番外編4 団長の苦悩
入団試験から入団式の話です。
俺は頭を悩ませていた。
今年の新人は厄介すぎる!
俺は第一騎士団の団長をしていて、今年入ってくる新人の資料を見て嘆いていた。
1人目はセリスという女騎士。長い黒髪に紫色の瞳。かなり整った顔立ちで可愛いというより綺麗という言葉が似合う感じだ。
一応、平民って事になってるが…。
イーディス侯爵家に関係ある奴だと思う。あの瞳の色はそうとしか考えられない。イーディス侯爵家は代々紫色の瞳で知られている。
でも、別に平民でもあり得るっちゃあり得るから他の奴らはあんまり気にしないだろう。
だが、俺は騙されない。
何故なら、ベイリー伯爵家は代々研究一家で小さい時から色々な事を聞かされてきたからだ。
俺は全く研究に興味がなかったから、騎士になったけど、小さい時の記憶というのはなかなか消えない。
あの独特の紫色はイーディス侯爵家しかあり得ないと自分の勘が言ってるのだ。
その上、レイス団長の弟子とか…。レイス団長は俺の一個前の第一騎士団の団長だ。
めちゃくちゃ厳しい人で俺もすごいしごかれた記憶がある。
思い出しただけで寒気が…。
そんな人の弟子って。一体どんな男が来るんだと思ってみればすごい美人な女の子でびっくりした。
でも、やっぱり規格外に強いらしく…。
誰にでも同じ態度を取るアルが本気で興味を持っていて驚いた。
なぜなら、アルの書類には『第一騎士団所属希望』と書いてあったからだ。
会議に遅れたペナルティーで受付担当をしていたから、勝負自体は見れなかったが、強いことは理解した。
そして、推薦者の書類の中に俺宛の手紙が入っていた。もちろん、レイス団長からだ。
『セリスは強いが、これと決めたことは譲らず突き進むところがあるから、ペアはそれを止められるやつでよろしく頼む。』
読んだ瞬間、机に突っ伏した。
面倒くさいタイプだろうが!どう考えても!!
というか、この手紙を俺に送ってくるってことは、セリスが第一騎士団にいくって確信してたってことだよな。
恐るべし、レイス団長。
とにかく、セリスは身分も強さも只者ではない。
そういう結論に達した。
ただ、身分で言えばもっと厄介な奴がいる。
もう1人の新人、ゼンだ。
本名はゼフィラン・アスタリア。
ぶっちゃけて言うと、こいつはアスタリア王国、この国の王太子である。
本来は金髪碧眼の王族感満載なんだが、黒髪、黒目にして騎士団の試験にやってきた。
アルとは幼馴染で慣れ親しんだ仲らしいが、俺は個人的に話した事がない。
どんな奴いや、どんな方なのか気になってアルに聞いてみると、
「うーん、口が悪くて他人に全く興味を示さないけど他は完璧な人ですかね。」
と応えやがった。
それってめっちゃとっつきにくい奴じゃないか!
俺がすごい落ち込んでると、
「あっ、でもめっちゃ強いですよ。団長と並ぶくらい。」
と付け足してきた。
それも恐怖だよ…。15才で俺と同じって。
俺は36だぞ!?まさに、完璧じゃねーか。
気落ちしながら書類を読んでいると、さっきのアルの言葉に納得した。
ゼンの推薦者が騎士団総長だったからだ。総長はアルの父親で現モンフォール公爵だが、自分が認めた相手しか推薦しない事で有名だった。
アルも18にしては尋常じゃないほど強いが、推薦者は総長じゃない。
つまり、王太子殿下は化け物級の強さってわけだ。
こんな問題ありありの新人達に俺はどう接すればいいんだ。
1人で悩んでいると、
「何やってんですか?団長。」
面倒くさい奴が入ってきた。
「悪いが、今はステラに構ってられる余裕はないんだ。」
俺が言うと、
「今年、女の子入ってくるんですか!?」
だめだ。全く話を聞いていない。
「ああ、そうだ。」
投げやりに答えると、
「めっちゃ嬉しいですよ!めっちゃ美少女だし!!」
俺とは反対にステラは興奮していた。
そんなステラを宥めようと、口を開く。
「今年の新人はちょっと色々面倒くさいんだよ。」
はあっとため息をつく。
その言葉に嬉しそうに書類を見ていたステラが顔を上げて、俺に言い放った。
「らしくないですよ。どんな子であっても団長らしくいればいいじゃないですか。公爵家のアルにもいつも通り接してるくせに。」
確かに、アルは俺なんかよりかなり、位は高いが…。
「今まで通り普通にすればいいんですよ。逆に変に行動すれば空回りします。団長の場合は。」
そう言ってステラは部屋を出て行った。
俺よりも俺を分かってるような言い方しやがって…。
ガキのくせに。
それでも胸がスッと軽くなった気がした。
新人の入団式が終わり、俺は第一騎士団の建物で新人を待っていた。
しばらくしてから、外に新人2人が見えてきた。
何やら、言い争ってるように見える。
おいおい。新人同士で喧嘩するなよ。
いきなり、面倒くさい事になったと思っていると、
「本当に腹立つ!!」
やっぱり言い争いながら、2人はやってきた。
「おい、お前ら。何で喧嘩してるんだ。」
俺は呆れながら2人に話しかけた。
見たところ、本気で怒っているのはセリスだけのようだ。
「「こいつのせいです。」」
俺の問いに対して、お互いを指差しながら答える。
こいつら、なんだかんだで仲良いんじゃないか?
「仲が良いのは分かったから、ちょっと黙れ。」
そう思いながら、2人を宥めると
「「別に仲良くない。
別に仲良くないです!」」
また声が被り、お互いを睨み合っている。
これじゃ、永遠に続くと思い、
「だから、黙れ。」
2人の頭にゲンコツを落とした。
そこでやっと2人は黙ったのだった。
そして、俺は自分と副団長の紹介をした。
セリスはさっきのことを反省している様子だったが、王太子いや、ゼンの方は不服そうな様子。
こいつら、面白いな。
最初に抱いていた印象とは全く違う印象を持った。
それに、完璧なゼンならセリスの暴走も止めてくれるだろう。
だから、
こいつらをペアにする。
そう決めたのだった。
本当は騎士達のペア替えをしようと思っていた。
でも俺が見るに、セリスはかなり変わった子のようだ。
アルから聞いた話ではセリスは初めてゼンの顔を見た時に顔をしかめたらしい。
あの綺麗な顔を見て、そんな反応を示す奴は珍しい。その上、今日は喧嘩をふっかけていた。
他人に興味を示さない王太子殿下の殻を壊してくれるんじゃないかと思う。
それに、2人は息ぴったりの様子だったし、ちょうどいいだろう。
同じくセリスに興味を持っているアルには悪いが。
何となく、面白くなりそうだ。
新事実がサラッと発覚です。
気付いていた方もいるかもですが…。




