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霊の心  作者: タナカ
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第74話 携帯って?




「…………あ〜! 結はんろくな装備持ってきてへん!」


 宿主のバッグを地面に全部ぶちまけたユキナは、悲鳴をあげた。


「これじゃ悪霊を退治できへん! え〜と、使えそうなんはお札に数珠に小さいけんど鏡

に………ん? 

 何どすえ?」


 ユキナはバッグの中から手のひらサイズで長方形、クリーム色の簡素な物体を取り出した。


「あ………それ携帯」


 そう言いながら、響太もバッグから携帯を取り出した。


「………ケイタイ? …………………それ何語どす?」

「え………何語って? 知らないの?」

「……………」


 つまむように携帯を持ったユキナは、こくりと頷いた。


(………ユキナは昔の人だし、しょうがないのかな?)


 と言っても、ユキナ本人に聞いたところによると、彼女は水晶でしょっちゅう響太たちの世界を覗いているのだ。

 携帯が波及してもう結構時間が経つし、知っていてもおかしくはないと思っていたのだが……


「………し、仕方ないんどす!」

 

 響太の不審な気配を感じ取ったユキナが、取り繕うように言った。


「ウチは水晶玉から現世を観察しとったけど、その範囲は結神社の中のみなんどすえ。せやから、テレビの知識とかも、たまに巫女たちが話しているのを盗み聞くだけで………」


 そこで言葉を止めると、うう〜………と唸りながら響太を睨むユキナ。


「は………ははは………」


 響太は乾いた笑いしか出せなかった。

 ……………ユキナ、意外と世間知らず?


(……ま、いっか)


 響太はそう自分の中で決めると、ユキナに説明するために自分の携帯をぱかりと開いた。


「ケイタイは携帯電話の略でね。要は持ち運びが出来る小型の電話なんだけど……」

「へ!? これが電話どすえ!?」


 ユキナは素っ頓狂な声をあげると、ほぇ〜と声をあげながらマジマジと携帯を見た。


「………随分形が変わったんやな〜」


(……………何か珍しい)


 中身はユキナなのだが、外見は落ち着いた雰囲気の大人の女性、結だ。

 そのため響太は普段はしっかりしている結の、ぽかんとした子供みたいな顔に、もの珍しさを覚えた。


「………っと、しもうた。今はこんなことしとる場合じゃありまへんえ」


 ユキナは携帯をバッグに戻そうとしたところで………その手を止めた。


「……ちょい待ち。これ、電話なんよな?」

「そうだけど」

「せやったら、これで増援が呼べるやん!」


 これは名案! みたいに手を叩いて叫ぶユキナ。


(…………)


 響太は何かやな予感がしてユキナに聞いた。 


「……念のため聞くけど、どこに電話かけるつもり?」 

「……? 京都の本殿に決まっとるやん」

「今から増援を呼んで、間に合うの?」

「………………あ」


 ユキナは口を半開きにすると、「そやった………」と呟きながら額に手をあてた。














「………じゃ、深春! それが復帰早々の番組の日程やら何やらだから! 目を通しといてね!」

「りょ〜かい」

 

 都が忙しそうにファイルからプリントの束を出すと、深春に手渡した。


(……………うっわ、量多い)


 ズシッと重い紙の束に、深春はめまいがする思いだった。

 休業からの復帰、といってもそれはあと1ヶ月は先の話のつもりだ。

 だからこれは復帰後、つまり1ヶ月後の仕事の集まり、ということになるのだけど………


(……………今から憂鬱)


「じゃ、今日はおつかれさま! 明日はまた忙しいけど、頑張ろ! 私は………」

「ちょっと山田さ〜ん! 打ち合わせがこれから………」

「わかってます! じゃ、これから私はもう少し………」

「うん、私は先に帰るね。都さんもおつかれ」


(………まぁ都さんはもっと大変なんだろうけど)


 そう思いながらも、深春はこっそりため息をついた。


「帰り気をつけてね。それじゃ」

「ばいばい」


 手を振りながら、深春は目を細めながら事務室に戻る都を見送った。 

 しばらく眺めていた深春だったが、視線を下に落とした。


「………………お姉ちゃん、か」

「にゅ〜?」


 深春の呟いた言葉に、足下で寝っ転がっていた猫吉が「なに?」という風に顔をあげた。


「ね〜、ユキナちゃん?」

「みゃっ」


 深春は猫吉(深春はユキナと思っているが)を抱きかかえた。


「都さんってさ………あれで結構面倒見いいよね」

「にゅ?」

 

 首をかしげる猫吉。


「局の人たちにも結構慕われててさ。私もそう。何かさ………………」


 深春は片手で資料の入ったバッグを拾った。


「………お姉ちゃんみたいでさ」

「にゅ〜………」


 猫吉は落ち着いたのか、案外気持ちよさそうに深春の胸に身体を預ける。


「すごいよねー………………だけど私は、都さんと違ってちゃんと千秋のお姉ちゃんとしての役目を果たせなかった」


 バッグを片手に、テレビ局の迷路のような道を歩き、エレベーターまでたどり着く。


「………最低だよね。言っても仕方のないことなんだけど」


 静かに、エレベーターのドアが閉まった。







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