第二王子の感情
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「妾腹で卑しい。」
それは自分にとって聴き慣れた言葉だった。
この国の王家では一夫多妻制ではないが、一つだけ掟があった。
国王が王妃を娶ってから4年経っても子供が生まれない場合、側妃又は妾を持つという掟だ。
現国王である父の正妃であるレティシア様がそうだった。2人は誰からみても相思相愛であったが、掟を破ることは許されず、国王は妾を娶った。
それがイヴォンヌ・ウォールデン伯爵令嬢、俺の母だ。
ただ、その母にも中々子供はできず、結局王妃であるレティシア様が先に身籠り、王子を産んだ。
母もその3ヶ月後に俺を産んだが、周囲からの言われよう酷いものだった。
その理由の一つは、嫡子である兄が非の打ち所のない完璧な存在だったということだ。
何でもすぐに出来てしまうし、次期国王としての威厳も持っていた。
それに比べて、俺は出来が悪かった。
何に関しても完璧にできるまで時間がかかったし、何よりも兄のように自信がなかった。
いつも何かに追われていたし、胸を張れることがなかったのだ。
周囲には陰口を囁かれるし、だんだんと性格がねじ曲がっていったようにも思える。
母はそんな人ではなかったのに。
俺が覚えている母の姿はとても静かな人という印象だ。王妃殿下には礼儀を尽くし、決して出しゃばらない。
王妃殿下を溺愛する国王にとってうってつけの人物だった。
実際、母上と王妃殿下は仲が良かったように思われる。
ただ敵だらけの場所で、安定しない身分で生き続けるのは辛かったのか、だんだんと憔悴して俺が6歳の時に亡くなった。
そんな母は、最期ですら静かで綺麗だった。
『エルヴィス、これから貴方はきっと辛い目に遭うでしょうね。そばにいてあげられないのがとても悲しい。でも覚えておいて。自信を持って生きることが何よりも大事なのよ。』
母が寝台の上でか細い、それでも芯の通った声で言った。その言葉は今でもはっきりと覚えている。
でも、『自信を持って生きる』そんな生き方が分からなかった。
最近までは。
ある騎士が言ったのだ。
俺の愚痴に近い言葉に対して、
「そんな事を言った人達は馬鹿ですね。」
貴族ですらない平民のその騎士はその後も高位貴族の陰口を否定し続け、母を褒めた。
素晴らしい方だったに違いない。と。
初めてだった。母への称賛を聞くのは。
王妃殿下は時々懐かしそうに、寂しそうに母の事を話すが、それは思い出であって賞賛ではない。
国王である父も母に対しての言葉は申し訳なさが含まれ、負い目を感じていることが窺えるだけだった。
この騎士は母の事を知らないだろう。公の場に顔を出さなかったのだから顔すらも。
でも、称賛の言葉を口にした。
俺に気を使ったのかもしれない。ただ、それを口にした時の目は真剣だった。
また、自分より遥かに位の高い者達への罵詈雑言を聞いて体がふと軽くなった。
今まで自分は自分自身を追い込みすぎていたのかもしれない。
兄上と1番比較していたのは自分であったのかもしれない。
そう思ったのだ。
「お前の名は?」
最後にそう聞くと、その騎士は笑って、
「私の名はセリスです。」
堂々とそう告げた。
その笑顔は先染めの白百合のようでそれは美しかった。
俺もふと笑みをこぼし、
「覚えておこう。」
そう告げてその場を後にした。
その日の夜、王城のバルコニーで兄上と鉢合わせた。感情が表に出ない兄上には珍しく楽しげな表情を浮かべていたので、
「何か良いことでもあったんですか?」
思わずそう尋ねると、
「…。ちょっとな。それよりも、お前から話しかけてくるなんて珍しいな。」
兄上はそう言って口元を緩めた。
そういえば、兄に対するコンプレックスのせいでずっと兄を避けていたような気がする。
バツの悪い気持ちで佇んでいると、
「お前にも何か良いことがあったみたいだな。表情が柔らかい。」
兄は俺の肩を軽く叩き、部屋の中へと戻っていった。
やっぱり兄上には敵わない。
そう思ったが、その気持ちには嫉妬心はなかった。




