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コラージュに混じる姫と王子 Action 12ー1

「へぇー、寧勇が使わせてもらってる音響機器、確認出来たんだぁ。」

「うん…。寧勇が上手いこと口利きしてくれて、どうにか作業部屋に入らせてもらうことが出来たんだけど……(汗)」

「無理に説明しようとしなくて良いよ。それを話そうとすると、二人…いや三人にとって不都合なことがあるんじゃない?」

「うーん…、前から思ってたけど、その察しの良さは気遣い過ぎて損してない?」

「そんなことないよ。俺にとって、これが一番ストレスのない生き方だと思ってるから。」

「そう…、なら良いんだけど…。」


 望月さんの作業部屋に入れてもらった次の日、私は寧勇が現状使っているデバイスについて情報を共有する為、放課後のラウンジを使用して楼羅と二人で会話をしていた。


 実はと言うと…昨日私が歌ったあと、まだ収録前だという真千さんのオリジナル曲を『仮撮りだけど見せてあげる』と言って、望月さんが一曲丸々歌ってくれるサプライズがあったりもした。未発表の曲なので口ずさむこともNGなのだが、私はその歌を忘れたくなくて脳内で何度も再生していた。(たまに鼻歌になりかけていたが、多分セーフ)

 そんな感じで、昨日一日で様々な()()()()を背負った私は、どうやってデバイスを知った経緯を楼羅に説明しようかと色々考えていた。だけど楼羅はいつも通り、『都合の悪いことは言わなくていい』という主義を通し、前もって私の言い訳を阻止しようとするあまり、その概要さえ聞こうとしなかった。


-(寧勇の言う『サポート相手』が【音楽関係者】であり【寧勇の恋人】だと気付いてるから、楼羅は何も聞かないことを徹底してるんだろうなぁ…。下手に知れば毒になりかねないし、無理に教える必要もないのかもしれない…。)-


 多少の心苦しさを感じつつも、私は楼羅に甘え、何も説明しないままデバイスの件を納得してもうことにした。『聞かれていないのだから隠し事ではない』という言い訳は、きっとこの兄妹にしか通じないだろう。私が【推し】と繋がっているという事実も、言うなれば三年前から隠しているということになるが、『それも推しの為』だと言えば、二人は納得してくれるだろう…と昔から甘い考えを抱いていた。


-(本当…、とんでもない甘ちゃんだよなぁ私…。甘えることばかりで、二人に何もしてあげられてない…。)-


 そういう考えは良くない…と寧勇に指摘されたこともあったが、流石にここまで来ると、自分の甘ちゃんっぷりを反省せざる負えない。



「デバイスの一覧は、私が通販アプリを使ってリスト化してるから、楼羅にも見れるように設定しとくね。それと……。」

「ん?」


 私は隣の椅子に置いてあるバッグに手を入れると、中からチャック付きの小袋に入ったハンカチを取り出し、それを楼羅を目の前に差し出した。


「はいこれ。本当は直接返したかったけど、直ぐ返す方が良いだろうってことで私が寧勇から預かって来た。『ありがとう…って伝えておいて』とも言われたかな。」

「あー…、うん。…。」


 そう返事をし、楼羅は寧勇の元から帰って来たハンカチを手に取ると、何故か急に黙り込んでしまった。ハンカチは綺麗に洗われた上、きちんとアイロンがけまでされていたので、そこに不備があるようには私からは見えなかった。黙り込んでしまった楼羅の意図が読めず、私は沈黙の隙に喉を潤そうと、目の前にあったコーヒーに手を伸ばした。


「燐…。」

「うん?」

「俺、寧勇のこと好き…だったかも。」

「(ブフォッ…)」


 突拍子のないカミングアウトに、私は口に含んでいたコーヒーを吹き出しかけてしまった。ゴホゴホと咽せ続ける様子を見て、楼羅は慌てて私のことを気遣い始めた。


「え!?あ、ちょ…、ごめん。」

「(ゴホゴホ…)」

「あ、ハンカチ使う?」

「(ゴホゴホ…)」(※首を小刻みに振る)


 私は楼羅からハンカチを借りることを断ると、自分のバッグからハンドタオルを取り出して口元を覆った。私達の座っている近くには誰も居なかったので目立つことは無かったが、ちょっとした参事であることには変わりなかった。


「あ゛ー…、ビックリしたぁー。」

「大丈夫?」

「うん…、もう大丈夫。お気遣いありがとう…。」

「いや、元はと言えば俺が変なこと言い出したせいだし…。」

「……。」


 私は困惑する気持ちを隠しきれず、少しの間天井を見上げた。何故突拍子もなく楼羅があんなことを言い出したのかが分からず、私は眉間にしわを寄せため息を漏らした。


「…で、さっきのはどういうこと?何があって急にそんなこと言い出したの?」

「うん、まぁー、その…。」


 自分から言い出したことなのに、何故か楼羅ははっきりとしたことを言おうとしなかった。私に何か言いたいことがあるから、大胆にもあんなことをカミングアウトしたのだろうし、ここで()()()()()()()()()()()()と考え、私は楼羅の思考を読み取ろうとした。


