3日目終了
「どうしたの?何か疲れて見えるけど。」
3日目、最後のパーティー。
アルは早々に女性達をかわしてバルコニーに逃げてきていた。
「いや、別に大丈夫だけど…。」
年に一度の会合。
そんな大事なパーティーを抜け出していてこの男は本当に大丈夫なんだろうか。
「それより、公爵家の嫡男という立場の人間がパーティー放ったらかしてていいの?」
私が呆れたように言うと、
「国王陛下や王妃殿下には挨拶済ましたしね。他にやるべき事はないから。」
アルはきっぱりそう言い放った。
本当に仕事一筋だな。
そんなアルを見ながら私は思う。
真面目だし、誰からも好かれてる。
好青年ってこういう人の事を言うんだよね。
私がジッとアルを見ていると、
「ん?どうかした?」
アルはこっちを向いて尋ねてきた。
「いや、美形だなって思っただけ。」
「それはセリスの方じゃないの?」
私の言葉に軽くアルは反論してくる。
「私?私は別に着飾った貴族令嬢に比べたら普通よ。普通。」
本当に何言ってんだか。
そんなのイケメン完璧攻略対象に言われても全然嬉しくないし!
「セリスは普通を辞書で調べてみるべきだよ…。」
なのに、何故かアルは呆れた様子だった。
納得がいかない…!
そんな会話を続けていると、
「こんな所にいたのか。」
誰かが話しかけてきた。
アルに用事かな?
私はそのまま振り返った。
そして、その人と目が合う。
ん?この人どこかで…。
「こんな所にいたのか。」
僕がセリスと会話をしていると、聞き覚えのある声がした。
慌てて振り向くと、そこにはゼンの姿があった。
ゼンから見たらセリスがいる場所は死角になっていたから、直前まで気づかなかったのだろう。
その証拠にゼンはセリスを見てギョッとしている。
セリスは不思議そうな顔でゼンを見ていた。
この状況は……。
絶体絶命だ。セリスにゼンが王太子である事がバレてしまう。
いくら、セリスが鈍感だからといっても髪と目の色が変わっただけなんだ。
絶対バレる!
そう覚悟していると、
「無礼を承知でお聞きしますが…。どこかでお会いした事はございますでしょうか?」
予想とは裏腹にセリスはゼンに問いかけた。
「いや、初めてだと思うが。」
ゼンは即座にそう答える。
まさか、気づいていない?気づいてないように見える!
今がチャンスだ!!
そう思った僕は、
「ちょっとこの人と話してくるよ!」
セリスにそんな言葉をかけてゼンを連れ出した。
「一体何してるんだ!ゼンが騎士団にいる事がセリスにバレる所だったよ!?」
かなり離れたところでゼンに言うと、
「問題ない。雰囲気を眩ませる魔法使ってたし。」
全く応えた様子はない。
「っていうか無茶でしょ…。セリスにバレないようにするなんて。」
本当の事を話すことも提案したけど、ゼンが首を縦に振らなかった。
多分、今の関係が崩れるのを恐れてるんだと思うけど…。
「あいつ鈍いから大丈夫だろ。」
「いくら鈍くてもバレる日はくるよ!それに早めに言っておかないと傷つくのはセリスだと思うけどね。」
ゼンのあっけらかんとした態度にゲンナリしながらも僕はそう言った。
今は仲の良い同僚くらいの仲だけど、もしセリスがゼンを好きになれば…。身分が違いすぎる。
傷つくのはセリスだ。
「とにかく、今は黙ってろ。もしバレたら…処す。」
横暴だ。横暴すぎる。
「忠告はしたからね。」
僕はそこでゼンと離れた。
「何処かで会ったことあると思ったんだけどな。」
私は戻ってきたアルにそう話しかけた。
あの顔の作り…うーん…。
「気のせいじゃない?セリスは騎士団以外で貴族と顔合わせないでしょ?」
まあ、それはそうだよね。
学園にも一回しか行ってないし。
「そうよね。私の気のせいか。」
あんな美形だったら覚えてるはずだし!
「で、あの人誰なの?アルにあんなくだけた話し方できるのって限られてると思うんだけど。」
私の予想ではこの国の王太子。ゼフィラン・アスタリアだと思うんだけどな。
私が聞くと、
「あの人は…王太子殿下だよ。」
アルは素直に答えてくれた。
「だよね!王族特有の金髪碧眼だったし。」
前世では見ることができなかった王太子。
やっと、見る事ができたわ!!
思ってた通りの完璧なイケメンだった…。
私が喜びを噛み締めていると、パーティー終了の合図が鳴り響いた。
「やっと厄介な会合が終わったね。」
アルはため息をつきながら言った。
「やっと帰れるのね。」
私も呟く。
私は明日休みだしゆっくりしよう。
いつもと違う仕事で疲れたし。
アルを帰りの馬車まで送り、自分も帰ろうとしていた時、事件は起きた。
「少し時間をもらえないか?」
話しかけられました。
誰に?
エドワードに。
私とした事が、色々とありすぎてすっかり忘れてたんだよね。
この人のこと。
「何でしょうか?」
営業スマイルで聞き返す。
今は私は騎士。この人は侯爵家嫡男。と心の中で言い聞かしながら。
「君が明日非番だと聞いた。よければ明日屋敷に来てくれないか。」
エドワードはいつもの何考えているか分からない表情で言った。
はぁ。どこからそういう情報仕入れてくるんだ。
どう見ても社交的じゃないよね?エドワードって。
っていうか、明日はゆっくり休もうと思ってたんだよ……。
本当は断りたかった。
でも、私は泣く泣く、
「了解しました。」
エドワードの誘いを受け入れた。
レアナからマリアンヌの事色々聞いたし、助けてあげたいっていうのは自惚れすぎなのかもしれないけど、力になってあげたい。
そう思ったから。
「そうか。ありがとう。」
その時、ほんの少しだけエドワードが笑ったように見えた。
私が会合前に言った言葉を覚えているからなのかもしれない。
そう思うと、私は何だか嬉しく感じた。
次は番外編挟みます。




