初仕事編4
「人間はかなり襲われましたよ。兵士も何人か死んだかな。」
私達は魔獣駆除にあたっていた兵士達に話を聞きにいった。
「魔獣の形状は分かりますか?」
責任者みたいな人にゼンが聞いた。
「牛の3倍くらいの大きさだな。10人がかりでも傷一つつけられなかった。」
お手上げといったようにその人は肩をすくめた。
かなり大きいサイズよね。牛の3倍…。あんまり想像つかないけど。
自分の中で考えを膨らませていると、
「リアさんの攻撃は効いてたんじゃないか?」
1人の兵士が声を上げた。
「おい!余計な事を言うな!!」
それに対して、急に怖い顔で責任者は怒鳴った。
怪しい…。
だって、そんなに否定するって何かあるよね?
それに、リアさんってどこかで聞いたことがあるような…?
んー。
「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」
ゼンはその兵士に近づいてそう言った。
兵士はチラッと責任者の方を見たけど、
「リアさんっていうめっちゃ強い兵士がいたんですよ。その人の攻撃は何回かあたってたんです。でも、そのリアさんも魔獣にやらてしまって…。」
詳しく話してくれた。
責任者は何か言おうとしたけど、私がそれを遮って
「もしかして、兵士達の魔獣駆除でかなり深刻な状況に陥ったことってあります?」
と聞いた。
その兵士は目を丸くしながらも
「ありますよ。俺は非番で行かなかったんですけど、皆怪我をして帰ってきました。その時にリアさんも…。」
答えてくれた。
はあ、そういうことか。
おそらく、そのリアさんはジョルジョの母親だろう。
そして、この責任者がリアさんを囮にした張本人に違いない。
多分、ゼンも気付いたはず。
だって、
「貴重な情報をありがとうございます。次はいつ、魔獣駆除に行かれますか?」
目が笑っていない笑顔で責任者に問いかけたから。
怖いよ。あの笑顔。
「次は明日行く。あんたらも来るんだろう?」
責任者は目を逸らしながらぶっきらぼうに言った。
「もちろんです。同行させていただきます。」
こいつらの悪事、絶対に暴いてやる。
と思いながらも笑顔で答えると、責任者は馬鹿にしたように、
「嬢ちゃんは来ない方がいいぞ。どんな手で第一騎士団に入ったかは知んねえが、そんな細腕でじゃあ剣ももてねえんじゃないのか?」
と言った。
周りの兵士達も同調して笑い出す。
ハハハ。呆れて物も言えないわ。
怒りを通り越して呆れてしまう。
「大丈夫ですよ。少なくとも、貴方よりは強いので。」
私も笑いながら答える。
すると、兵士達の笑いは止まり、その場の空気が固まった。
「おいおい、冗談言ってると痛い目に合うぞ?」
責任者は脅すように言ってきた。
こいつ、マジで腹立つな。
剣を突きつけてやろうかと考えを巡らしていると、
まるで私の心を読んだかのように、
「やめておけよ、セリス。お前は手加減ってのを知らないからな。相手に怪我をさせてしまうだろ?」
軽く笑みを浮かべながらゼンが言った。
「何だと!!」
責任者は怒ったように叫んだ。
そうよね。こんな低レベルな人間。手加減しても怪我をさせてしまうかも。
相手にしちゃダメだわ。
「そうね。どうせ、明日には実力差が分かることだし、今日は帰りましょ?」
私はゼンに同意し、責任者に背を向けた。
その瞬間、責任者が私に
「生意気な小娘め!!」
と言いながら、拳を振り上げた。
はあ。やっぱり面倒くさいわ。単細胞な人間って。
そう思いながらも、私は振り向いてそのまま責任者のアゴを蹴り上げた。
はい、ノックアウト。
責任者はその場にぶっ倒れたのだった。
「おい、やめとけって言っただろ。」
何が起こったか理解できずに固まっている兵士達の中、ゼンが呆れたように言った。
「これ私、悪くなくない?正当防衛だって。正当防衛!」
あっちから仕掛けてきたわけだし。私悪くないです!!
「もうわかった。これ以上お前がやらかさない内にここを出るぞ。」
ゼンは諦めたようにそう言って、出口へと向かっていった。
「ちょっと待ってよ!」
私は小走りでゼンの後を追った。
「で、これからどうすんの?」
やるべき事はもう終わった気がするんだけど。
私が聞くと、
「特にやる事はない。お前は何かあるか?」
ゼンは私に聞き返してきた。
やる事ねぇ。うーん。
やる事、やるべき事、やりたい事…。
あっ!
「あるある!やりたい事!!」
「みなさーん!飲み物や食べ物いりませんか!?」
今、私はスラム街にいる。
「お前のやりたい事はこれか?」
水の入った容器を軽く両手で持ちながらゼンが聞いてきた。
「そう!!偽善かもしれないけど…。」
私達は市場で水や食料を買い集めてきたのだ。
聞けば、スラム街の人達も魔獣の影響がかなりあったらしいし。
やらないよりはマシだよね?
「俺はいいと思うけどな。たとえ、偽善でも今日の食料で生きれる人もいるかも知れない。」
ちょっと不安だった私にゼンはそう言ってくれた。
でもその後に、
「まずは、こんな場所をなくさないといけないんだが…。」
ゼンはやけに真剣な顔をして言葉を続けた。
何で声をかけるべきか迷ったけど、
「とりあえず、自分達にできる事をやろ?」
私は明るく声をかけて、もう一度
「食料はいりませんかー!!」
と声を張り上げた。
すると、少しずつだけど人がやってきた。
「ありがとうございます…ありがとうございます。」
感謝の言葉を述べながら受け取ってくれる人、
「…。」
無言で受け取ってくれる人、
「偽善者め!」
そんな言葉を吐いて受け取ってくれない人など色んな人がいた。
そんな中、
「あっ、セリスさん!!」
誰かに声をかけられた。
パッと振り向くと、ジョルジョが駆け寄ってきた。
「貴族らしき人が食料配ってるって聞いて来てみたけど、セリスさんだったんだね!!」
ジョルジョは笑顔でそう言いながら、食料を受け取ってくれた。
「僕も手伝っていい?」
そして、自分から手伝うと言ってくれたのだ。
「うん!手伝ってくれたら嬉しい!!」
ジョルジョの言葉が嬉しくて満面の笑みを浮かべていると、
「おい、その子は誰だ?」
奥に配りに行っていたゼンが戻ってきた。
「前に話した子だよ。ジョルジョ!」
私が紹介すると、ジョルジョは警戒したように私の後ろへと隠れた。
「セリスさん、その人は誰?」
答えようとした私を遮って、
「俺はゼン。セリスと同じ騎士団所属だ。よろしく。」
ゼンが淡々と自己紹介をした。ジョルジョはまだ警戒していたようだけど、
「ゼンも平民なのよ。」
私の一言でそれは解けたみたいだ。
「じゃあ、残りも配っちゃおう!!」
「全部、なくなったね!」
日が暮れる頃、買ってきた食料は全部なくなっていた。
「ああ。ジョルジョがいたからっていうのもあるだろうけどな。」
そう。ジョルジョはかなりの活躍をしてくれた。
ジョルジョがそばにいたから受け取ってくれた人も多くいたのだ。
「そろそろ、帰ろっか。」
私達はそうして宿へと戻っていったのだった。




