第92話 台所で
簡素な台所で、響太と雪が戸棚に食器をしまう音が、かちゃかちゃと静かに聞こえる。
「……………」
響太は、夕方に偶然聞いてしまったこと、雪が外国人とバレそうになっていることをようやく雪に話した。
「そう………ですか」
最初は真っ青になって響太の話を聞いていた雪だったが、次第に落ち着いた、というか諦めたのか、そう呟くと力なく笑った。
「………えーと、ね?」
とにかく雪が外国人だとバレないように、具体的な対策を考えないといけないわけだが………
(………どうしよう?)
響太はさっぱり考えてなかった。
(風呂に入るのを止めてもらうとか?
いやいやそれで今日のところはバレずに済むかもしれないけど、毎日はさすがにできないしなぁ………
見張りを立てるとか? ………これも毎日やるのは難しいし、それに他の人たちに不審がられる可能性が高い………)
結局何も具体案が思い浮かばないまま、うんうん考えていると、顔を伏せていた雪が、そのままぽつりと呟いた。
「………わかりました」
「は………?」
(………何が?)
ぽかんと口を開けている内にも、雪は言葉を続ける。
「………ご安心ください。若旦那さまには本当にお世話になりましたから………ご迷惑をおかけするようなことはいたしません」
「い、いや………」
(だから何を言って………?)
戸惑っていると、雪は響太の顔をキッと見つめると、そのまま礼儀正しく頭を下げた。
「………今日まで、本当にいろいろとお世話になりました」
(お世話になりました……って、ええええええ!!)
その瞬間。
ようやく響太は雪が言わんとしていることがわかった。
「ち、違う違う!! 誰も辞めろだなんて言ってないって!!」
「え………?」
洋太の言葉に、意外だという風に言葉をなくす雪。
そして少し頬を赤くすると、もじもじしながら胸の辺りを押さえた。
「じゃ、じゃあ………やっぱり身体………」
「違うううううううう!!!!」
びしぃっ! と必死で突っ込む響太。
(なぜそうなる!? というか俺そんなに鬼畜に見えますか〜!!)
響兵衛〜!! と今は身体をのっとってしまっている、自分の前世に向かって心でどなった。
「雪は何も悪いことしてないんだから! そんなことする必要はないの!!」
「で、ですけど………」
雪は手の布巾を持ったまま、地面に視線を落とす。
「私がこのままこの旅篭屋にいると、ここの人や若旦那さまにも迷惑が………」
「それくらい大丈夫だって! ほんとに!!」
(てかこのまま出て行って餓死された方が精神衛生上迷惑だから!!)
「今日言いたかったのはむしろ逆!! どうやって雪をここに残らせるか、その対策!!」
「へ………?」
ぜぇ……ぜぇ……と息を切らす響太だったが。
雪は今度こそ本当に意外だったらしく、目をまん丸にさせて絶句した。
「な………んで?」
「なんでって、当然だろ?」
こともなげにそう言った響太だったが……
「なんでそんなに優しくするんですか!!」
「………!?」
雪の突然の大声に、びくっと身体をすくませた。
うごぁ〜! 量が少ない上にまたしても毎日配信失敗した〜!!
……すみません。最近長編小説の執筆をやってるんですが、それでちょっと疲れてまして。以後気をつけます。