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初仕事編6

ゼン視点です。

「セリス、やめろ!やめるんだ!!」

俺はセリスのやろうとしている事に気づき、叫んだが止まることなくセリスは真正面から突っ込んでいった。

その瞬間、

ガ、ガルルルルルルルルルルルルル!!!!!!!

魔獣は大きな唸り声をたてた。

暴れだす、そう覚悟した。

だが、俺の考えとは裏腹に魔獣はそのまま横へと倒れた。

は?

普通なら暴れだすはず。なのに、倒れた?

何かがおかしい。

その時、ある事を思い出した。

セリスが最初の方に投げていた麻酔針。

全く効き目はなかったように見えた。

でも、もしあれが効いていたのだとしたら?

あり得なくはない。

ただ、今はそんなことよりも!!

俺は倒れているセリスにかけよった。

「おい、おい!!」

体を軽く揺らしてみても起きる様子はない。

それに…脈が感じられなかった。

このままじゃ、死ぬ。

主な傷としてはお腹に受けている魔獣の爪による傷。これが深い。さっきまで動けていたのが不思議なくらいだ。

あと、数分もしないうちに息を引き取ってしまうだろう。

でも、

「魔術を使えば…。」

王家にだけ伝わる魔術。

魔術は聖女にしか使えないとされているが、聖女と血を引く王家も本当は使える。

髪や目の色もそれで変えていた。

ただ、治癒の力は消耗が激しいため使える者は聖女しかいないと言われている。

だが、今はそんな事を言っていられない。

俺はセリスのお腹に手を当てた。

手に力を込め、集中する。

くっ…!!

魔力がどんどん減っていくのが分かる。

そのせいで髪や目の色も元に戻り、変装もとけた。

息が、でき、ない…!

あと少し。あと少しだ…!!



はぁ、はぁ…。

何時間も経ったような気がする。

実際は数分の事だというのに。

セリスは気を失ったままだったが、とりあえずこれで安心できるだろう。

そう思いながらも、森を出るためにセリスを抱き上げる。

すると、

「ここです!」

人の声が聞こえた。

変装がとけていた事もあり、咄嗟に隠れる。

兵士達が来たんだろうか。

木の影に隠れながら様子を見ていると、現れたのは領主と兵士達の責任者だった。

「魔獣が倒されているではないか!!」

領主が歓喜の声を上げる。

「嘘だろう…。まさか、たったの2人で…?」

責任者は驚いた様子で目を見張る。

領主には王太子としての顔を知られているため、バレないように森を出ないといけない。

もう少し魔力が回復すれば、瞬間移動が使えるというのに。

歯痒い気持ちで領主達に背を向ける。

「魔獣を倒したのはアジャの兵士たちという事にしよう!」

だが、そんな領主の言葉に足が止まった。

「そうすれば、知名度も上がるし稼げるだろう!!」

領主は良いことを思いついたとでも言うふうに言った。

「でも、あの騎士達が黙っていないんじゃないでしょうか?」

責任者が遠慮がちに言うと、

「礼として手厚くもてなしたいとでも言って、屋敷におびき出す。で、毒入り晩餐でも開けばいい。」

領主はしたり顔で言った。

「騎士団に怪しまれますよ。」

それを責任者が咎めると、

「魔獣に殺されたとでも言えばいいんだ。どちらも平民だろう?うるさく言ってくる奴らもおらんだろ。」

さらに領主は言葉を続けた。

どこまで腐ったら気が済むんだ。この領主は。

怒りと呆れが混じった感情が膨らむ。

「そこでどうだ?お前が倒した事にするのは。運が良ければ、騎士になれるかもしれんぞ?」

意地汚い笑みを浮かべながら領主は責任者に持ちかけた。

責任者は一瞬迷った様子だったが、

「領主様に一生ついていきます!」

こちらも意地の悪い笑みを浮かべて答えた。

その言葉を聞いた瞬間、俺は2人の前に出ていく事にした。

権力に弱いあの領主だ。

この姿のまま出ていけば1番効果的だろう。

「随分と面白い話をしているじゃないか。」

セリスをそっと木にもたれさせるように置き、俺は2人の前に出た。

「何だ、お前は。」

責任者は俺を睨みながらドスの効いた声で威嚇してくる。

領主の方は一瞬固まったかと思うと、ダラダラと汗を流していた。

「不正な税の取立て、魔獣への不適切な対応、婦女子への乱暴、または、殺人未遂。お前には城まで来てもらう。」

俺は領主に向かってそう言った。

だが、

「こんなところで王太子殿下にお会いできるとは光栄でございます。私にそのような噂が出回っている事は存じております。ですが、証拠はおありでしょうか?まさか、平民の証言を信じたわけではないですよね。」

領主は一瞬、焦ったように見えたがすぐに余裕の表情で言ってきた。

そんな領主にため息をつきながらも、

「屋敷から税に関する不当な書類が見つかった。魔獣については1人の貴族が証言している。乱暴については俺が送り込んだ部下が証言しているが?」

アジャに来る前から調査は進めていた。

あとは税についての書類だけだったが、それも初日に屋敷を調べ見つけたため証拠は全て揃っている。

「なっ!」

領主は驚きの表情を浮かべた。

「お前に魔獣の報告をしろと言ってきた女性がいただろう?」

俺が聞くと、

「あの平民がどうした!」

領主は本性を現してそう叫ぶ。

「その女性が騎士団に連絡してくれた。お前よりも先に。本当かどうか調べているときにお前の報告があったが。」

その女性の報告には領主の不正に関することが詳しく書かれていたのだ。

「平民の証言を信じるのですか!」

領主がまた叫ぶ。

まだ気づかないらしい。

ここまで言ったら普通は気付くと思うが。

「その女性は元第一騎士団団長。レイス・フォード子爵の御息女だ。」

呆れながらも答えてやると、領主は一瞬固まり、その場に崩れ落ちた。

「そ、そんな…ばかな…。」

隣にいた兵士達の責任者はただただ震えていた。

「城まで一緒に来てもらおうか。領主殿?」

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