水槽の中のナウシカ
なろうサイトの使い方がよくわからないので、昔自分のブログ(http://masasheavy.dip.jp/blog/ 自宅サーバで立ち上げたものの電気代バカにならなくて10年くらい前にこのサイトは閉じましたので現在このURLは存在しません)に載せた駄文を書き込んでみました。
これから魚を飼おうという初心者(かくいう僕も初心者だが)が金魚や熱帯魚などを飼うことを趣味にしている人に「まずどうしたらいいですか?」と尋ねるとおそらく「水槽を立ち上げる」、或いは「水をつくる」方法についてのレクチャーを受ける事になるだろう。
曰く、こんな感じ。「濾過器や底砂のセットは終わったね。じゃあ、水を入れようか。水槽に水を入れるときは水道水そのままじゃダメだ。塩素を抜かないとダメだぞ。・・・注水完了っと。それでは早速熱帯魚屋さんに魚買いに行こうか、なんて言いたいところだけどあわてちゃダメだぞ。
この水槽はまだ"水"が出来ていからね。今、この水槽に魚を入れると濾過器で水を循環させてもゴミを濾過するだけでフンが原因のアンモニアとか分解してくれないから、弱い魚ならすぐ死んじゃうよ。出来れば濾材や水槽の水に分解バクテリアが定着するまで待つべきだな。分解バクテリアは空気中にも居るからそのうち水槽に住み着くよ。理想的には数週間空の水槽の水を濾過器で循環させとくのが望ましいね。
え?そんなに待てない?じゃあパイロットフィッシュ(パイロットフィッシュというのは一見英語風だが実は和製英語である。というか英語圏でパイロットフィッシュって言うとそういう名前の魚が居るんで全く違う意味になる。英語では水槽の水造り目的で最初に入れる魚の事は"starter fish"などと呼ぶらしい)でも入れとこうか。そうだなアカヒレなんかだと値段も手頃だしかなりの水質悪化にも耐えるから大丈夫だよ。多少はバクテリアの餌になるフンとかあった方が水槽立ち上がるの速いからね。」
えーと、あの、僕はアカヒレ君達はメインで飼うつもりなんでパイロットフィッシュにする気はないんですが。
要は水槽の水や底砂、濾過装置などにアンモニアや亜硝酸を分解するバクテリアを常在させることが「水をつくる」事であり「水槽を立ち上げる」事なんだね。
水槽の中で排泄物が分解される過程は大まかにいうとこんなプロセスだ。
排泄物→亜硝酸→硝酸
これは自然界の生分解プロセスに近い。近いけれど、完全ではない。自然界では
排泄物→亜硝酸→硝酸→窒素その他
と、硝酸を分解するプロセスまである。すげぇ、ここまで再現できれば水槽の水換えなんて不要になるじゃん。でも実際はそうはならない。硝酸を分解する菌を水槽内で常在させるのは困難なのだ。では何故硝酸を分解するプロセスが中々水槽下で再現できないのだろうか?それはアンモニアや亜硝酸を分解するバクテリアが好気性菌(酸素を必要とする菌)であるのに対し、硝酸を分解するバクテリアは嫌気性菌(酸素が不要な菌)だからなのである。
酸欠を防ぐためにエアレーション(水中の溶存酸素量を少しでも稼ごうとブクブクさせる)しまくりで水深も砂や泥の層も浅い限られた水槽の中で嫌気菌に適した環境を造るのは不可能に等しい。仮にエアレーションしていなくても魚や植物(光合成して酸素を吐く植物も呼吸はしている。)が生存できる程度の水中溶存酸素を確保しつつ、同時に嫌気環境を確保するのには水槽は狭すぎるのだ。
ということで今のところ頻度の差こそあれ水槽は定期的に水を取り換えて水槽内の硝酸を減らさなければならないのである。
甚だ不安定且つ不完全ではあるが、アクアリウムには小さな生物圏の再現を目指している部分が多分にある。良い悪いは別にして。
生物圏の再現ということでふと思い出したのが、「風の谷のナウシカ コミック版」である。劇場版ではなくコミック版。劇場版でもただひたすらに人の生存域を脅かす腐海(とそこに住む王蟲を始めとする生物)が実は瘴気と総称される毒物を分解する者であることを示して生態系への造詣の深さをみせてくれていたが、コミック版では更に主題を掘り下げている。未読の人に申し訳ないから詳細は書かないけれど、とても興味深い世界観だ。
アクアリスト(魚とかを飼うのを趣味にしてる人)なら普通に読んだ後に、アクアリウム関係の用語に脳内変換して読んでみるのも面白いかと思う。例えば瘴気をアンモニアとか、無毒化された結晶を「こりゃ硝酸塩だな」とか「ええーっ?旧世紀の人々からすると、ナウシカたちもパイロットフィッシュ扱いだったのかよ ! ヒデェなこりゃ。ナウシカ怒るのも無理ねーな」とか片っ端から置き換えてみると世界観が多少判り易くなるかもしれない。