いざ、侯爵邸へ
やってきましたよ。
わざわざ早起きして、騎士服に着替えて、外に出て、屋敷に入るっていう無駄でめんどくさい作業をしてね!
その上、マリアンヌを改心させないといけないというプレッシャー。
胃が痛くなってくるわ…。
そんな中、私の気持ちを全く知らないエドワードが出迎えてくれた。
「妹は応接間にいる。」
エドワードは私を案内しながらそう言った。
実はというと、屋敷の全貌を私は初めて見る。
一応、侯爵令嬢だというのに情けない話だけど。
そんな事を思いながら、
「言っておきたいことがあるんですけど。」
私は前を歩くエドワードに話しかけた。
エドワードは私の言葉で振り返る。
「えっとですね。1つ、妹さんが改心できなくても私は一切責任取りません。2つ、興奮すると私は敬語抜けます。そこら辺はよろしくお願いします。」
ぶっちゃけ、私はあんまり性格がよろしくない。
暴言を吐かずにマリアンヌを改心させるのは無理だと思うし、私の言葉がマリアンヌに響くかどうかも怪しい。
すると、
「ああ。分かった。」
私の言葉に対して全く表情を変えずにエドワードは答えた。
やっぱり…。
やっぱり、この人何考えてるかわかんない!
今、結構無責任な事言ったような気がするんだけど。
何でこんな徹底して無表情でいられるんだ。
すっごい怖いんだけど…。
「ここが応接間だ。」
なんやかんやで私達は応接間まできた。
マリアンヌとこの姿で会うの初めてだから緊張するな。まあ、私だとは気づかないだろうけど。
そんな事を考えながら、私は応接間へと足を踏み入れた。
中に入ると、不機嫌そうに腕を組んだマリアンヌの姿があった。
そして、エドワードの姿を捉えると怒ったように口を開く。
「お兄様。私に一体何の用ですの?」
それに対してエドワードは全く動じず、
「今日はこの人から話がある。」
そう答えた。
うん。圧倒的に言葉が足りないね。
これじゃ伝えたい事の半分も伝わらないでしょ…。
だけど、マリアンヌはその言葉で初めて私の方を見た。
それから信じられないことに、
「マリアンヌ・イーディスと申します。お見かけしたことがないのですが、どこの御令嬢でしょうか?」
正式な挨拶をしてきたのだ。
エドワードが連れてきたから高位貴族とでも思ったんだろうけど、それでも私にとって衝撃的だった。
驚きすぎて固まっていると、
「彼女は貴族じゃない。第一騎士団に属している俺の同期だ。」
代わりにエドワードが紹介してくれた。
その瞬間、
「じゃあ、この子は平民ってこと?信じられない。ちゃんと挨拶した私が馬鹿みたいじゃない。どうせどっかの貴族の庶子なんでしょう?だから第一騎士団に入れたんじゃない。騎士団も落ちたものね。」
マリアンヌの態度は180度変わった。
は、腹立つ…。
今の私が平民である事も、貴族の庶子である事も間違ってはないけどさ!
第一騎士団に入れたのはコネじゃないっつーの!
どいつもこいつも私が実力で入った事を認めないんだから本当に失礼!!
いや、でもここは我慢だ。私の精神年齢は大人なんだから、子供に本気で怒ってどうする。
そう自分に言い聞かせていると、
「マリアンヌ、その言い方は失礼だ。彼女は騎士としてかなりの実力者なんだ。言っていい事と悪い事があるだろう。」
エドワードが思わぬ言葉を発した。
マリアンヌも驚いたんだろう、
「な、何よ!本当の事を言っただけじゃない!!」
焦って早口になっていた。
まさかエドワードが庇ってくれるとは。
ん?もしかして、エドワードもミリアナに恋しちゃったとか!?
十分にあり得る。私は食事取りに来る以外はこっちの屋敷に来ないし、その間に仲良くなってしまったのかも…。
それならやばい!どうしよ、どうしよ!?
