第85話 のんびりお休み
「うぐぅ〜………」
暇だ〜! という風に響太はソファの上で体を力いっぱい伸ばした。
今日は月曜日。
京都での祈祷が終わり、その翌日なのだが………
「……こんなに元気いっぱいなのに、な〜んで自宅でテレビなんか見なきゃならないんだ!!」
うがあ〜!! と響太はこぶしを握り締めて立ち上がった。
そう、響太は一応病み上がりということで、学校を強制的に休まされていた(都主導)。
……普通なら喜びこそすれ嫌がる必要などないのだが。
「………やることがない」
ソファに顔を押し付け、ぶーたれる響太。
響太の1日は、学校に行く他には炊事洗濯掃除など、家のことを主にやっていた。
あとはとりあえず大学には行きたいな〜、ということで部屋で宿題をちまちまやる程度だ。
………つまりは、趣味と呼べるものをほとんど持っていなかった。
つまらん人間。
(………いや、だってさ。母さんは忙しいんだし、俺が家のことをしっかりしないとダメじゃん?)
なるほど。そうやって無趣味のつまらない地味人間ができあがるわけですね。
(何もそこまで言わなくても)
少しは高校生らしい趣味でも持てよ!
(………え〜と、じゃあ庭の草取りでも)
阿呆か己は!!
ゲームはないのか!? 漫画はないのか!? エロ本はないのか!?
(ゲームはウチに1台もないし、漫画はそもそも読む習慣がないし、エロ本は論外。俺まだ未成年だから)
ゲーム漫画エロの青少年3大神器がない!? マジかお前!?
(仕方ないだろ。ウチ貧乏なんだから)
そういう問題じゃないだろ! それある意味危険だぞ!!
(………どうして?)
青少年のアイデンティティとはなんぞや! それは若さあふれる青春の暴走!! たぎれる脳内妄想力こそが青少年の青少年たる所以だろう!?
友人の女の子に、アイドルに、2次元キャラに!! その妄想は留まるところを知らないのだよ!!
なのに何その妄想力ゼロの無欲生活!! お前は釈迦か仏陀か!?
青少年は青少年らしくもっと乱れろエロくあれええええ!!!
(………………わけわからん。というか今更だけど、アンタ誰?)
……………………………
通りすがりの脳内風来坊です。
(今考えたろ、その名前!)
……てな感じで、結局やることのない響太はぼけっとテレビを見たり掃除をしたり、そんなつまらない1日を終えたのでした。
(いや、ちょい待てってだからお前誰!?)
まる。
***
「…………へぇ」
深春は事務所に入ると同時に、思わず顔をほころばせた。
事務所の中に、甘い桜の香りが僅かに漂っていたからだ。
きょろきょろと辺りを見まわすと、窓際の花瓶に綺麗な桜の枝が生けてあった。
「どうしたの、これ?」
誰にとも言わず聞くと、「ああ、それはね」と優しげなおばさん(たぶん事務所の課長)がにっこり笑って答えた。
「今朝届いたのよ、それ。神谷さんのファンの人からよ。手紙もあるから読む?」
「あ、はい」
深春はいつもこういう手紙は読むのが大変なので、土日とかにまとめて読むのだが。
桜を贈ってくるような人がどんな人なのか少し興味をひかれて、真っ白な封筒を受け取った。
「………………あ」
あて先の名前を見て、深春は口を開いたまま固まった。
深春は慌てて封を切ると、中に入っている手紙を見た。
『………響太から事情を聞きました。
いろいろと、もうとにかくゴメン!! 紀子』
「………はは」
紀子らしい、簡潔で心の篭もった謝罪の言葉に、深春は笑いをこぼした。
「らしいなぁ……ほんと」
深春の目は、少し潤んでいた。
***
ゆらりゆらめく小さな心。
広い世界に1人ぼっち。
ゆらりゆらめくほのかな心。
それは暖かくて柔らかい。
ゆらり重なる2つの心。
ひとたび交わってしまえば、2つの絆は又とないものに。
決して離れることはない。
はし休めの意味で書いた作品です。やっぱりこういうほのぼのした物語の方が私は好きですね。