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霊の心  作者: タナカ
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第72話 祝詞



 

 響太と結は、3階と2階の間の非常階段にいた。

 周囲の暗さよりさらに黒い、果てしのない黒い霧。

 それが非常階段から2階の部屋へと続く廊下に存在していた。


「………煙、とかじゃありませんよね、やっぱり」


 結は階下にいる黒い煙を見ながらそう言った。

 今度は結にも見えるらしく、その黒い霧を見ながら冷や汗を垂らしていた。


「………」


 しかし、響太はその言葉に答えることができなかった。


「………………………………」


 答えることができないほど、身体はがちがちに固まり、震えていた。

 なぜなら、響太には結が見ているものとは別に、もう1つ見えていたからだ。

 黒い霧の中心。

 そこに包まれるようにして、1人の少女の姿があったのだ。

 白磁のように白い肌をした、艶やかな黒髪を持つ、中学生ぐらいの少女。


「………………千秋」


 響太はそう呟くと、ごくりとつばを飲みこんだ。  


(………なんで?)


 なんでここに………

 

(………いや、ある意味当たり前か。ここは千秋が大けがを負った場所なんだから。だけど………

 ……………なんだ?)


 ……怖かった。

 今まで何回か見た千秋の霊、そのどれよりも、響太にはそれ(・・)が恐ろしく見えた。

 

「………あ」


 必死で声を出そうとするが、恐怖でほとんど声が出なかった。 


(………お、落ち着け。怯えてたってしょうがないだろ?)


 必死でそう自分を落ち着かせるが、効果はいっこうに出なかった。


「………………」


 千秋の霊は黙ったまま、ぼんやりとあらぬ方向を向いていた。 

 だらりと手を垂らし、ただ佇む。

 しかし、その目。

 普通の黒い瞳ではなく、泣いていたかのように真っ赤には染まったその目。

 それはぞっとするほど生気のない目だった。


「響太さん!」

「…………!」

 

 結の大声で、蒼白になっていた響太がびくっと身体を(すく)める。


「しっかりしてください! 怯えていても何にもならないんですよ!」

「あ………はい」


 響太はようやく、その一言だけしぼり出した。


「………とにかく。

 祝詞を使ってみます! ダメでしたら即座に屋上に向かって走りますよ!」

「………………」


 響太はようやくこくりと頷いた。


「綾に畏き星結火乃命様。御前にて星結びの巫女、恐み恐み白す」


 結は手元からお札を取り出すと、霧に向かって突き出した。


「大神の厚き大神徳によりて、禍事罪穢を祓ひ清め給え!」

 

 黒い霧に向かってそう叫んだ。














 テレビ局。自販機とベンチのある休憩室の一室で。


「ふぅ〜………」


 深春は疲れを癒すように大きく息を吐いた。

 テレビ局の方々への挨拶、次の出演番組のオファーへの対応、などなど。

 さきほど深春は休業中に溜まっていた仕事を必死で処理していたところだった。

 ………白猫のユキナだけは、まだ具体案にまで差しかかってないから、ふぁ〜と暇そうに欠伸していたのだが。


 今、都はプロデューサーたちと会議をしているので、深春が局内の休憩室で休んでいた。ユキナはその足下で呑気に眠っている。

 ………そうしていたのだが。


「………」

「どうしたの?」 


 ぐて〜っとしていたユキナが急に首をあげると、眉根を寄せた。


「………厄介なことになったようどすえ」

「………ん?」 


 ユキナが言葉を発したが、深春には霊の存在を感知する力がないため、普通に「にゃ〜」としか聞こえなかった。


「………………」


 ユキナはそんな深春にかまわず目を瞑る。


「………………緊急如律令」


 そう呟くと、唐突に力が抜けたように、くてっとなった。


「ちょっ!? どうしたの!」


 深春は慌ててユキナを抱きかかえる。

 すると………


「にゅ〜?」  


 その猫は、先ほどのことなど覚えていないかのように、呑気に首を傾げた。

 そこにはほんわかした表情をした、言葉など話さない普通の白猫。

 ユキナではない、久々の猫吉がいたのだが………


「……? なんでもないのかな?」


 元々ユキナの言葉がわからない深春は、ただ首を傾げるだけだった。








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