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霊の心  作者: タナカ
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第76話 崖の上




 屋上の薄暗闇がだんだん強くなってきた。

 それと同時に、冷たい風が響太に寒気をもたらす。


「……………え〜と」


 だが響太は明らかに外気以外の影響を多大に受けて、冷や汗をだらだら流していた。

 対照的にユキナはふんふんふ〜ん、と鼻歌まで歌いご機嫌だった。


「ほら、何してはるんどすか? 響太さんも早う」

「マジでやるの…………………」


 ユキナはぎゅっぎゅっと自分の腰に縄を結びつけると、響太の方にまで頑丈そうな縄を持ってきた。


「当然どすえ。これしか手はあらへんどすから」

「……なんか嬉しそうじゃない?」

「ウチ、こういうの初めてなんよ」


 そう言うと、ユキナはぎゅっぎゅっと、響太の腰にも縄を結びつけた。


「………………(にこっ)」


(覚悟しておくんなはれ)


「………………(に、にこっ)」


(だ、だけどちょっとコレは心臓に悪いというか何というか………)  


 てな感じで、響太は笑顔による意思疎通でユキナに、何とか止めるよう説得をしたが………


「さーあ! ゴートゥークライミーング!」

「いいいやあああああ!!」


 響太はずりずりとユキナに屋上のフェンスまで引きずられていった。













「ええどすか! ゆっくり下に下降しはるんよ!」

「りょ、了解………」


 ひゅうううう………といっそう強い風が吹き抜ける。

 手にはぎしぎしと縄が痛いほど食い込む。

 何より下が………ない。

 足下が寂しい。

 そこには目がくらむような光景が広がっているのだろうが、響太は正直見たくなかった。


(……………こわいって!!)


 響太は今、屋上の床と同じ目線(・・・・)の所にいた。

 ……………本気で、ロッククライミングもどきをやっているのである。


(ビルの窓を掃除してるたちって、こんな気持ちなのかなぁ……………)


 たまに町中で見かけるが、見るのとやるのでは大違いだ。

 手ががちがちに固まって、心臓なんかバクバクいっている。


「響太はん。なんも怖いことはおまへんで?」


 隣で同じような体勢をしているユキナが、響太ににこっと笑いかけた。


「こないなの、スローでバンジージャンプやっとると思えばええんや。簡単どすえ」


(どこがだ!) 


 ユキナの叫びに、心で叫び返す響太。


「ちょ、ちょっと2人とも――!」


 縄で何をするか知らされてなかった紀子が、下から驚きの悲鳴を上げた。


「何やってるの! 危ないからやめなさい!」


(紀子〜! 心配はごもっともなんだが今は余計なこと言うな〜!)


 遥か下からの紀子の悲鳴が、響太に改めてデパートの屋上と地上の高さを認識させる。

 響太はさらに恐怖心がました。

 

「どーもないで! すぐ終わるやろうから!」


 紀子の叫びに、ユキナがさして恐怖した様子もなく下を見ながら、大声で怒鳴り返した。


(うわ〜………肝がすわってる)


 この高さにも物怖じしてなさそうなユキナに、響太は改めて凄いと感じた。


「いくで!」


 ユキナはそう叫ぶと同時に持っていた縄を離す。


 ビュオッ!


 そして一気に3階下まで下降した。


(すご………)


 響太は呆気にとられてその様子を見ていたが、3階と2階の間ぐらいの位置から「響太はん!」とユキナの叱責が飛び、我に返る。


「うぐっ………!」


(やるしか………ないのか)


 散々迷った末、響太は少しだけ縄と、壁につけていた足を離した。


 ビュッ!


「っとお!」


 予想以上の速さで下に下降し、響太は慌てて縄をつかんだ。

 しかし重力と響太自身の重さから、下降を止めるまで多大な握力を要した。

 ……………つまり。


「いだだだだ!」 


 手の皮がすりむけるぐらい力一杯縄を握りしめて、ようやく響太は下降を止めることができた。

 しかし少し反動がついたため、響太の身体はデパートの壁から離れ、一時縄だけでぶーらんぶーらん空中をさまよう。


(こ、怖い………これ、予想以上に!)


 響太は慌てて近くの壁に足をつける。

 

(………………ヤバイ)


 響太は改めてこの状況の危険性を認識した。


「響太はん!」

「はいっ!?」

 

 気がつくと、すぐ横にユキナが真剣な顔でいた。


「次は1番霊気の強い2階や。ええどすか?」


 ずいっとユキナが顔を近づかせた。


「2階の中を絶対に見ないようにしとくれやす」

「え………なんで?」

「霊に取り憑かれたいどすえ?」

「………いいえ」

「なら、2階はすぐに通過しはるよう心がけとくれやす」

「………わかった」


(……霊に憑かれないように、2階は見るなと)


 ………しかし、そのためにはここから1階まで、さっきの倍は長い距離を一気に下降しなければならない。

 しかも、下手に失敗したら地上に激突する恐れもある。


(……覚悟を決めろ)


 すーはー………と深呼吸しながら、響太は必死で心を落ち着かせた。

  





 




………最近、●●話、と書く度に「……よく書いたなぁ」としみじみ実感してます。


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