第71話 肝試し再び
「ふむ………ここも異常なし」
ラフな格好の結だったが、巫女の姿の時と同じように緊迫した雰囲気でそう言った。
現在、廃デパートの2階。元衣料品売り場である。
周囲にはマネキンの残骸や箱や段ボールなどちょっとした小道具が無造作に散らばっていた。
結は懐中電灯片手にこの階を一通り回ると、四隅の柱にお札を貼る。
そして響太がいる動かなくなったエスカレーターの傍に戻ってくると、苦笑した。
「………響太さん?」
「………………(ぶるぶる)」
結論から言おう。
やはり怖いものは怖かった。
「……そこまで怖がらなくても」
(そうは言っても、怖いものは怖い!)
結の言葉には答えず、響太はただただ震えていた。
お化け嫌いは、中々治らないものである。
(ちくしょう、これなら深春の時と大して変わらねぇ)
自分の成長のなさに情けなくなるが、震えていても埒があかない。
「行きましょう?」
「………(こくり)」
響太は無言で頷くと、背をかがめて立ち上がった。
………手は結の袖をつかんだ状態で。
このデパートは、最高3階まである。
その後2人は3階の元ゲームセンターもどうにか霊がいないことを確認した。
そして、現在。
デパートの屋上。
そこは今までと違ってデパートが出来た当初からほとんど変わらず、フェンスがあるだけのベンチ1つない殺風景な空間だった。
空を見ると、空が赤く染まりかけている。
少し風が強く肌寒いが、それ以外は特に代わり映えのない空間だった。
「………霊、いないみたいですね」
「そうですね」
結の言葉に響太はほーっと胸をなで下ろした。
(………よかった。これで帰れる)
そもそも千秋の霊を見つけに来たんじゃないのか、とかそういう考えはすでに恐怖で埋め尽くされていた。
入り口にいたときはまだよかったが、今は屋上にいるのである。
例えば今仮に霊が出てきたとしても、今は入り口から最も遠い場所にいるのだ。逃げようにも逃げれない。
早く帰りたいと思うのも、むしろ必然である。
「はい、これでおしまい」
結はまた四隅の壁、がないので床にお札をつけ、最後の場所にお札をつけるとそう言った。
「さ、結さん。帰りましょう」
早く帰りたい響太は、そわそわしながら結に言った。
「そうですね。だけど………」
長く綺麗な黒髪をなでながら、結は入ってきた勝手口とは正反対の扉の方を見た。
「念のために、あちらの階段で出ましょう」
「………はい」
響太はがっくりと肩を落とした。
ギィッ………
重苦しい扉を開く。
「………うぁ〜」
響太は思わずうめき声をあげた。
段ボールなど数々の資材が散乱している踊り場があり、そこから3階に向かって、真っ黒な階段が伸びている。
先の見えない、暗闇の階段である。
………普通に怪談話に出てきそうだった。
「ご心配なく、響太さん」
結はそう言うと、バッグから小型の懐中電灯を取り出して明かりをつけた。
パッと、真っ暗だった階段が明るく照らされる。
「は、早く行きましょう、結さん。急がないと日が暮れちゃいますし」
「ええ、そうですね」
こつ、こつ、こつ……
足音が非常階段に反響する。
2人は少々足早に、このデパートの東階段をひたすら降りた。
そして………
「「………………!!」」
ちょうど2階に差しかかるところだった。
階段の奥。
そこは周囲の薄暗さとは別に、どす黒い何かがあった。