[幕間] スポークに弾く夜風と共に
少し夜風に当たろうと、勢いに任せ自転車を走らせたのが失敗だったのかもしれない。
目には見えない曇り空が視界を悪くしていたはずなのに
何故か俺はその存在に気が付いてしまった。
何となく…その視界に入ってはいけない気がして
前を歩くその人影を、俺は抜き去ることが出来なかった。
なので俺は仕方なく、彼女が素通りした脇道に入ることにした。
彼女の後ろ姿を掠めるようにして俺は脇道に入り、その場から走り去った。
だけど見覚えのある装いと、うっすら聞こえた笑い声のせいで
段々とペダルを漕ぐ力は弱まっていった。
-(今思えば、ちょっと寄り過ぎてたかもな…。)-
その時だけだと念を押されていたのにも関わらず
俺は無意識の内に自転車をその方向へと走らせてしまっていた。
漕ぐことを止め、自転車を停車させた俺は
念の為、一度後ろを振り向いた。
誰も居ないことを確認した俺は一度大きく息を吸い
星の無い夜空を見上げながら、その息を全部吐き出した。
-(知ってる事実を見ただけなのに、何でこんなにモヤモヤするんだろう…。)-
俺が抜き去ることを恐れてしまった二人組の人影は
ただ歩いていただけで
俺から三つの回転を奪い去ってしまった。
頭の回転が振るわない俺と二つのタイヤ…
鈍ってしまったそれらを再び回し始めるまで、一体何分の時間が掛かったのか
それすら俺は覚えていなかった。