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初仕事編2

「無理しすぎでしょ。」

宿に着き、部屋のベッドにゼンを寝かせてから言う。

気分悪そうだったのに、領主に挨拶したから!

それも、あんな最低な領主に!!

「ちょっと、楽になった。」

しばらく横になっていたけど、ゼンは体を起こしてそう言った。

「本当に?」

ゼンにはさっきの前科があるからな。簡単に信用したらダメだよね。

私がジッとゼンを見ていると、

「大丈夫だ。」

目線を軽く逸らして答えた。

「あっ、今目逸らした!嘘ついてるんじゃないの!?」

「ついてない!お前が近いんだろうが!!」

ゼンは顔を軽くしかめて言う。

そう言われてみれば、かなり近づいていたみたいだ。

「あっ、ごめん。無意識だった。」

私がそう言って離れると、

「俺はちょっと寝るからお前も部屋戻れ。」

ゼンは布団を思い切りかぶって目を瞑ってしまった。



ゼンの部屋を出た私は町を見て回ることにした。

明日から本格的に仕事スタートだし、今日はこの町を観光しよっと!

そう思って、私は宿を出た。



さっきはゼンを支えるので必死で気づかなかったけど…。

この町、町として成り立っていない。

入ったばかりの場所はある程度賑わっていたけどちょっと進めばまるでスラム街だ。

何人もの子供がボロボロの服を着て、路上に座り込んでいる。

痛ましい思いで突き進んでいくと、背中にわずかな痛みを感じた。

不思議に思って振り向くと、

「貴族が何の用だ!」

小さな男の子が石を持って私の方を睨み付けていた。

この子もここに住んでいるのだろうか。

「用がないとここに来てはダメだったかしら?」

私が尋ねると、

「どうせ、魔獣退治に何人か連れて行くつもりなんだろ!そんな事はさせない!!」

男の子はまた私に向かって石を投げた。

『魔獣退治』。その言葉が引っかかって私は石を避けながら男の子に近づいていった。

「来るな!!」

石が全く当たらない私が怖くなったのか後退りしながらその子は叫ぶ。

「君のさっきの言葉が気になるだけよ。詳しく聞かせて欲しいの。私、貴族じゃないし。」

実際は貴族だけど、今の私は貴族じゃないしね。

私の言葉にやっとその男の子達は石を投げるのをやめた。

「貴族じゃないのか…?」

余程、貴族に恨みがあるらしい。

「ええ。だから、詳しく聞かせてくれる?」



「魔獣が現れたのは最近じゃないんだ。1年ぐらい前から被害が出てた。」

男の子からそれを聞いた時、私はすごく驚いた。

魔獣は現れたら即、騎士団に連絡しないといけない決まりなのに。

「法に反してるわ。領主の命令?」

私が聞くと、

「うん。そのせいでお母さんは…!」

男の子は自分の事も話してくれた。

男の子は小さい時にお父さんを亡くしているらしく、お母さんと2人暮らしだったそうだ。

お母さんは町の兵士をやっていたそうでかなり強かったらしい。そこで、魔獣が現れた時真っ先に倒すよう、命令されたそうだ。

騎士団に連絡した方がいいとお母さんは反対したそうだけど、領主は魔獣を倒した町として発展させたかったらしく、首を縦に振らなかったそう。

「それで、お母さんは結局他の兵士におとりにされて死んじゃったんだ…。」

男の子はそう言って目を伏せた。

やっぱりあの領主、イカれてる。私の中で怒りが爆発しそうになっていた。

自分の名声のために人の命を犠牲にするなんて…!

怒りを抑えきれずにいると、

男の子は

「だから僕、孤児になっちゃって今はあそこで暮らしてる。前は小さいけど家があったんだ!でも、取り上げられた…。」

と言った。

その言葉でハッと我に帰る。私がこんな状態じゃダメだ。この子みたいな子が増えるかもしれない。

冷静にならないと。

「君の名前は?」

私は男の子に聞いた。

「僕の名前はジョルジョ。お姉さんは?」

そう聞かれて、私はにっこり笑う。

「私はセリス!実は、騎士団から派遣されて来たの。魔獣を倒すために。」

すると、男の子は一気に青ざめて、

「無茶だよ!10人がかりでも無理だったんだ!死んじゃうよ!!」

と、叫んだ。

お母さんの事で魔獣に対する恐怖が人一倍強いんだろう。

「大丈夫。私はすごい人の弟子だから。第一騎士団所属だから!」

少しでも不安を和らげたくて笑顔のまま答えた。

「きっと、大丈夫だから。」

ねっ?というふうにジョルジョに笑いかける。

ジョルジョはそれでも不安そうだ。

けど、

「そういえば、お母さんが騎士団の人は凄いって言ってた。僕のお祖父ちゃんも凄い人だったんだって聞いたことがある。」

思い出したように口を開いた。

「お母さんがそう言ってたなら信じてほしいな。」

私はその言葉に便乗して言葉を発する。

ジョルジョは私をジッと見つめていたけど、

「魔獣は危険だと思うけど、お姉さんを信じたい。」

不意にそう言った。

「ありがとう。あっ、これ情報料!色々と聞かせてくれて本当にありがとう!」

私は持っていたお金をジョルジョに渡して立ち上がる。

「じゃあ、また会えたら会おう!」

私が手を振ると、

「気をつけてね!」

ジョルジョは手を振り返してくれた。



宿に帰ると、ゼンが私の部屋の前に立っていた。

何で私の部屋の前に?

「何やってるの?」

私が声をかけると、

「お前こそ、何やってたんだ?もう、6時だぞ。」

ゼンは軽く顔を上げて聞き返してきた。

「私は町の観光…じゃなくて偵察に行ってたんだよ!」

「嘘をつくな。どうせ、好奇心が抑えきれなくて外に出たんだろ?明日は仕事始まるしな。」

私の言葉に対して即座に切り返してくる。

ゼンってエスパーなのか?だって…!私の考えてる事全部当ててくるんだもん!!

「ソンナコトナイヨ。」

「はいはい。それより、食堂行くぞ。」

私の言葉を受け流してゼンは歩き出した。



食堂で夕食を食べながら、ジョルジョから聞いた話をゼンに話す。

「おい、それって違反だぞ。」

ゼンは険しい顔になって言う。

「だよね。でも、証拠がないの。平民が声を上げても貴族にすぐかき消されるみたいだし。」

実際、ジョルジョのお母さんも領主にかき消されてるし…。

私の思い詰めた表情を気にしたのか、

「それを見つけるのが俺らの仕事だろ。」

ゼンは言い聞かせるかのように言った。

「そうだね。」

それこそ、私達の仕事だよね!もちろん、魔獣倒すのもだけど!!

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