だからってそこに屈む必要は無かっただろ?」

「だって…、二人が喧嘩してるところなんて初めて見たし、仲裁の仕方も分からないから…。…。」


-(だからこっそり話を聞いてたって訳か…。それにしても…。)-


 私はテーブルの下で膝を抱える氷華を見て、そのしおらしさをとても珍しいと感じていた。いつもであれば、割とさっぱりとした感じで二人の会話にも入って来るのに、今の寧勇は入念に空気を読んでいる感じがした。


-(…ん?『空気を読んだ』というか…、もっと重要なことを読まれてたような…。)-


 さっきの寧勇が言っていたことを思い出した私は、その瞬間、顔面蒼白&茫然自失の状態に陥ってしまった。


-(あ゛ぁ゛ー……。)-


 私は思わず瞼を強く閉じ、現実から目を逸らしてしまった。

 何も言い出せなくなった私を見て、ようやく楼羅もさっきの言葉に気がついたようだった。


「ねぇ…、さっきのはどういう意味?『寧勇が()()()()()()()』って言うのは、やっぱり今の恋人とは()()冷めてるってこと?」

「…どうだろう。あくまでも私の直感だから、何も確証はないんだけど…、そのハンカチを見つめていたときのネーサが、本当に恋をしているときの表情なんじゃないかなぁっと思えたから…。」


 テーブル下から抜け出した氷華はゆっくり立ち上がると、置きっぱなししていた楼羅のハンカチを指差してそう言った。瞼を開け、その指差す光景を見た私は、もうこれ以上言い逃れが出来ないことを悟った。

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