番外編6 ステラの回想 上
本編に何回か登場しているステラ視点です。
ステラって誰?と思う方は『ペア』や『パーティー客』読んでいただければと思います!
私は書類を渡すために、団長の部屋へと行った。
「団長!入りますよ!!」
そう声をかけて中に入ったのに、団長は気付いていない様子。
何やら、写真を見ているらしい。私は好奇心から、足跡を消して団長に忍び寄り、
「何見てるんですか!?」
大きな声で話しかける。
「うわっ!」
団長は驚いて、その写真を机の上に落とした。
「ん?えっ、これって。」
私はニヤッと笑いながら、団長の方を見る。
「たまたま、机の奥底から見つけたんだ…。」
団長はバツの悪そうに目を逸らした。
「これって、私が騎士団に入ってすぐの写真ですよね。」
もう、9年くらい前か。
私が聞くと、
「ああ。俺がお前を屋敷から連れ出してからすぐでもあるな。」
団長は懐かしそうに言った。
「あの時は若かったですね!」
私が笑いながら言うと、
「お前はまだガキだったろうが!」
団長が言い返してくる。
ふふ。本当はすごく感謝してるんですけどね。
だって、あの時は…。
「ステラ!女の子が剣を持つんじゃありません!!」
母が私が持っていた剣を取り上げた。
「お母様!女性でも剣を持って戦う人はいるの!偏見はやめて!」
15歳になって、背も伸びたし剣の扱い方も上手くなってきたのに。
女だからってしたい事を制限されるのは納得がいかない。
そんな私に母はため息をつく。
「いい?貴方は容姿に恵まれているのよ。今年から社交界に出られるのだから、良い人を見つけなさい。」
そんな母の様子に私はムッとする。
「お母様はそればっかりなんだから。」
そして、私は母に背を向けた。
「ステラ!」
まだ、母の声が聞こえていたけど私は振り返らなかった。
確かに、15歳から社交界デビューできるけど…。
私はそんなの全く興味がない。
それよりも、剣を持って戦う事の方がよっぽど有意義な時間に決まってる!!
そう思えば、貴族が主に通う学園に通わないで済んだのは本当にラッキーだったな。
私の家はかなり貧乏で兄を通わせるだけで精一杯だった。
そこは感謝してるんだけど…。
自由に剣を振れないのはすっごく不満。
「いっそのこと、家を出ようかな?貴族の身分なんて別にいらない。」
貧乏子爵家の地位なんて、ないに等しいし。
「でも、ここら辺はみんな知り合いだし、逃げても捕まりそうなんだよね。」
私はそう呟いてため息をついた。
「1、2、3!!」
私は毎日起きたら、素振りをすることに決めている。
「ふぅ!今日も良い朝!」
12歳の時から、剣は振るってるけど教えてくれる人がいないんだよね。
だから、全部独学。
でも、この村の誰よりも剣の扱いは上手いと思う。
お父様もお母様も剣を振るうのに否定的だから、認めてくれないけど。
そんな事を考えながら剣を振るっていると、
「女のくせに剣なんか振るうな!」
急に後ろからガッと肩を掴まれた。
そういえば、もう1人いた。
私が剣を持つのが気にくわない人。
「女でも剣を振るっている人は大勢いるわ。」
私はそのまま振り返り言った。
「お帰りなさい、お兄様。」
「女は男に媚びでもうればいいんだ。余計な事をするな!」
はっきり言ってお兄様には剣の才能がない。
13歳の私に負けるくらいなんだから。
だから、私が剣を持つと烈火の如く怒るのだ。
本当に幼稚な人。
そう思いながら、
「相変わらずの偏見。老人みたいな考えやめてよね!」
私は兄をぐっと睨んだ。
すると、
「誰が老人だ!お前がそんな事を言ってられるのも今の内だからな。お前は知らないかもしれないが、縁談の話が何件も来ているんだからな。」
兄はそう言ってニヤッと笑みを溢した。
「そんなの聞いてない!まだ、社交界にすら出てないのよ!?」
私は驚いて兄に聞き返すと、
「父上がこの間のパーティーでお前の写真を見せて回ってたからな。その効果だろ?」
兄は得意げに言った。
「だから!そんなの聞いてない、勝手に決めるな!」
私はその言い草に腹が立って、兄を揺さぶりながら耳元で大声を出す。
「おまっ!やめろ、やめろって言ってるだろ!」
「ちょっと、お父様の所へ行ってくる!」
文句を言う兄を無視して私は走り出した。
「その自由な行動やめろ!」
案の定、まだ文句を言ってたけど…知らない!
