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霊の心  作者: タナカ
91/104

第90話 響太の行動



(………とにかく)


 響太は自分を奮い立たせると、障子越しに「あ〜、ゴホン!」と少々わざとらしく喉をならした。


「「「キャッ!!」」」


 おしゃべりをしていた3人の娘たちは、部屋の中でびくっと固まる。


(落ち着いて……俺はこいつらの主人なんだから………)


 と自分に言い聞かせながら、なるべく威厳たっぷりになるように話した。


「君たち、仕事もせずにおしゃべりとは関心しな……」

「「「し、失礼しました〜!!」」」


 3人娘たちはさっと障子を開けて廊下に出てくると、こちらに愛想笑いを浮かべながらそそくさと逃げ出して行った。







***







 そして、夕飯の時のこと。

 響太はほかほか湯気をたてている吸い物を前に、う〜んと唸っていた。


(雪にかかっている外国人ではないか疑惑を晴らし、立場を改善させ、なおかつ今後襲いかかってくる飢饉のときもしっかり生きることができる生活基盤を与えることができればベスト………)


 そこまで考えて「………はぁ〜」とため息をついた。


(………嫌むりだってさすがに) 


 特に後半。飢饉になってからの対策は、遅かれ早かれこの身体から出ていってしまう自分には絶対にできない。


「………? どうしました?」

「い、いやなんでも!」


(………ま、とにかく。できることからやろうか)


 とりあえず響太はそう決めると、


(………よし)


 勢い良くご飯を食べ始めた。







***







 とにかく、雪にあの子たちの目論見だけでも伝えとかないといけない。

 ………だが、雪と自分は立場が違うため、中々2人で話し合う機会が持てない。

 その上。


「………………」


 がちゃ、がちゃ、がちゃ………


 自分と同じぐらいあるのではないか、という食器の山をおぼんに載せてよたよた歩いている雪を見ながら、響太はため息をついた。


(………あれ、見てらんないよなぁ)


 曲芸のような危なっかしいことをしている雪を見て、ついでにあれを手伝えないかと考える。

 だが、『山成響兵衛』としては雪を手伝えない。


(………だったら)


 雪の主人としてではなく、『単なる使用人』として手伝えばいい。


「………」


 がたっ、と響太は立ちあがった。


「あ、今日は食べ終わるのがお早いのですね」


 千鶴が少し驚いたようにそう言った。


「ま、ね」


 響太は返事もそぞろに部屋を出ると、


(………え〜と)


 これから洗濯する予定なのだろう、洗面所にある少し汚れた男性使用人用の着物を少し失敬して、着た。

 あとは少し髪をいじくれば、


「………完璧!」


 自分の部屋で、パッと見別人のような格好をした自分を鏡で見た。


「よし」


 さっさと部屋から出ると、響太は先ほどまで食事をしていた大部屋に行く。

 だが。


「………あれ?」


 なぜか雪は見当たらなかった。

 どこだと周囲を見渡していると、裏庭に出る勝手口が半開きになっているのを見つけた。


(あそこかな?)


 そう思って裏庭に行くと、


「………………」


 ちゃぱちゃぱちゃぱ………


 そこにはたくさんの食器を1人で懸命に洗っている、雪がいた。


(………おいおい)


 食器はざっと見、50人分ぐらいある。


(1人で片付けるにはいくらなんでも多すぎだろ? ………まったく) 


「ほら、手伝うよ」

「えっ?」


 不意をつかれて、ぼけっとした顔で響太を見る。

 始めはわからなかったみたいだが、よくよく顔を見て、信じられない、という風に響太を見た。


「わ、わわわ若旦那さま!! な、なんて格好してらっしゃるんですか!!」

「いや〜、こうでもしないと手伝えないと思って」


 正直に答える響太。


「なな何もあなた様のお手を(わずら)わせるようなことは……!」

「いや、けど俺ちょうど暇だし」


(見てられないしね。………それに、な〜んか他人に家事をやらせてるのって落ち着かないんだよな〜)


「ほらほら。い〜からい〜から」

「あ……う………」


 半ば強引に、響太は雪の手から食器を奪った。





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