初仕事の始まり
「はい!私は悪くありませんっ!」
団長に呼び出された私はすぐにそう言った。
だって、あっちが喧嘩売ってきたんだもんね。うん、私は悪くない。
「まだ、何も言ってないんだが…。」
呆れたように団長は言った。
でも、こういう事は先に言っておくべきだし!!
「でも、あの事ですよね?」
私が尋ねると、
「いや、違う。第二騎士団の奴を秒殺した事はもう向こうの団長と話はついてる。」
流石、団長。仕事が早い!!
でも、じゃあ一体何の話だろう。
そう思っていると、
「とりあえず、お前はゼンと離れるな。以上。
で、本題に入るが。」
なんか、話変えられた。意味深な事言って、話変えられたぞ?
「最近、魔獣が町や村を荒らしてるっていうのは知ってるな?」
急に団長は真剣な顔になって言った。
「ステラさんとかクロードさんも駆り出されたっていう王都での話ですか?」
初日にアルが言っていた事を思い出して言う。
「まあ、そうだ。だが、それは王都だけの話じゃない。地方でもかなり危険な状況だ。」
団長は顔をしかめながら言った。
私は魔獣を見たことがないから、想像はつかないけど、何かやばい状況って事だけは分かる。
「そこで、ゼンとお前の2人の初仕事だ。アジャという町は知ってるか?」
アジャ?
急に町の名前を出されて困惑する。
確か、王都からかなり離れている小さな町だった気がするけど。
「王都から離れた小さな町ということしか…。」
ほぼ、初めて聞く町だし。
でも、団長は私のあやふやな回答を特に気にする様子もなく、言葉を続けた。
「そこで魔獣の被害が出たらしい。魔獣は1匹らしいが、それの駆除を頼みたい。」
魔獣の駆除。
危険なんだろうとは思うけど…
「分かりました!」
私は即答した。書類仕事とかじゃない初の仕事だ。
それに、これ以上被害が拡大しても困る。
「あと、そこの領主は不正疑惑がかかっているんだ。その証拠も暴いてほしい。これは口外するな。」
団長は声をひそめて言った。
不正。横領とかかな?詳しくは分からないけど、そんなの許される事じゃない。
「分かりました。」
私はそれについても即答したのだった。
話を聞き終わって、部屋を出ようとした時、
「それはゼンにはもう言ったんですか?」
気になって尋ねた。
すると、団長は意地悪な顔になって
「ああ言ったよ。誰かさんが届けるのを忘れてた書類を届けに行ってる間にな。」
と言った。
「なっ!すっかり忘れてたんですよ…。」
こればかりは私が悪いから言い返せない。
変な奴に喧嘩ふっかけられたから、肝心な事を忘れていたのだ。
小さく、うーと唸っていると、
「はっ、悪かったって。まあ、仕事は伝えた。明後日からアジャに行ってもらうから用意しておけ。」
笑いながら背中を叩かれる。
「了解しました。」
そんな団長に小さく礼をして私は部屋を出た。
はぁ。
てっきり怒られると思ってたから、良かったー!!
でも、何か引っかかるような事を言われたような気が…。
まあいっか!大事なことだったらすぐ思い出すでしょ!!
とにかく、アジャに行く準備をしないと!
私がテンション高めに歩いていると、重要な事を思い出した。
学園、休むのどうしよ!?
私はいつも、学園に行く馬車に乗って教室に行かず、トイレで着替えてからこっちに来ている。
地味な格好のおかげでいてもいなくても分からないモブポジションです!!
休みは週の中で自由に取れるようになってるから、ゲームのイベントとかは参加しようとは思ってるけど…。
まあ、入学して2ヶ月ほどはイベントないし、今は大丈夫だ。
でも!!
学園、休むのどうしよう。馬車に乗ってなかったら、おかしいと思われるわよね…。
「うーーー。」
良い案が思いつかなくて、廊下で呻いていると、
「なに、変な声上げてるんだ…。」
誰かの声がした。
声の方を向くと、ゲッという顔でこちらを見ているゼンがいた。
「究極に悩んでる。」
私が答えると、
「家でしろ。今のお前、かなり怖い。」
迷惑そうに言われた。
「そうか…。家で1人寂しく悩めと。冷たい奴だな、ゼンは。」
私は落ち込んだように下を向きながら言う。
「相棒が悩んでいるというのに。ああ、可哀想な私。」
さらに言うと、
「面倒くさい奴だな…。聞いてやるから、仕事終わってからにしろ。」
顔をしかめながらもそう言ってくれた。
「流石、ゼン!優しいね!じゃあ、後でね〜!!」
私はにっこり微笑む。
頭良さそうだから、良い案思いついてくれそう!
そんな思いつきでやってみたけど、案外簡単に引っかかってくれた。
「おまっ!はめやがったな…。」
悔しそうな顔でゼンがなんか言ってたけど、
「え〜、騙される方が悪いでしょ?」
と言って、私は駆け足で仕事場へと戻った。
午後4時
私は自分の仕事を終え、帰る支度をしていた。
学園は4時半に終わるから、騎士団の仕事終わりはちょうどいいんだよね!
まあ、その分、土日は6時までいるんだけど。
「終わったか?」
早々と支度を整えた、ゼンが話しかけてくる。
「うん。で、聞いてくれるんだよね!?」
手短に話さないと!時間ないし。
そして、私はゼンに話せるギリギリまで話した。
「は?家族にバレないようにアジャに行って、バレないように帰って来たい?」
話し終わった瞬間、聞き返される。
「まあ、そういうことになるかな。」
私が答えると、
「無理だ。諦めろ。」
即答が返ってきた。
うっ。やっぱり無理があるか。
でも、ここで諦めるわけにはいかない!!
「何かない?何でもいいからさ!」
そう思って食い下がると、
はあっとため息をつきながら、
「かなり危ないけどまあ、方法は1つだけある。」
ゼンが仕方なさそうに話し出した。
「アジャに行く前に奇病にかかったって言って部屋に閉じこもる。証拠も用意しろよ。疑われないように。協力者がいれば、部屋の前でガードしといてもらうっていうのもあり。」
聞き終わった瞬間、
待って、こいつ天才じゃない!?
そう思った。
私は思わずゼンの手を取って
「やっぱり、天才だ!最高!!一生ついてく!!」
と言った。
「ついてこなくていい!!」
ゼンはめっちゃ迷惑そうだったけど。
よし!そうと決まれば、準備しないと!!
そう思った私は、
「ゼン、本当にありがとう!ということで、私は準備があるから行くね。また明後日に!じゃあ!!」
ゼンに早口で捲し立てて、学園へと走り出したのだった。
「何なんだ。本当にあいつは。」
だから、ゼンがそう言って柔らかな笑みを浮かべていた事を知らなかった。




