アソビじゃないナミダ
今回も過酷だわあ……。
この子は俺が助ける!
いずれな!
――ああ、情けない。なにもできないくせに口ばかり達者な俺。やりたいことは山のようにあるのに、手をこまねくばかりだ。俺は何と無力なのか。何故、俺は『彼』に憑依したのだろう。疑問は尽きない。歯がゆいことに、そのような日々はまだまだ続く。無視され、虐げられ、蔑まれ、村八分の過酷さ恐ろしさを目の当たりにし続けた。
今なら、『本当は恐ろしいエルフ』というタイトルでグロ小説が書けるだろう。
今はとにかく、この村の人々が許せん。それと同じくらい何もできない己にも、怒りとやるせなさが蓄積していく。
「なあゴブリン、お前は母親の寿命を吸って生まれてきた忌み子なんだって!」
『彼』を虐げる村人の子供、その筆頭である村人Dの少女が、狩りの訓練だと宣い『彼』を狙って矢を放ちながら言った。他の子供も嗤いながら囃し立てる。鏃はないが矢は本物だ。当たりどころが悪かったら、大ケガは免れない。『彼』は必死に逃げた。
「ゴブリン、逃げろ逃げろ~」
「やれ、そこだ! やっちまえ!」
「ゴーブーリン、ゴーブーリン!」
「死ね!」
無論、『彼』は何を言われているのかもわからず、ただ恐怖を味わいながら逃げ惑う。
「あう、あう……」
この子には苦痛と恐怖しかない。なのに苦しい気持ちを吐き出すだけの語彙も知識もない。『彼』が意味のある言葉をしゃべったことなど、一度としてないのだ。
俺は泣いた。肉体がなくとも号泣した。涙枯れ果てるまで泣いて、その雫で『彼』の自意識が育まれるなら、魂を削ってでも泣きたい。
とりあえずこのクソガキ共は許さんぞ! 例え、心ない大人に追従しているだけだとしても。二十年も生きていて、何も感じず何も考えないなどあり得ない。こいつらはわかってやっているんだ。知っててわざとそうしてる。楽しんでいる。
どういう事情があるにせよ、俺はこの村の者共全てを呪う。死ぬまで呪う。末代まで祟る。この恨み、晴らさでおくものか。絶対に忘れんぞ! 覚えてろ!
と、一際強い衝撃に視界がブレた後『彼』は倒れた。まただ。また火花が散る。まさかとは思ったが、恐れていた事態が起きた。矢が当たったのだ。おのれえ、ガキ共!
いかん、『彼』は己の肩口に刺さった矢を、抜こうとしている! まずいまずいまずい。この矢が太い血管を傷つけていたら、出血多量でショック死してしまうかもしれん。
俺は懇願した。この世に神と呼べるものがいるのなら、頼む! このまま『彼』を死なせないでくれ!
――――、俺の魂を捧げるから!
……俺の人生が無為に終わったなどとは思いたくない。唐突に死んだら、誰だって未練を残すだろう。その理不尽を呪う。もし帰れるのなら、これが胡蝶の夢ならば、また元の俺に戻りたい。
だけど。だけれども。
俺は『彼』に感情移入していた。『彼』の苦しみを見て憐れみ、『彼』の痛みを見て嘆き、『彼』の不幸を見て怒った。『彼』が救われることを願った。幸せになってほしいと祈った。愛されてほしいと希求した。
『彼』がお前達に何をした!?
俺は五十年近くを費やした生を捨てても、『彼』を救いたい。
俺の残りの命、君に捧げる!!
俺の強い意思が神に届いたのかーー。俺の熱量とも呼ぶべき何かが『彼』に届き、矢が抜け血がどくどくと流れる肩口に集中した。
頼む。治ってくれ!
「死んだ?」
「すげー血、気持ちわりい!」
「あはっ、動かない。死んだんじゃない?」
「どうする?」
「……」
「……」
「見つかったら怒られる?」
「わっかんねーけど、とりあえず捨てとこうぜ」
「さんせー」
「俺も」
「あたしも!」
残酷な子供達。彼らは悪戯を隠すくらいの感覚で、『彼』を山に引きずっていき、下に川原が見渡せる浅い草むらに投げ捨てた。
貴様らの罪科はこの眼に刻んだ。
この俺が参戦したからには、ただじゃおかん。
お前らはもう
お終いDEATH(°皿°)¬!!
おっさん、次回こそ本気出す。