-(言葉を濁そうとしてる?…と、なると…。)-


「楼羅、()()()()()?」


 私のその問いかけに、楼羅は力なく『…うん。』と頷いた。


-(やっぱりか…。どこまで言って良いのか分からないから、言葉を選ぼうとしてたんだろうなぁ…。)-


 私はテーブルの上で腕を組み、少し前のめりになるような姿勢で楼羅を見つめた。


「どうする?別に私も楼羅から根掘り葉掘り聞くつもりは無いよ。だけど…、楼羅から言い出したってことは、何か私に『言いたいこと』か『聞きたいこと』があるってことだよね?」


 私が出来るだけ柔らかい口調でそう訊ねると、楼羅は口をへの字に曲げて見せた。


「うん…、その通り。多分だけど、俺が見た光景は燐も把握していることだと思うから、言っても大丈夫なんだと思う。一応聞くけど、燐は寧勇の恋人がどんな人か知ってるんだよね?」

「…知ってる。私からその人の情報は言えないけど、知ってるってことだけは確かだよ。」

「まぁ、そうだよね。」

「それで、その恋人がどうかしたの?」


 楼羅は視線を下ろし、テーブル上のある両の手のひらを遊ばせながら、私の問いに答えた。


「俺さ、寧勇の自立話を聞いて、てっきり恋人との関係が上手くいってないのかと思ってたんだよ…。恋人関係が終わるから、サポート関係も終わる…、俺たちに新たなサポートを求めたのは、そういう時系列があったからじゃないかと思ったんだ。」


-(そうか…、楼羅にはそう見えてしまうんだ…。正しい時系列で言えば『自立したい気持ち』が先で、『恋人と別れる決断』が後だから、その楼羅の考えは否定したいところなんだけど…、ここで私が教えて良いものなのか、非常に悩む…。)-


「…とりあえず続きを聞いていい?私が状況を補足するのは、全部話を聞いてからにするよ。」

「うん…。寧勇からのサポートの依頼は、友人として、そして音響技術志望者としてとても光栄だった。寧勇にとって頼れる存在になれたことが純粋に嬉しかった。そう思って少し浮かれてたんだけど…。」

「けど…?」

「偶然、寧勇が恋人らしき人と一緒に歩いている姿を見てしまって…、それを見て、俺は寧勇の考えが分からなくなった。恋人なんだから、隣同士歩くなんて普通のことだと分かっているのに、その光景が違和感でしかなかったんだ。」


-(これは…、少しマズいか…?)-


 話を聞いた感じ、楼羅は寧勇に対し『同情と愛情のミックス』的な感情を持っていたのではないか…と私は思った。楼羅は寧勇のことを、少なからず()()()()()で見ていたのに、当の本人は至って幸せそうなものだから、楼羅はそこに違和感を持ってしまったのではないだろうか…?もしそうであれば、楼羅は寧勇のことを今までと同じような評価で見れなくなってしまうし、小薬さんの活動にも支障をきたし兼ねない。


-(となれば軌道修正は必須!だけど、肝心な楼羅の気持ちがまだ読めない…。ここはもう少しだけ掘り下げるべきか…。)-


「それって本当に寧勇だった?『違和感がある』って言うのは、見間違いとか勘違いとか…そういうことじゃないの?」

「証拠とかはないけど、あれは寧勇で間違いないと思う。外は暗くて、俺も自転車に乗ってたからハッキリと顔を見れた訳じゃないんだけど、あのジャージとあの風貌は、寧勇以外でお目に掛かれないと思う。」


-(その感じだと、望月さんの顔は見られてない…かな?)-


「あのジャージって?」

「寧勇を病院に送ったときに着てたジャージ。」

「あぁー、あれか。」


-(そういえばあのとき、寧勇が『夜散歩に行くとき用のジャージ』って言ってた気がするなぁ…。と言うことは、楼羅が見たのは寧勇と望月さんの『夜の()()』ってことか…。…あ。)-


-『実はね、燐がアーティスト目線の音響機器について興味があることを、()()()()()()壬に話したら……--』-


 一昨日の電話内容を思い出した私は、楼羅が見てしまった光景の真実を把握した。


-(ん!?楼羅が目撃したのって、()()()()()()()()()()に、寧勇が望月さんに交渉した場面なのでは?そうなるとつまり……、ハニトラシーン!?)-

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