私が乱心していると、
「ふん。とにかく、平民から聞く話なんてないわ。お兄様にはがっかりよ。流石、下位貴族の血をひいているだけあるわ。」
落ち着きを取り戻したマリアンヌが毒づいた。
その言葉にエドワードは反応する。
確か、イーディス侯爵家の末席からもらわれてきたらしいからコンプレックスではあるんだろう。
ここら辺は第二王子と似ているのかもしれない。
えっと、私が何か言った方がいいよね。
「あの、マリアンヌ様。兄君にそのような事をおっしゃるのは…。」
「うるさいわね!高貴な身分である私に平民如きが話しかけないで頂戴!」
……。
あー無理。限界。
ここで私の理性はなくなった。
「あんた、一体何様なわけ?」
私は低い声でマリアンヌに話しかけた。
「ちょっと!なんていう口の聞き方なの!?」
マリアンヌは顔を真っ赤にさせて怒り出す。
「うん。口の聞き方に関しては後でエドワードが責任取ってくれるから大丈夫。」
私はにっこり笑う。
マリアンヌは何かを感じたのか肩をビクッとさせた。
「確かに貴方は侯爵令嬢だからある程度の威厳も必要なのかもしれない。でも貴方に平民を馬鹿にする権利はないわ。」
そんなマリアンヌに私は静かに言葉を発した。
「貴族が平民より偉いのは当たり前でしょう!?」
マリアンヌは即座に反論してくる。
私が言いたいのはそんないう事じゃないんだよね…。
「はぁ…。私が言ってるのはそういう事じゃないわ。『貴族に平民を馬鹿にする権利はない』と言ってるのよ。」
私の言っている事が理解できないのか、マリアンヌは顔を顰める。
だから、私は具体例を出す事にした。
「例えば、貴方は王族の人間から馬鹿にされたり嫌味を言われたら受け入れられる?王家に尽くそうと心から思えるの?」
「そ、それは…。」
マリアンヌは答えに困ったのか口籠る。
「無理でしょう?だから、そんな行為を王族はしない。他の貴族に対しても敬意を払って行動しているわ。なのに侯爵家の令嬢である貴方はそれができないの?」
私が最後まで言い切るとマリアンヌは押し黙って俯いてしまった。
言い返してくると思ったからちょっと意外に感じる。
ただ、そこで私はレアナの言葉を思い出した。マリアンヌはいつの日か変わってしまったと。
使用人にはわがまま放題、婚約者であるレオさんには無口。
実際話してみて思ったんだけど…。
これって、心を閉ざしてしまったって事じゃない?
人が変わる要因は2つあると言われている。
1つはその人にとって自分を変えてしまうような衝撃的な事が起こった場合。
そして、もう1つは
『自分の心が耐えられなくなってしまった場合』
マリアンヌは侯爵夫人によっての一つ目の要因だと思ってたけど…。
もしかしたら…。
「貴方は一体何を恐れているの?」
私は気づけばそんな事を口走っていた。
マリアンヌはパッと顔を上げる。
「私は…私は何も恐れてなんかいないわ!!」
少しだけ体が震えていた。
あぁ、この気持ちを私は知っている。
この子は、恐れてるんだ。傷つく事を。
昔の私みたいに。
「貴方は知らないかもしれないけど…。私はエドワードに頼まれたのよ。妹を助けて欲しいと。これは貴方の母君の遺言だと。」
「えっ…?」
マリアンヌは信じられないといった様子で言葉を漏らした。
「貴方は別に1人じゃないわ。母君もエドワードもいるし、婚約者だっているじゃない。別に1人で傷つかないでもいいのよ。」
1人は苦しい。1人は虚しい。
そんなの当たり前だ。
でも、マリアンヌは1人じゃないんだから。
そう思って私は微笑んだ。
「ありのままでいいのよ。」
「うっ…うっ……。」
マリアンヌはそこで泣き出してしまった。
私はエドワードに目配せして、マリアンヌに声をかけるよう仕向ける。
「えっと、あの、今までお前を気にかけてやれなくてすまなかった。」
不器用だけどギリギリ合格ラインかな。
私は2人を見て微笑ましく感じながらそう思った。
「あの、貴方の名前を教えてくれないかしら。」
少し落ち着くと、マリアンヌが聞いてきた。
私は笑って、
「セリスです。」
一言そう言った。
すると、
「セリス…。あの!また会ってくれないかしら!?」
マリアンヌはちょっと恥ずかしそうに言った。
なんか、元々美少女だとは思ってたけど…。
すごい可愛く見えてきた。いじらしいというか。守ってあげたい感じ?
私はそう思いながら、
「仕事がなければ是非。」
笑って言った。
私の言葉でマリアンヌは安心したような笑顔を浮かべる。
あーやばい…。
マジで可愛いんだけど。
マリアンヌの事が気になっていた方も多いのではないでしょうか?
レオとの仲やヒロインとの関係も気になりますね!
いや、改心してくれてよかった…。




