ヒロインとの対面
葬儀からあっという間に2ヶ月経った。
騎士団の方も制服作ったりで何度か城に行ったけど、実際の入団は4月からだからまだ1ヶ月ほどある。
だから、私は毎日師匠の元へと通っていた。
そんなある日
「お嬢様。」
ユラが私の部屋を訪ねてきた。
「どうしたの?」
ちょうど腕立て伏せをやっていたところだったから、その体勢のまま聞くと、
「いくらなんでも、その格好で腕立て伏せはどうかと思います。」
呆れたように注意されてしまった。
「いやいや、だっていつ誰が来るか分からないでしょ?そのための対策!」
急にマリアンヌが来た時にいつもの格好だったらやばいしね。
「…。もういいです…。」
ユラは諦めたようにため息をついた。
「それよりも!侯爵様がお呼びです。」
ユラは気を取り直してそう言った。
その瞬間に私は少し不機嫌になる。
「何で?どういう風の吹き回し?」
私が聞くと、
「それは…。使用人の間でも今大変なんです。行ったら分かりますから。」
と、ユラは答えた。
そういえば、ユラは少し疲れているように見える。
困らしたらダメだよね。
「分かった。」
そう答えて、私はユラと共に本館へと向かった。
ついてみると、使用人は駆け回っていて、すごく忙しそうだった。
「なんだか、ただ事ではなさそうだけど。」
「そうなんです。とにかく、広間にいきましょう。」
ユラはゲンナリとした様子で歩みを進める。
そして、広間の前まで来た。
「では、お嬢様。健闘をお祈りしています。」
ユラはそう言って仕事に戻っていった。
嫌な予感しかしない…。
広間に入ると、知らない女性と女の子が座っていた。
その女の子を見た瞬間、背筋が凍る。
ヒロ…インだ…。
私の悪い予感当たったわ…。
私が固まっていると、
「何をしている。早く座れ。」
侯爵が私に命令した。
その言葉で我に帰り、
「は、はい…。」
私は椅子に腰掛けた。
よく見れば、マリアンヌやエドワードもいる。
そうか。
今日が、ゲームスタートの日か。
全員が揃った所で侯爵が口を開いた。
「まず、ここにいる女性がユノ。そしてこの子がミリアナだ。私はこの女性と再婚しようと思う。」
その言葉にマリアンヌが息を呑んだ。
そりゃそうだろう。
自分の母親が死んだばかりなのに、父親が他の人と再婚するなんて言い出したのだから。
「ミリアナは私とユノの子だ。侯爵家の娘として迎え入れようと思う。」
そんなマリアンヌの様子に全く気づかず侯爵は言葉を続ける。
ミリアナは不安そうな様子でこちらを見ている。
侯爵はミリアナの不安を和らげるかのように、
「ミリアナ、皆はお前を歓迎している。心配はいらない。」
聞いたこともないような優しい声で言った。
うっわ。この人、こんな声出せたんだ。愛している人の娘だからなんだろうけど。
一言で言えば、気持ち悪すぎる!!
でも、マリアンヌはそれに耐えきれなくなったのか、
「わ、私は歓迎なんかしてません!平民の義母と平民の姉妹なんてごめんですわ!!」
と、大きな声で言った。
そうだ。まだ、夫人が亡くなって2ヶ月だというのに、節操がなさすぎる。
まあ、ゲームでもこの時期にヒロインを迎え入れてたけどさ。
ミリアナは悲しくなったのか、マリアンヌの発した言葉でポロリと涙をこぼした。
美少女が涙を流すと、同情を誘うよね。
そう思ってエドワードの方をチラリと見た。
エドワードは全く表情を変えていなかった。
ですよね。この人はそういうタイプじゃなかったわ。
でも、ミリアナの涙を見たユノは
「オーギュスト様、いや侯爵様。まだ、早すぎるんですわ。これではそちらの子にもミリアナにもいい事はありません…。」
そう言って涙をこぼした。
これでは、マリアンヌが悪者みたいではないか。
マリアンヌだって被害者なのに…。
そう思っていると、
パチンッ!
嫌な音が鳴り響いた。
「お、お父様…。」
侯爵がマリアンヌを殴ったのだ。
「お前をそんなふうに育てた覚えはない。身分で差別するなど心が貧しい証拠だ。頭を冷やせ。」
そう言って侯爵はマリアンヌを連れ出すよう使用人に命令した。
程なくしてマリアンヌは部屋の外に連れ出されていった。
ははっ。侯爵の言葉を聞いて怒りを通り越し、笑いそうになってしまった。
いや、あんたまず育ててないじゃん。と。
マリアンヌに全く興味なかったじゃん。と。
「とにかく、今日から2人を迎え入れる。これは決定事項だ。」
侯爵がそう言い切って話し合い?は終わった。
私も広間を出ようとすると、
「ちょっと待って!」
ミリアナに呼び止められた。
うん、ゲームの展開通りだね。
「な、な、何ですか?」
私もゲーム通りの反応をしてあげると、
「いや、あのこれからよろしくね!」
ミリアナは無理やりな感じの笑顔で言った。
はあ。今の私の目的は1つ。
ミリアナが転生者かどうかを確かめる事だ。
だから、違う反応をしてみた。
ゲームでは
『えっと、えっ、用事があるのですみませんっ!』
と言って立ち去るのが本当。
でも、私は
「えっと、よろしくお願いします…。」
と言った。
その瞬間、ミリアナの表情は驚きへと変わった。
「えっ、あっ。」
マジか。黒じゃん。可能性は低いと思ってたのに。
だって、もし普通にヒロインだったら戸惑うわけがない。
確信を持った所で、
「えっと、えっ、あのやっぱり、用事があるのですみませんっ!」
と言ってその場を立ち去った。
あの子、相当やり込んでたんだろうな。セリスティアのセリフも覚えてたなんて。
ちょっと怖い。何やらかすか分かんないじゃん。
それでも、いい子ならいいんだけど…。
はあっ、悩みは尽きない。
あれから、リアとミリアナは屋敷に住み始めた。
私と違って本館に。
侯爵とも正式に籍を入れたらしい。
ミリアナを学園に入れたかったから、すぐに籍を入れたらしい。
それからは何事もなく時が過ぎていった。
そして、学園入学初日の朝をを迎えた。
いよいよ、ミリアナ登場です!




