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霊の心  作者: タナカ
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第79話 目覚めた場所は…………

「………………」


(…………待て。冷静になってことを考えよう)


 響太はせわしなく辺りを見回しながら、必死に状況を整理していた。


(さっきまで確か廃デパートにいたはずで……………)


 その後意識がなくなる瞬間に見たのは、人形のような千秋の霊と、不気味な黒い霧。


(………んで、気がついたらここで寝ていたと)


 響太は自分の格好を顧みた。

 寝間着だろうか、響太はゆったりとした灰色の着物を着ている。

 そしてここは見知らぬ日本家屋。

 そして千秋似の見知らぬ女性がさっきまでここに居たわけだ。


(さて、この状況から考えられる『俺、なんでこんなところに!?』の答えをあげてみると)


・ケース1  廃デパートで気絶した俺は、さきほどの女性に介抱されてここにいる

・ケース2  実はまだ夢の中

・ケース3  ……ここ、実は天国?


(………個人的にはケース3は嫌だな〜)


 さすがにこの若い身空でまだ死にたくないし。


(まぁ、1番可能性として高いのはケース1だろうけど、にしてもなんかなぁ……………)


 何か違和感がぬぐえない、そんな気持ち悪さを感じたまま、きょろきょろ辺りを見回す。


「…………お」


 そうしていたら、小さめの机の上に何か本が置いてあるのを見つけた。

 古そうな本である。カバーなどなく、ただ紙をひもでまとめただけの、簡素な本だった。


(……なんだろう?)


 響太は好奇心に駆られ、布団から出るとその本が置いてある机に近づいた。

 それは題名など何も書かれていないノートだったが、ノートの右下隅の方に、小さな字で名前が書いてある。


『山成響兵衛』


(………誰だ?)


 名前に『響』の字が入っていることに嫌な予感を覚えながらも、響太はそのノートを開こうとして……


「………失礼します」

「………!!」


 スッとふすまが開き、千鶴が戻ってきた。


「朝餉を持ってきました…………………えっと、響さん? どうしたのですか?」


 手にはご飯とみそ汁、それに和え物といった和食を並べたおぼんを持っていた。

 机を背にして慌てて振り向く響太に、千鶴は不思議そうに首をかしげた。


「い、いやいや! 何でもない!」


 響太は必死で平静を保っているふりをした。


「……どうした?」


 すると後ろの方から、40才ぐらいの白髪交じりの男が顔を覗かせた。

 声が小さく少し気弱な印象を受けるが、優しそうなおじさんだった。


「具合でも悪いのか? 響兵衛」

「きょっ?!」


 そのおじさんが言った言葉は、響太を驚きで固まらせた。 


(響兵衛? 誰? え………)


 一応周囲を見渡すが、自分、千鶴、そしておじさん意外にこの部屋には誰もいない。

 ………ということは。


(響兵衛って…………俺?)


 開いた口がふさがらなかった。














「響太はん! 響太はん!」

「響太! ちょっとアンタ目ぇ覚ましなさい!」 


 暗がりの廃デパートの2階。

 日も落ち真っ暗になった廃屋の隅、非常階段の辺りに、ぽつりと懐中電灯の光がともっていた。

 そしてそこから、2人の女性の叫び声がこだましていた。


「何!? 何がどうなってるの?! ふざけてないでとっとと起きなさいよー!!」


 紀子が響太をゆすりながら懸命に呼びかける。

 しかし、2人の呼びかけにもかかわらず、響太はずっと目をつむったままだった。

 耳元で大声を出され、身体を何度もゆさぶられているにもかかわらず、響太は規則正しい寝息を立てながら、ただ眠っているだけ。

 ……………起きないのだ。


「ねぇ! お姉ちゃん、これどういうこと!?」

「…………………」


 ユキナは立ったまま響太を見下ろしていた。

 その顔はひどい後悔に(さいな)まれており、きつく唇をかんでいる。


「……………わからへん」


 ユキナは泣きそうな声を絞り出した。


「あれだけ濃かった周囲の霊の気配が、みんな消えとる。どないなったのか、正直まるでわからへん」

「わからないって………」


 愕然としながら、紀子がユキナを見る。

 紀子のすがるような視線を受け、ユキナは「せやけど………」と言葉を続けた。


「………1つだけはっきりしとる」


 ユキナは顔面蒼白になりながら、拳を握りしめる。


「……………霊がない」

「え……………」


 しぼり出すように言った

 

「魂が抜けてるんよ、響太はん」






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