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仮称・サブスティテュート Action 11ー5

「そ、そんなの私も同じですよ。私だって、望月さんがアーティストを目指すきっかけになってるなんて知らなかったですし、お互い様です。」

「そっか、お互い様かー…。」


 言葉を放つ勢いのまま、望月さんは体を前に傾けると、私の視線の高さに合わせるようにして腰を低くさせた。


「じゃあ、()()()()知識を高め合う為にも、実際にレコーディングをやりながらデバイスについて話していこうか?」

「えっと…、『お互いの』って言ってますけど、望月さんがこの時間に得るものってありますか?私から教えれることなんて特にありませんよ。」

「そんなことないよ。俺、作詞作曲については()()()だから、籠崎さんの作った曲を聞かせてもらえるだけで結構勉強になると思うんだけど。」

「あー…、あんまり期待しないでくださいね。なんせ、流行らせたり売り込むことを目的で作った曲ではないので…。とりあえずダウンロード手順を踏んでも大丈夫ですか?」


 私は望月さんの言葉や態度にたじろぎながらも、パソコンを指差して操作の許可を求めた。


「うん、よろしく。それが終わったら、録音までの手順は俺が横から教えていくよ。」

「分かりました。…。…なんか新鮮ですね、こういうの。高校生の頃は立ち位置が逆だったので、不思議な感じがします。」

「ふっ…、そうだね。やっと先輩らしいことが出来てる気がするよ。」


 私は望月さんに見守られながらパソコンを操作し、RECに必要な音源のダウンロードを開始した。操作画面を見られたことで、私の投稿アカウントは隠す間もなくバレてしまったが、ひた隠しにしていた割には精神的ダメージで重症を負うようなことにはならなかった。


「そういえば、寧勇からは『()が自分で作った曲にボーカルを入れたがってる』って聞かされてるんでしたっけ?」

「そうだけど…、違うの?」


-(目的は『現行デバイスの確認』。仕方なく隠れ蓑の口実を使っているけど…、曲を聞かれる前に上手く訂正しておかないと…。)-


「違うことはないんですけど…、私がREC環境に興味を持った理由は他にもあります。とりあえずこれを聞いてもらえれば、寧勇から聞かされた方が()()()()()の願いだってこと、分かってもらえるかと思います。」


 私はとあるストリーミング画面をパソコンに表示し、それが私の作品であることを望月さんに示した。既に音楽データのダウンロードは済んでいたが、私の作品を理解してもらうには、単に音楽を聴くよりも動画付きで見てもらう方が分かりやすいだろうと思い、この方法をとることにした。私は望月さんにヘッドホンを付けるよう促し、望月さんのタイミングで再生ボタンを押してもらうことにした。


「……。」


 再生ボタンを押し、曲を聞き始めた望月さんは、その曲の何かに気が付いた瞬間、眉間にシワを寄せるような表情を見せていた。ヘッドホンをしていながらも、望月さんは賢明に聞き耳を立て、一言も喋ることなくストリーミング動画の『音』と『字幕』に集中しきっていた。私にはその音が聞こえていなかったが、動画の字幕とシークバーのお蔭で、望月さんが何処のメロディーを聞いているかは把握出来ていた。


-(2分10秒…、もうラスサビを聞いてるはず…。)-


 作曲素人の初めての作品は、正味三分間という割と短いものだった。Aメロ・Bメロ・サビ→Aメロ・Bメロ・落ちサビ・サビという、単調でクセの少ないメロディーを意識したつもりだったが、素人が故、そこには『配慮』というものが欠けてしまっていた。曲を最後まで聞き終わり、ヘッドホンを外した望月さんも、その配慮の無さに気づいてしまったのだろう…。聞いたばかりの曲に対し、望月さんは悩まし気な表情を見せた。


「その…、感想を聞く前に一つ聞きたいんですが、曲中で三回聞いたであろうサビ部分、望月さんなら今すぐ口ずさめますか?」

「そうだなー…、ハミングだけならやれると思う。同じような八小節が二回繰り返されてるだけだから、耳にリズムは残りやすい。だけど、正しく歌詞を歌おうとすると難しいだろうね。活舌と発音に気を取られて、正しいリズムに乗れないと思う。」

