2日目のパーティー
ちょっと長めです。
「流石、アル!モテモテじゃん。」
バルコニーでアルはレオさんと合流した。
「いい迷惑だよ…。毎年毎年、これだけは出席しないといけないからね。」
確かに、あれだけの人数に囲まれるなんて年に一度でも嫌だよね。
私は哀れみの目をアルに向ける。
すると、急にレオさんが私の方を見て、
「本当にもったいないな。セリスちゃん、この場で1番綺麗なのに。」
少し残念そうに言ってきた。
「いえ、貴族の御令嬢に比べれば私は普通ですよ。」
自分でもセリスティアは綺麗だと思うけど、ドレスで着飾っている女性たちに比べたらそこまででしょ。
それでも、レオさんは
「自己評価低くない?もっと自信持てばいいのに。」
私をベタ褒めしてくる。
えっ、私もしかしてからかわれてる?
どう返せばいいか迷っていると、
「私のお友達を困らせないでいただけます?」
凛と響く声が聞こえた。
その声に軽くレオさんは舌打ちする。
「冗談じゃん。レアナは硬いなー。」
後ろからレアナが歩いてきて、レオさんを睨みつける。
「パーティーを普通にサボる軽いお兄様よりは硬い方がマシだと思いますわ。」
レアナは淡々と言い返した。
そして、
「まあまあ、2人とも穏便にいこう?ね?」
絶妙なタイミングでアルが仲介に入った。
2人の間に入るのは慣れている証拠だろうな。
「ありがとうございます。レアナ様。」
私は一応レアナにお礼を言った。
助けてくれたわけだしね。
「婚約者がいるというのに、本当に軽いのだから。
ごめんなさいね?」
レアナはそう言ってため息をつく。
「別に遊んでるわけじゃないからいいだろ?」
レオさんは不服そうに言った。
それに対して、
「レアナ嬢の言う通りだからね?それに、気をつけたほうがいいよ。こう見えて、セリスは一般の騎士よりは倍以上強いから。」
アルは軽く笑みを浮かべた。
「えっ?マジ?」
レオさんはギョッとしたようにこちらを向く。
「私もアルフレッド様と同じく、第一騎士団に属しておりますので。」
私はその問いにあえて答えず、にっこり微笑む。
「えっ、マジじゃん…。」
レオさんは顔をひきつらせながら薄ら笑いを浮かべた。
パーティーの時間が残りわずかを切った。
もう少しで終わるけど、思っていたより忙しくなかったな。
何しろ、モンフォール公爵家嫡男、ランブロウ侯爵家嫡男にその令嬢が揃ってるのだ。
誰だって話しかけるのには躊躇するだろう。
でも、私はすっかり忘れていた。
この状況でも気にせず話しかけられる人物を。
「ご歓談中、申し訳ありません。お話に混ぜてもらってもよろしいですか?」
にっこり微笑みながら、ミリアナはこちらにやってきた。
私とレアナに緊張が走る。
アルもさっきの令嬢だと分かると、少し困った顔をしていた。
レオさんはというと、
「可愛らしい御令嬢だね。」
人の良さそうな笑みを浮かべていた。
そして、
「レアナ様!レアナ様もきていらっしゃったのですね!」
ミリアナは無邪気に笑いながらレアナに話しかけた。
流石はヒロイン。普通の人ならこの笑みで落ちてしまうぐらいの破壊力だ。
「ミリアナ様。こちらにいるのは私の兄なのですが、御面識はおありで?」
だが、レアナは全く動じない。
挨拶くらいしろという皮肉も見事に入れていた。
「えっ?レアナ様のお兄様でしたか!ご挨拶が遅れて申し訳ありません。イーディス侯爵家が三女。ミリアナ・イーディスと申します。」
でも、ミリアナも気にしていない様子で挨拶を返す。
「ランブロウ侯爵家のレオ・ランブロウです。君のお姉さんは私の婚約者だからね、今後ともよろしく。」
レオさんは紳士的な態度でそう言った。
さっきと雰囲気が一変しているのは流石といえる。
「そ、そうなのですか?私はまだイーディス侯爵家に来たばかりなので…。知らなくてすいません。」
ミリアナは申し訳なさそうに言う。
こんなに可愛らしいのだから、レオさんなら食いつくかなーと思ってレオさんの方を伺うと、ただ笑みを浮かべているだけだった。
婚約者の妹だからかな?
はぁ。
で。この雰囲気どうするわけ?
