第96話 いつもの朝?
「……………あ」
気がつくと、視界は真っ暗だった。
(ウチか………)
あの江戸時代から戻ってこれたのだと、ほっと息をつく。
響太はきょろきょろと周囲を見まわすと、うっすらと、ここは響太の家のリビングだと言うことがわかった。
(………少し頭が重い)
いつまで寝てたんだと不思議に思いながら時計を見ると………
(げ! 午前2時?!)
意識がなくなったのが今朝方だから、それから自分の身体はほぼ丸1日ずっと寝ていたのだと知って、響太はげんなりした。
パチン、と居間の電気をつける。
(そういや、母さんは………)
いつもならとっくの昔に帰っているはずだが……と思いながら、居間からちらりと玄関を見ると、ちかちかと留守番電話用のランプがついていた。
ピッとボタンを押すと、聞きなれた都の声が電話から流れた。
(あ……なんだ。今日母さん帰って来れないんだ)
まぁ、自分が昏睡状態になってまた大事に――、ってことにならずに済んでよかったかな、と響太は思いなおした。
「………ん?」
居間に戻って、置きっぱなしにしていた自分の携帯を開くと、そこには山のようなメールが来ていた。
なぜかほとんど健から。
「なんだ?」
とりあえず1番新しいメールを見ると、『カムバックマイターン!!』という題名になっていた。
『ふはははは! ピンポンダッシュしてやったぜええええ!!』
(……何をやってんだ健は)
他のメールも「メシ食った!」とか「ちくしょー!! バスケで結城にエースの座を取られたぁ!!」とか、そんなどうでもいい内容ばかりだった。
………………が。
「心配してくれてたのか………な?」
実際は朝から夜中までずっと寝てたわけだが、家でずっと暇を持て余しているであろう響太に、ちょっとした暇つぶしメールを送ってくれたのだ。
『サンキュ』
響太はそれだけの文面のメールを健に送った。
***
翌朝。6時30分。
「さて」
都がいつ帰ってくるかわからないが、一応帰ってきたら何か食べられるものがあるように、簡単なサラダや揚げ物、おにぎりなどを作る。
そして、いつも通り7時30分。コーヒーを飲みながらテレビを見てくつろぐ時間。
『みなさんおはようございます! 今日も朝の占いいってみよー!』
テレビで毎朝の占いが始まった。
(そういや、深春はどうしてるかな?)
いろいろ大変そうだったからなぁ……と深春の様子を思い出しながら、響太はぼーっとテレビを見ていると………
『さていつも通り占いの結果を発表致します! が! 今日はなんと! みなさんにびっくりサプライズ!!』
(………ん?)
テレビのお姉さんが、何やらいつもとは違うことを言い出した。
『休業宣言を出して日本中のファンの皆さまを悲しませた! あの! 神谷深春さんに特別に占ってもらうぞー!』
「ぶっ!!」
響太は思わず飲みかけのコーヒーを吐き出した。
「げほっ……こほっ………」
むせている間に、テレビには青色のドレスを着て静々と佇んでいる深春が。
『おはようございます。神谷深春です。今日は僭越ながら私が占いの結果を発表させていただきます』
(な、ん、で、だ!!)
そこの休業中歌手何やってるんですかー! と心で突っ込む響太。
事務所で仕事をしていたら「ミハっち久しぶりー! 突然休業しちゃってどうしたのかにゃーていうか心配かけさせんなよこんにゃろー! てなわけで今日はそんな君にびっくり罰ゲームー!」と。
無駄にハイテンションな占いお姉さんに強引にやらされているわけだが………響太はもちろん、そんなことは露知らず。
「………………」
ただただ食い入るように深春の姿を見つめる響太。
『おひつじ座のあなたは、今日の運勢は大凶です、特に恋愛運では波乱が生まれるかもしれません。しかしくじけることはありません。あなたの行動いかんで、この運勢は大吉にもなりえます』
何やら手を組んでシスターのようにそう告げる深春。
深春は巷では清純派アイドル……とか言うらしい。
正直さっぱりわからないが、いつもより少し落ち着いた様子のこの姿が、テレビでの深春の姿だった。
(はぁ〜………)
占いの結果なんか1つも頭に入ってこず、響太はぼんやりと深春の姿を眺めた。