恋煩い
視点がセリス、ゼン、ミリアナへと移り変わります。
「いつにも増してぼーっとしてるけど、どうしたの?」
久々に学園に来た私にレアナが不思議そうに話しかけてきた。
「えっ、私そんなにぼーっとしてた?」
自覚がなかったものだから、多少驚きながら聞き返す。
「してたわよ。もしかして恋煩い?」
レアナは悪戯っ子のような笑みを浮かべながら尋ねてきた。
「こ、恋煩い!?そんなわけないでしょ!」
一瞬、ゼンの姿を思い浮かべてすぐに頭を横に振る。
「怪しいわね。図星じゃないの?」
「違うってば!!」
そう。私は恋なんてしている場合じゃないのだ。
今はヒロインがどう動くかを見極めることが一番大事なんだから。
「そういえば、第二王子殿下とミリアナ嬢、最近一緒にいるところを見かけなくなったわね。」
さらっとレアナが話題を変えて言った。
「そうなの?」
最近、学園にはあまり来ていなかった私はあまりそこらへんのことを知らない。
「そうよ。前はあんなにべったりだったのに。」
もしかしたら、前に私が言った言葉が第二王子に響いたのかもしれない。
そう思うと、私の頬が緩んでくる気がきた。
「いい傾向よね!」
私が言うと、
「まあね。」
レアナも笑いながら同意してくれた。
「あっ、そろそろ授業始まるわよ。」
レアナにそう言われて私達はおしゃべりをやめ、それぞれの教室に向かい始めた。
き、聞いてない…!
私は廊下を走っていた。
なんと、次の授業が移動教室だったのだ。
友達いないから、誰も教えてくれないし!
というか、認識すらされてないだろうけど!!
そんな事を考えながら走っていると、教室が見えてきた。
よし!何とか間に合う!!
そう思って曲がり角を曲がると、
ドシンッ!!
ちょうどそこを曲がろうとしていた人とぶつかってしまった。
「痛っ!」
思わず顔をしかめながらも、
「ご、ごめんなさい!」
ぶつかった人に慌てて謝罪した。
だって、どう考えても悪いのは私だし!
頭を下げたまま固まっていると、
その人はぶつかった拍子に外れてしまった私の眼鏡を拾って、
「大人しそうな顔して、結構お転婆なんだな。」
そう言った。
その声に何となく聞き覚えがあるような気がして、
顔を上げると…
王太子殿下の姿がそこにはあった。
「お、王太子殿下!?も、申し訳ございません!!」
動揺しまくって私がもう一度謝ると、
「いや、気にしなくていい。それに早く行かないと授業に間に合わないだろ?」
軽く笑って王太子殿下はその場を去っていった。
私はその後ろ姿をじーっと見続け、
ゼンに似てる…。
そんなふうに感じてしまったのだった。
似ていたな。
王太子である自分とぶつかった事で大いに慌てていたさっきの女子生徒を思い出して、俺はふとそう感じた。
華やかな雰囲気のセリスと違って地味な印象を受けたが、顔立ちはそっくりだったように思う。
何よりあの慌てふためいた行動。
セリスの切羽詰まった時の行動と瓜二つだ。
「考えすぎか。」
ふっと笑いながら俺は自分の考えを否定した。
セリスに対する感情を自覚した事で、誰にでもセリスと似ているところを当てはまるようになっているんだろう。
自分の女々しい考え方が嫌になる。
そんなふうに考えていると、
ドシンッ!!
又もや誰かとぶつかった。
別に曲がり角とかではなかったが、考え事をしていたせいで前をよく見ていなかったのかもしれない。
すると、
「ごめんなさい!」
ぶつかった相手が謝ってきた。
「いや、こちらこそ申し訳なかった。」
さっきと違って悪いのはおそらくこちらだろう。
そう思って謝ると、
「いえ、私が悪いんです…。」
何やらぶつかった相手、いや女子生徒は上目遣いで目をうるうるさせながらそう言ってきた。
俺はその瞬間ゲンナリする。
またか…。と。
多分この女子生徒はわざと俺にぶつかってきたのだろう。
いや、俺というより王太子と言ったほうがいいのか。
こういった輩は何人も見てきた。
今、俺には婚約者がいないから次期王妃の座を狙っているのだろう。
おそらく、この女子生徒も。
何度も繰り返されたこういった行動に反吐が出そうになりながらも、
「いや、俺が前をよく見ていなかったのが悪いんだ。そちらも怪我がなくてよかった。」
そう言って、俺はその場を去った。
な、なんなの…!?
シナリオ通りなら、
『大人しそうな顔をして、結構お転婆なんだな。』
って言って笑いかけてくれるはずなのに!
やっぱり、城下町で会えなかったから!?
でもそれは私はちゃんと行ったのに現れなかった王太子が悪いのよ!
暴漢すら現れなかったし…。
ああ、何もかもあのセリスっていう女騎士のせいで無茶苦茶よ!
最初はうまく行ってたのに…。
第二王子とは疎遠になるし、王太子は素っ気無いし、アルフレッドやエドワードとなんてほぼ会話すらできてないわ。
エドワードには毎日ちゃんと話しかけてるのに生返事ばっかだし!
何とかして殺さないと。
あの女を排除しないと。
ここは、この世界は、私の世界なんだから!!
ミリアナ、焦ってますね…。