ミリアナが来てから見事に上っ面だけの会話になっていた。
仲良く談笑しているように見えるけど、ミリアナはどうにかしてアルに近づこうと必死なのが丸わかりだしね。
パーティーももうすぐ終わりだし、とりあえずこのまま待つしかないか。
そう思っていると、
「そこの騎士さんは名前は何ていうんですか?」
急にミリアナが話しかけてきた。
うっ。
アルが自分に興味持ってくれないからって私に話を振らないでくれ。
「私はアルフレッド様の護衛をしております、セリスと申します。」
それでも、聞かれてしまったので普通に答える。
「セリスさんとおっしゃるのですね!女性なのに騎士団に属してらっしゃるなんて凄いです!!」
私と仲良くなって、アルの気を惹きたいわけ?
もう何でもありだな、この子。
「騎士団に属している女性の割合は全体で4割ほどいますので、珍しくはありませんよ。」
私は呆れてしまい、素っ気無く答える。
「そ、そうなんですね…。」
ミリアナは私の反応に少したじろく。
他の皆は無言。
そんな最悪な雰囲気になったところで、会場に設置されている鐘が鳴った。
これはパーティーの終わりの合図となっている。
「では、お開きにしましょうか。」
即座にレアナが言った。
ミリアナは名残惜しそうにしていたけれど、パーティーが終わってしまったので渋々騎士と一緒に去っていった。
私もアルを部屋まで送って行こうとすると、
「僕達は王太子殿下と話があるから先に戻っていていいよ。」
アルにそう言われ、私達はそこで別れた。
さあ、明日に備えて部屋に戻るか。
そう思っていると、
「少しお話いいかしら?」
レアナにそう持ちかけられ、話をするためにレアナの部屋へと向かった。
「まさか、接触してくるとは思ってもみなかったわ。」
部屋に入ると、レアナはそう嘆いた。
「私は予想してたけどね。あの子ならやるかなって。」
あの状況で話しかけられるのあの子だけだとは思うけど。
「しばらくはお兄様の機嫌も悪くなりそうだわ。」
ふとレアナは意味深な言葉を呟いた。
「どういう意味?」
すかさず私が問いかけると、
「お兄様はマリアンヌ様の事が好きなのよ。」
レアナは衝撃発言をした。
私は一瞬フリーズして、
「えっ?えー!?ちょっと待って!!初耳よ、初耳!!」
思いっきり叫んだ。
そして、
「セリスがマリアンヌ様と会った頃にはもう性格が変わってたものね。可愛らしい方だったのよ。私も仲良くしていたしね。」
レアナはまたまた衝撃的なことを言う。
「今はかなりのわがまま娘よ!?詳しく説明して!」
私がレアナに詰め寄ると、レアナは詳しく説明してくれた。
マリアンヌとレオさんが婚約したのはマリアンヌが5歳。レオさんが7歳の時だったという。
その頃のマリアンヌは素直で可愛らしい子だったらしい。でも、侯爵夫人から暴言を吐かれはじめた頃から段々変わってしまったという。
「使用人達の前ではいばってたのかもだけど、お兄様の前では逆に無口で何も話さなくなってしまったの。お兄様は心配してイーディス侯爵家に通っていたけど、ある日をきっかけに行かなくなったわ。理由は分からないけど。」
あまりにも衝撃的な事実に私は頭が混乱してきた。
「さっきミリアナ様が話しかけてきた時にお兄様、目が笑ってなかったのよね…。多分、まだマリアンヌ様が好きだからだと思うの。」
そんな私を全く気にせずに新情報をレアナは次々と出してくる。
それでもなんとか話についていき、疑問をぶつける。
「でも、それならどうして色んな女性に話しかけるのよ。」
私もすっごい話しかけられたというか、からかわれたというか…。
「あの人、執念深いのよ。だから、マリアンヌ様に少しでも似てる方に声をかけてしまうわけ。セリスもマリアンヌ様と同じ瞳の色だから話しかけたんだと思うわ。」
本当に女々しいと鼻で笑いながらレアナは言う。
新情報が多すぎる!
何個あるのよ!!
そう思って、
「今日だけで私、色んな事実が発覚したんだけど…。ついてけない。」
私が呟くと、
「あら、情報をたくさん得られたならよかったじゃない。」
レアナはにっこり微笑んだ。
「私はレアナみたく、そんなタフじゃないの!」
今日改めて、レアナの恐ろしさを思い知ったわ。
私がレアナを警戒した目で見ていると、
「はいはい。それよりもあの女狐…じゃなかったミリアナ様の話をしたかったんだけど…。この時間じゃもう無理ね。また明日話しましょ?」
レアナは私を宥めるかのように頭をぽんぽんと撫でる。
「分かった…。とりあえず今日で得た情報を処理することにする。」
そう言って私はレアナの部屋を出た。
もう私の頭、パンクする…。
今回の会合でまさかの情報がたくさん出てきています!
セリスは大変そうですね…。




