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霊の心  作者: タナカ
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第81話 眠る



「大変です!」     

「どうしたんですか? (ひびき)さん」


 ぱたぱたと旅館の中から、着物の上にエプロンを着た千鶴が出てきた。

 ………しかし、響太が抱えている少女を見ると同時に、さっと顔が青くなった。


「ひ、響さん! その子………!」

「裏の山で倒れてたんです! 大分衰弱しています! 早く手当てをお願いします!」

「……………」


 千鶴はその少女の衰弱した様子以外にも何か懸念事項があるらしく、厳しい表情で少女を見たまま動かなかった。


「早く!」

「………とりあえず、こちらへ」


 響太にせかされ、千鶴は渋々という風に響太を奥の部屋に案内した。














「主な原因は疲労と空腹ですね。固形物を受け付けないほど身体が衰弱してましたから、とりあえず水を飲ませて布団に寝かせておきました」

「そ、そっか………。ありがとう」


 目の前で昏々(こんこん)と眠る少女を見て、響太はようやく、ふーっ、と安心したように

息を吐いた。 


「ですが響さん………」


 ずいっと千鶴が顔を近づかせてきた。


「な、何………?」

「どうしてこんな子を連れてきたんですか?」

「どうしてって………単なる人助けのためだけど」

「単なる人助けって………」


 千鶴は絶句すると、苦々しく少女を見た。


「この子、外国人ですよ? わかってるんですか?」

「………そりゃわかってるよ?」


 少女は真っ白な肌に金色に光る髪を持っている。

 どうみても西洋人だった。


「じゃあなんで連れてきたんですか?」

「なんでって………?」


 分けがわからない。

 なぜこの子を助けたぐらいで、こんなに言われなければならないのか?


「………………あ」


 その時、ふと。

 響太の脳裏にあることがかすめた。


「………鎖国」

「そうです」


 やれやれ、という風に千鶴は頭に手をやった。


(………………ああ、そうか)


 今は鎖国の時期。

 外国人に対する差別が、最も強かった時代なのだ。


「幕府のお役人にでも見つかったらどうするんですか!?」

「ああ………」


 響太は困ったように頬を()いた。

 ……要は凶悪犯をかくまうようなものなのかな、と思いながら。


「そこはほら。バレないように(かくま)うとか」


 響太にはこの子をお役人に突き出す、という考えがどうしても思い浮かばなかった。


「何言ってるんですか!?」


 千鶴は悲鳴のような声をあげた。


「こんな子を匿って何になるんですか!? 明らかに百害あって一利無しでしょう!!」

「…………いや、それはよくわかってるんだけどさ」


 千鶴の剣幕に押され冷や汗をかきながら、響太は気まずそうに視線を()らした。

 ……そして、反らした視線は傷だらけでやせ細った少女に向けられた。


「どんな理由があってもさ。こんな子供を見捨てるのは………嫌じゃない?」


 そう言うと、懇願するように千鶴を見た。


「う………」


 千鶴は困ったように後ずさりすると、少女と響太を交互に見た。

 そしてうーうー、と唸ると、観念したように息を吐いた。


「………………………わかりました」

「千鶴!!」


 響太は感激して、千鶴の手を取った。


「た、ただしですよ!」


 妙に接近した自分の顔と響太の顔との間に手を挟むと、厳しい口調で言った。


「こういうことにします! これからこの子の髪を黒髪に染めて日本人と偽ります! 

 ですが私たちはこの子が外国人なのに日本人と偽っていることを知らなかった!

 お役人にバレたら遠慮なくこの子を突き出しますからね!!」

「わかったって!」


 とにかくこの子が助かるのだ。

 それがわかっただけで、響太には十分だった。


「…………………………」 


 すっと、少女の頬に一筋の涙が伝っているのに、2人は気づかなかった。














 タタタタタタ………!


 薄暗い病院の廊下を、必死でかける音が響いた。


「響太!!」


 バンッ! と都は乱暴に病室の扉を開けた。


 最初に飛び込んできたのは、点滴の管だった。

 ぽつぽつ………と無機質に、少しずつ減っていく。

 そしてその管につながれた状態で。

 ………何事もないように眠りつづけている響太がいた。

 そこには椅子に、ぺたん、と座り込んでいるユキナ、紀子、そして深春の3人がいた。


「………都さん」


 ユキナが泣きそうな声を出した。


「………すみません。私のせいで」

「どういうこと……?」


 都はユキナの言葉も聞いていない様子で、真っ青になりながら響太に近づいた。


「……ねえ、なんでこんなところで寝てるの!? 響太! ねぇ、起きてよ!」


 必死に肩をゆするが、響太は何事も無かったかのように。

 ………ただ、眠るだけだった。


「………千秋と同じだよ」


 深春が搾り出すように言葉を出した。


「起きないの。お医者さんは、原因不明だって………」

「………何それ?」


 信じられないように都は深春が持っていた診断書をひったくった。

 そこには確かにこう書かれていた。


『原因不明の昏睡』


「………脳の世界はまだ人間にとっても未知数だから、何が起こっているか医者にもわからないって」


 紀子が震えながら声を出した。


「原因不明? ………ねぇ、それおかしいよ」


 ふらふらと都は響太に近寄った。


「ねぇ、響太! 起きなさいよ! 本当は寝てるふりしてるだけなんでしょ!? 起きてよ! じゃなきゃ泣いちゃうわよ!!」


 都が響太をゆさぶる力が、だんだん強くなる。


「都さん………」


 さすがにまずいと思ったのか、深春が止めに入った。

 しかしそれでも都は響太をゆさぶり続けた。


「起きてよ響太ああああああああああああ!!!」


 都が力いっぱいそう叫んだ。

 ………その瞬間。


「…………!」


 ぴくん、と。

 響太の頬が少しだけ動いた。 








鬱パート終了! 次からは多少明るい感じになります。

………あー、長かった。


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