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霊の心  作者: タナカ
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第8話 平穏な時



 とろとろと煮込んだシチューをゆっくり混ぜながら、


「ありえない……人気歌手と知り合うなんて、人気歌手と相合傘なんて……そんなの絶対ありえない。そうだ、雰囲気は似てるけど髪型とか違ってたじゃないか……そうだ。俺の勘違いなんだ………きっとカミーヤ・ミハルという神谷深春とはまるで別の人なんだ………勘違い勘違い………」


 危ない人みたいに思考を混乱させ、自分を納得させようと響太はぶつぶつ呟いた。

 そうしていると、「ただいまー」と玄関から声がした。


「母さん」


 まだ10時前だというのに、珍しく早い帰宅だった。都がこんな時間に帰るのは、月に1回あるかないかだ。


「珍しいね。何かあったの?」

「それがね、聞いてよ響太」


 疲れたというより、ああ嫌だという感じで都は言った。


「私の担当してた子が番組すっぽかして居なくなっちゃったのよー」


 都の仕事は、アイドルのマネージャーである。響太が誰のマネージャーなのか聞いてみると「売れてないアイドルを複数人担当している」と言ってはぐらかしていた。


「自分の家に帰ってるんじゃないの?」

「その子の家にはとっくに行ったわよ、けどいないの。しょうがないから残ってた仕事を他の人に押しつけてさっきまで探してたの」

「………ということはまだ仕事中?」

「違うわよ。その子が仕事すっぽかしていなくなるの、初めてじゃないしね。どうせ明日になれば戻ってくるだろうと思って事務所に電話を入れてから帰ってきたの」

「結局ほったらかしにしてるんじゃないか。その子が痴漢にでも襲われてたらどうすんの?」

「ああ、それなら大丈夫よ。あの子強いし、携帯電話も今電源切れてるけど持ってるし、スタングレネードとか武器たくさん持ってるから」

「なぜスタングレネード………」


 まあ、なら無事そうだな、と思って響太は作った夕食を盛り付けだした。


「番組すっぽかすようなアイドルなのによく仕事があるもんだね」

「それなのよ!」


 都は拳を握って激怒する。


「あの子が失踪したら、どれだけ苦労するか分かる!? なんたっていけ好かないやろうどもに頭下げなきゃいけないのよ!」

「いいじゃん別に。というか他に苦労することはないのか」

「他は適当にやるから問題ないわ。けど頭下げるのだけは絶対に我慢できない!」


(仕事はできる人だからな、母さんは。俺なんか頭を下げることぐらい日常茶飯事なのに)


 やっぱり変なところで子供っぽいな母さんは、と微笑ましい悩みに頬を緩ませ、響太は出来立てのシチューにサラダ、手作りジュース、と夕食を並べた。


「ほい、母さん」

「ありがと。ああ〜。生き返るわ〜〜!」


 都は料理は一つもやらないが、響太の料理を本当においしそうに食べてくれる。これだけでも、響太は作った甲斐(かい)があるというものだった。


「ま、今日はゆっくり寝なよ」

「響太ー、今日は久しぶりに一緒に寝よっか?」

「それは断固拒否する」


 変なこともあったが、響太にとって幸せな1日だった。














 翌日。響太はいつも通りに起きて、朝食の準備をしていた。


「昨日は早めに寝たくせに、なんで起きてこないんだ、母さんは」


 出来立てのスクランブルエッグをむぐむぐ食べながら、2階を見上げてため息をついた。


『おひつじ座のあなた! 今日の運勢は小吉! しかし周囲に大きな変化が訪れる日だぞ! 来る物は拒まず、去る者は追わず。泰然自若とした心が重要だ!』


(大きな変化?)


 何か最近、おひつじ座の運勢大波乱だな、と考えていると、こりずにどだだだだ、という音が2階から聞こえてきた。


「寝過ごした寝過ごしたやっちゃったー!」

「昨日早く寝たのに、なんで早く起きて来れないの」

「私は何度も抵抗したのに、お布団が、お布団が………」


 都は握り拳を作って力一杯叫ぶ。


「離してくれなかったのよー!」

「ようするに、布団の誘惑に負けた、と」

「ああん! 言わないでー!」


 都はしくしくと泣きながらどたばた着替える。


「獅子座は仕事運がいいらしいよ。ここぞと言うときに頑張れって」

「それなら大丈夫よ。母さんいつも頑張ってる!」

「寝癖が爆発してるけど」

「いやああああ! しまったー!」


(あれじゃあ相手に与える印象最悪だろう。まったく…………)


「ええええん。なかなか直んないよう………」

「近くにヘアームースがあるでしょ。それ使えば?」

「ありがと響太ー!」


(いつも身の回りのことそんなに気にした様子もないのに、なぜか容姿はいいんだよな、母さんは)


「完璧だわ! 響太!」

「ほい」


 響太はいつものおにぎりを投げて渡す。


「ありがとー! それじゃ、行ってきまーす!」


 都はにぎやかさ爆発で、走っていった。


「さて、俺も行きますか」


 平穏無事ないつもの朝だった。おひつじ座の占いが当たらなければ。









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