「そうですか…。」


 望月さんはパソコンに繋がったヘッドホンをコードを抜き、さっき流していたストリーミングを今度はスピーカーで流し始めた。


「お世辞や色目を抜きにして…、この曲はかなり良いものだと思う。メロディーが変に蛇行していないから、一回聞いただけでも曲調は掴みやすいし、テンポも良くて聞き心地も良い。だけど…。」


 スピーカーから聞こえてくる電子ボーカルを聞きながら、望月さんは苦笑いを浮かべた。


「これは()()()()()()()()()()()()()()()()()な気がするなぁ。もしくは…、『生半可気持ちの人間には歌わせない』と言っているような曲にも思える。」


 私が作った作品は、『全編英語歌詞』『体感BPM190』という、歌う人の活舌を殺しに行くような曲になっていた。氷華がこの曲の為に作ってくれた動画をみれば、音を聞かずとも…字幕の速度でそれは実感出来る。視覚と聴覚…、その両方でこの曲を体感した望月さんは、不思議そうに私を見つめていた。


「うーん…、何で俺の歌を聞いた影響で出来た曲が、こんなに難しいの?」

「いやぁー…、決して難しい曲を作ろうとした訳じゃないんですよ。私がしたかったことを、やれる範囲でやろうとしたらこうなったんです。」


 私は頭をかくフリをして、その手で表情をうまく隠した。曲を聞かれたことによって恥ずかしい気持ちと、想定外の曲を用意してしまった申し訳ない気持ちで、ちゃんと目が合わせられなかった。


「私がこの曲を作ろうと思ったのは、真千さんの歌を聞いて『残す』ということをしたくなったからです。」

「残す?」

「はい…。」


 私はパソコン画面に視線を向けたまま、この曲が出来た経緯を説明した。


「このときの私は、まぁ何と言いますか、ちょと心が病んでまして…、『いつ死んでもいっか』くらいの考えで毎日生きてました。そんなときに、偶然【真千】さんの歌を見つけて、それが望月さんだと気づいたときに思ったんです。『どんな形であれ、人は生きている証を残せるだ』…って。何か証になるものを残せれば、きっと誰かが見つけてくれる…。自分の生きている証を残してみたい…。気づいたら、そんなことを想い始めてました。」

「えっと…、『病んでた』っていうのは?」

「あ、そこは特に気にするようなことではないですよ。誰だって、一度はそういう経験あるんじゃないですか?逃げたくなったり、やる気が無くなる時期…、それと同じです。実際に死のうとした訳じゃないですし、そこは安心してください。」

「あー…、うん…。」


 私は望月さんに要らぬ心配をさせない為に、そこだけはちゃんと目を見て話しをした。私が軽く笑いながら話をまとめると、望月さんはそれ以上何も聞かずにいてくれた。

 私は再び視線をパソコン画面に向け、流れている動画を見ながら話を続けた。


「『何を残すか』って考えたとき…、すぐに思い浮かんだのが『曲』だったんで、私は手探りで作曲を初めました。同じように『歌好き』だった今の友人達が、私に協力してくれたんですけど…、その途中で『歌詞を書ける人が誰もいない』ってことに気が付いたんです。まぁ『書けない』って言うよりは、全員語彙力の無さを露見させたくないって思ってただけなんですけど…。結果、その打開策として私が思いついたのが、()()()()()()()()()()()でした。安直な考えですけど、日本語以外で詞を書けば簡単に意味を読み取られずに済んで、語彙力の無さもバレないと思ったんです。」

「つまり…、歌詞が英語の理由は()()()()ってこと?」

「そうです。歌詞以外の部分でも、初心者なりに色々計算はしたんです。『曲は三分に納める』とか『無理に16小節を作らず8小節を繰り返す』とか『BPMは90から100』とか。そう思って作った曲のはずなのに…、完成したものは、まるで5、6分の曲を倍速で聞いているようなハイテンポ曲になってました。」


 私がこの曲に()()()()()ボーカルが入れば良いなと思っている理由…、それは『曲』と『歌詞』が割に合っていないと理解しているからだった。

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