さらなる成長
マリアンヌが帰った後、医学書を覚えていたらあっという間に時間が経って夜になっていた。
「はぁ。また、食事を取りに本館まで行かなきゃならなじゃない。」
そう独り言を漏らしながらも、私は本館へと向かった。
私が本館に着くと、
「妻である私をコケにしているのね!!」
タイミング最悪。やっと、侯爵が帰ってきたらしく屋敷の空気は最悪だった。
「お前がヒステリックで傲慢だからだよ。かわりに、贅沢させてやっているだろう。それで我慢しろ。」
侯爵は全く反省していないというふうに夫人にそんな言葉を投げかけた。
「な、な、何ですって!?」
夫人はさらに怒りを倍増させ、侯爵につかみかかろうとした。
侯爵はその手をさらりと避け、
「おい、何をしている。この女を部屋に連れ戻せ。」
と、使用人たちに命じた。
「はい!!」
怯えながらも、使用人たちは夫人を無理やり引っ張って行った。
「何するの!?」
夫人は喚いていたけど、
そんな夫人に
「俺はお前を愛していない。」
侯爵は心ない一言を浴びせた。
それによって夫人は、ネジが取れた人形みたいに静かになった。
夫人はあれでも侯爵のことを愛していたのだ。
愛していたからこそ、今までの浮気にも目を逸らしていたのだろう。でも、ここまではっきり言われたら、心も折れるに決まっている。
侯爵の酷さには私も怒りを通り越して冷静になってしまう。
そんな風に夫婦のバトルは幕を下ろしたのだった。
侯爵はずっと近くにいた私に今更気づき、忌々しそうな目で一瞥してから去っていった。
まあ、一応私も無事に?食事をもらって別館へと戻ったのだった。
3日後
「ふっふっふっ!」
私は師匠の前で不敵な笑みを浮かべていた。
「師匠の言った通り、3日でこの医学書を覚えましたよ!!」
胸を張ってそう答えた。
いやー、大変だった。記憶力がチートだからといって10冊は流石に多いし、浮気騒動はあるし。
3日目の夜3時くらいまでは覚えてたね。
そのせいで目の下にはクマができたけど…。
「は?」
私の得意げな様子に師匠は怪訝そうな顔をした。
その師匠の反応に、このくらいで胸を張るな。とか言われるのかな。
と不安になってしまった。
だが、
「お前、まさかあの医学書全部暗記したのか?」
その言葉で不安は消え去った。
逆に湧いてきたのは驚きと怒り。
「えっ?師匠が暗記しろって言ったんですよね?」
私が言うと、
「確かに言ったが、冗談に決まってるだろ。」
冗談?
「は?」
私は思わず、気の抜けた声を出してしまった。
つまり、私の血の滲むような努力は無駄だったってこと!?
「師匠!!ひどいですよ!!私、死ぬ思いで覚えたんですからね!?」
怒りのあまり、師匠の肩を揺さぶりまくった。
「本気で覚えてくるとは誰も思わないだろう!?
あんな分厚い本をしかも10冊だぞ!!普通の人間には無理だ!!」
「知らないですよ!っていうか、冗談なんていう性格じゃないでしょう!?」
「わしだって冗談くらい言うわ!!」
「言わんでいい!!」
しばらく言い合いが続き、私が疲れて冷静になった頃、
「もう、いいです…。結果的に自分のためだしもういいんです…。」
私がそう言ってその場に倒れた。
そんな私に呆れた様子を見せながらも、
「どう見ても納得してないだろう…。とりあえず、まあ稽古に移ろう。」
師匠はそう言った。
だから、私は一時的に!!この事を忘れる事にした。
「じゃあ、お前が得た知識でわしを攻撃してみろ。」
準備が整うなり、師匠にそう言われた。
体術でか。剣は渡されなかった為、おそらくそうだろう。
私の手札は超越的な動きと医学書で得た知識。
対する師匠は今までの実践経験とかなりのパワー、それに私と同じくらいの動きの速さだ。
このままでは私の方が不利。
人間の急所はたくさんあるが、師匠の隙を狙ってつけるといえば、脚部しかない。
首から上はは結構な割合で急所が多いけど、警戒されているだろう。
だから私が狙うのは、膝。
膝は大きなダメージを受けると立ったり歩いたりできなくなる。
相手の動きを止めるのに持ってこいな場所だ。
私は狙う場所を決め、一気に距離を縮めた。
何分ぐらい経っただろうか。
私には数時間ぐらい経った風に感じたけど、実際は数分しか経っていないだろう。
流石、師匠。隙がない。私が膝を狙っている事にも気がついている様だ。
「そんな攻撃じゃ当たらないぞ。」
そう言って師匠は攻撃を繰り出してくる。
なら!!
私は作戦を変更した。
私が膝を狙っている事を知っていた師匠の防御は前に集中していた。
だから、私はその隙をついて後ろへと回ったのだ。
「な!?」
師匠は一瞬動揺した。
人間の反応時間は男性で0.35秒〜0.38秒。
ただ、それも動揺すると極端に落ちる。
私は脊椎へと狙いを定め、一直線に手を伸ばした。
いける!!
しかし、
「甘い!!」
師匠のその声と共に私は地面に叩きつけられた。
「うっ…!」
とっさに受け身を取ったけど、全身に痛みが走る。
でもそれより…。
もう少しで届いたのに!!
私は悔しさでいっぱいだった。
そんな私に、
「今の攻撃は良かった。わしもかなり動揺したぞ。」
師匠はそう声をかけてくれた。
それでも、私は悔しくて、
「そんなの知ってますよ。師匠の反応時間が本来の1.5倍くらい遅くなってましたし!!」
減らず口を叩いてしまった。
「お前…、医学者の知識かなり活用できてるな…。」
師匠は感心半分、呆れ半分だったけど、私の手を掴み体を起こしてくれた。
「まあ、騎士団に入れるまであと3年ある。もっと磨け。技を。動きを。知識を。」
そう言われ、
「はい!」
そう返事をしたのだった。
次は2年と半年後です!!




