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霊の心  作者: タナカ
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第80話 まわりだす運命



 見知らぬ日本家屋の部屋で、響太は途方に暮れていた。


(山成響兵衛?

 ………俺が?)


 助けを求めるように千鶴とおじさんを見るが、2人とも「?」と首をかしげるだけだった。


「ア、アハハハハ………」

「「………?」」


 響太は乾いた笑いをした。


(……ヤバイ。理解が追いつかない)


「まだ少し頭がぼーっとするので、ちょっと散歩してきますね!」


 すっと立ち上がると、響太は早口でまくし立てた。


「あ、ちょっと………」


 千鶴の制止も聞かずに、響太は早々に部屋を出て行った。














「ふぃ〜………」


 家を出てその門前で響太はようやく人心地ついた。


(………一体何がどうなってんだ?)


 未だに頭は混乱していたが、どうにか周囲を見渡す余裕はできた。

 振り返ると、『山成平旅籠屋』と書かれた味のある暖簾(のれん)がある。

 ここはどうやら老舗の旅館らしい。

 そしてぐるっと道を見ると……


「………え」


 響太は目を見開いて、そのまま固まった。

 周囲の家はこの旅館のような日本家屋が全てで、道路はコンクリートではなく土により舗装されていた。


「は、ははは………」


 まさか、と乾いた笑いを漏らす。


「おはようございます」「いい天気ですね」「幕府が鎖国令を………」


 外で日常会話をしている人はみんな着物で、ちょんまげ姿の人までいる。


「っと!」

「ほっほっほ………!」

 

 飛脚みたいな人が近くを急いで走っていった。


「い、いやいやいや……」


 そんなまさか。

 江戸時代じゃあるまいし。 

 ペシペシと頭を叩きながら、響太は何気なく町を歩く。

 やはり日本家屋が所狭しと並んでおり、道にはそこそこの人が歩き回っていた。


「………ん?」


 しばらく歩いていると、とあるポスターが目に入った。

 歌舞伎のポスターらしい。格好よさげなポーズをとった歌舞伎役者の人の絵が大きく描いてあった。


「………意外と読める」


 そこにはミミズみたいな文字が書いてあったのだが、ふりがながふってあったのでどうにか文字が読めた。


「………あ」


 気づいた。

 気づいてしまった。


「………マジですか」


 響太はそのポスターを見ながらうめくしかなかった。

 そこには上演予定日の年月が書かれてある欄だったのだが………


『寛永10年』

   

 たまたま響太も知っている年号だった。


(………江戸時代の年号だ)


 少しずつ、心臓の動悸が嫌な感じに速くなっていく。


(おいおいおい………)


 大規模のドッキリか? と思いづらい状況だった。

 しばらくぼけっとしていた響太だったが、はっと我に返る。

 

「と、とにかく落ち着かなければ……!」


 そう考えてぱぱっと周囲を見渡し、落ち着けそうな所を探す。

 すると、先ほどの旅館の裏手を少し行った辺りに、裏山があるのが見えた。


「………よし」


 1人になるために、響太はそこまで歩いていった。












 山の入り口に差しかかった、その時だった。

 今までの懸念を全て吹き飛ばすような事態が起こった。


「は………」


 響太は口を開けっぱなしにしたまま、また固まった。


(子供が倒れてる!)


 川の辺りで、子供がぐったりとした様子で倒れていた。


「ちょっ……! 大丈夫!?」


 急いで駆け寄って揺するが、その子はぐったりしたまま、動かなかった。

 全身傷だらけでだいぶ衰弱している。片腕は赤黒く腫れ、たぶん折れていた。

 ……重傷だった。


(………早く介抱しないと!)


 ちらりと自分が居た旅館を見ると、1つ頷く。

 そして響太はその子を抱え上げると、旅館で介抱しようと急いで走った。













「旅籠屋の若旦那、山成響兵衛に拾われる、と」


 ごとん、ごとん……と帰りの電車に揺られながら、都は『初代結の巫女』についての資料、つまりはユキナの半生について、今までわかっていることが書かれた資料に、目を通していた。


「当時の状況下で、倒れている外国人を助ける、か。相当な物好きね、この人」


 ……大したものだわ、と都はぼーっと外の光を見ながら考えた。


(今日で言えば、倒れてる浮浪者を助ける、って感じか。

 ………厄介ごとまで持ち込みそうで怖いから、私ならほっとくわね)


 アナウンスと共に列車が止まるが、都はそれに頓着(とんちゃく)した様子も見せず、ゆっくり分厚い資料を読んでいた。


(その後数年間、少女を旅籠屋でかくまう)


 山成響兵衛の自筆の日記が見つかっているので、こういった大まかなことはユキナに聞かなくてもわかっていた。


 黙ったまま資料を読んでいると、バッグの中から携帯がぶーっ、ぶーっ、と震えだした。


「もしもし?」

「都さん!!」


 電話に出ると、せっぱづまった紀子の怒鳴り声が聞こえた。 





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