「どういうことなの!?」
私は父の執務室に駆け込み、すぐに話を切り出した。
「エリオットから聞いたのか。あいつは余計な事を言ってくれる。」
父は顔を歪めながらそう呟いた。
「って事は…本当なの!?」
「お前も、もう15だろう。ちょうどいい年頃じゃないか。」
父は悪びれた様子もなく、言い放った。
縁談が決まったら、今までみたいに自由にできなくなる。
剣なんて、絶対使わせてもらえない。
それなら…。
「だから、お前も剣なんてやめて…」
「それなら、私はこの家を出る!」
私は父の言葉を遮って叫んだ。
貧乏子爵家の地位なんて別にいらないもの。
私は父の目をジッと見据える。
そんな私に父は大きなため息をついて、
「リチャード!」
うちの執事長を呼んだ。
そして、
「縁談が決まるまで、ステラを部屋から出すな。命令だ。」
冷ややかな視線を私に浴びせながらそう命じた。
「お、お父様!」
私は抗議しようとしたけど、リチャードを含めた数人の使用人に無理やり執務室から連れ出された。
「離して!リチャード!!」
私は必死に抵抗したけど、大人の男数人がかりじゃ流石に私も押さえ込まれた。
「お嬢様、お父上の命に従って下さい!」
「嫌よ!」
リチャードの言葉にすかさず、反論する。
だって、だって私にとって自由は…一番大切なものなんだから…。
「何て力なんだ。抵抗しないで下さい。お嬢様…!」
部屋に入れられるまで必死に抵抗したけど、結局私は部屋に押し込まれてしまった。
「リチャード!リチャード!」
それからずっと叫んでいたけど、開けてくれるはずもなく…。
夜になって、食事を持ってきたリチャードがやっと扉を開けてくれた。
「お嬢様…。観念なされて下さい。子爵様は本気ですよ。」
リチャードはベッドの上に蹲っている私を宥めるように優しく言った。
「お父様は私を政略結婚の駒としか見ていないんだわ…。」
そのままの体勢で呟くと、リチャードは押し黙った。
リチャードは私が生まれる前からここで働いている。父の性格をよく知っているからこそ、軽はずみな言葉を私にかけられないんだろう。
「私は諦めないわよ。絶対に。」
私が少し顔を上げてそう言い放つと、リチャードは困ったように笑った。
「応援はしておきます。」
そんなリチャードに私は八つ当たりする気も失せてしまう。
優しいのだ。リチャードは。
「もう行って。」
扉の方を指差しながら私は言った。
そして、リチャードは私に優しく笑い返しながら、出て行った。
翌日
「窓から出る!のは不可能か…。」
私はすっかり!とまではいかないが、どうやってここから出るかを考えるくらいには立ち直った。
あいにく、私の部屋は3階。
出る事はできても、怪我は回避できない。
「本当にどうしたものか…。」
私が熟考していると、
コンコン。
ノックの音が聞こえてきた。
「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。」
私は返事をして、扉の近くへと歩いていく。
もしかしたら、隙を見て出られるかと思ったから。
でも。
「お嬢様、朝食をお持ちしました。」
外にいたのは男の使用人3人。私が逃げないように対策をバッチリしてある。
私はゲンナリしながらも、
「そこに置いておいて。」
そう言った。
お父様は、何がなんでも私を結婚させたいのね。
「最悪…。」
私が小さい頃からずっと夢見た事。
それは、騎士団に入って皆の安全を守る事だ。
そのために、ずっと努力してきたのに。
「いっそのこと窓から出て、怪我でもすれば縁談もなくなるかな?」
私はそんな考えを思いついた。
自分ではあんまり分からないけど、私の容姿は優れているらしい。
それなら、顔に傷がつけば縁談もなくなるかも……。
いや、ダメよ!
すぐにその考えを打ち消す。
そんな弱気じゃ騎士になんてなれない。
もっと良い案はを考えないと。
どんなに考えても良い案は出てこない。
なんか、ムカついてきたわ。
そして、
「イライラするー!」
私はそう叫びながら、拳を宙に打った。
だけど、ちょうどそこに壁があり、
「ぐっ…!痛い…。」
完全なる自業自得。
本当についてない…。
すると、私の頭の上にカレンダーが落ちてきた。
「鬱陶しいな…。」
そう思いながら、カレンダーを手に取ると明後日の所に赤丸が描いてあった。
「確かこれは…。」
『この日はお客様が来るから、粗相のないようにね!』
お母様がそう念を押してきたから、覚えておくために丸したんだっけ…。
そこで、私の頭の中に何かビビっときた。
そうよ…。そうよ!
この日はお客様が来るから、うちの少ししかいない使用人達が総出で準備するはず。
なら、私の食事を持ってくるだけに、3人も来ないわよね…?
いい案よね!?名案だわ!!
よしっ!勝負は明後日よ!
絶対逃げ出してやるんだから!!
続きます。
ステラは15歳の時からこのノリだったみたいですね。




