密室から抜け出したい
がたん。
大きな音と激しい揺れで、私と先輩が乗るエレベーターの電気が消え動きが止まった。
「砂川先輩!」
「大丈夫か、小花さん。停電で閉じ込められたようだ」
「怖いです」
「無理もない」
砂川先輩はそう言うと、スマホのライトで非常ボタンを探し、助けを求めた。
「しばらくしたら助けが来るはずだ」
「ありがとうございます……。でも怖いです」
私は暗いところが苦手だ。先輩がいるとわかっていても、やはり怖い。泣きそうだ。
「これを観るといい」
そう言って先輩はスマホの画面を私に向けた。
「くりくりまるですか?」
先輩の飼っている柴犬が無邪気に遊んでいる動画だった。
先輩なりに私を元気づけようとしてくれているのだろう。
今私は恐怖で気持ちがやられている分、優しさでも泣きそうになっている。
「そうだ。生前のな」
「え?」
死んだの? くりくりまる死んだの?
どういうこと? 聞いてないんだけど。
「呆気なかった」
暗くて顔が見えない分、余計に淡々と聞こえる。
「うそ……」
「本当だ」
お別れの挨拶も言えていない。
不安と恐怖と悲しみで、私の気持ちは限界を迎えた。
自然と涙がこぼれた。
「なんで言ってくれなかったんですか!」
「それはだって」
「だってじゃないです!」
「落ち着いてくれ、小花さん」
「落ち着けるわけないでしょ! こんな状況でそんなこと言われて!」
くりくりまるが死んだなんて、今言わないでよ。
あの無邪気なくりくりまるが頭に浮かぶ。
「小花さん、違うんだ。このくりくりまるは小花さんの知っているくりくりまるの母親だ」
「え?」
先輩は何を言っているのだろうか?
「このくりくりまるは出産と共に亡くなった。その時生まれたのが小花さんの知っているくりくりまるだ」
「母親と名前が一緒なんですか?」
「ああ。他の名前を考えていたが、あまりにも似ていたからな。そう名付ける他なかった。だからくりくりまるは世襲制だ」
紛らわしいわッ! 変なとこでスぺるなよ!
でも……ってことは……。
「じゃあくりくりまるは生きてるんですね?」
「ああ、二代目くりくりまるは健在だ」
「よかったぁああ。うわあーん」
安心して涙があふれた。
その時、扉が開かれ光が差し込んだ。
「大丈夫か!?」
作業服の大人が入ってきた。
「うわあーん」
「怖かったか? もう安心だ。ん? 君、この子に何かしたのか?」
作業服の大人は砂川先輩を疑うように言った。
「いえ、僕は何も……」
私は意地悪をしたくなったので、しばらく助けなかった。