第70話 ……大丈夫?
「む〜………」
紀子はやきもきしながら、響太と結が入っていったデパートを見つめた。
(………大丈夫かなぁ、お姉ちゃんあれで抜けてるとこあるし、響太は響太で霊関連ならあんまり頼りにならなそうだし……………まぁ私もそうだけど)
う〜う〜……とそこら辺をぐるぐる回っていたが………
(………あ)
ふと思い出した。
深春。
(………謝らなきゃ)
自分の勝手な勘違いで、深春に冷たく当たってしまった。正直気が重いが、それでも自分が悪いのだから謝らなければいけない。
(電話でいいのかな? いや誠意が伝わらないだろうし、正直私、電話は相手が見えないから苦手だし。メールは論外………………)
う〜………とまたしても悩み始める紀子。
そして、携帯を取り出したり、周囲を見回したり、頭を抱えたりとひとしきり悩んだ。
そしてしばらくすると、響太たちが入っていった廃デパートを見上げた。
(さっさと出てこ〜い………)
薄暗い空間にある、木材で出来た何かの残骸や、中身もなく動かなくなったガチャポン、片腕がなくなったマネキン、などなど………
廃れたデパートというのは、響太の想像していた以上に怖いところだった。
(………うあ〜)
しん、と静まりかえった店内を見回して、響太は冷や汗を垂らした。
「さて、響太さん」
「は、はいっ?」
響太の緊張をよそに、慣れているのか平然とした結が口を開いた。
「とにかく1階から順に回っていきましょう。エレベーターなどは当然動いてないでしょうが、非常階段を使えば屋上まで行けると思いますから」
「わ、わかりました」
そう言いながら、結はすたすたと暗がりの中に足を踏み入れた。
(………あ、これ、昔花屋だったところだ)
ここの花屋は結構評判がよくて、たまに都と買いに来ていたのを思い出した。
さらに奥、昔食品売り場だった所に入る。
しかしそこに昔の面影はなく、鉄パイプや、古くなった『閉店売り尽くしセール』の看板などが寂しく残っているだけだった。
「………………」
まだここに来ていた子供の頃を思い出し、寂しく感じると同時に、響太は背筋が寒くなるのがわかった。
「………響太さん?」
「はいっ!?」
明らかに怖がった声を出す響太。
結は霊がいないか周囲を見渡しながら、言った。
「大丈夫、と言い切ることはできませんが………」
(え〜………そこは嘘でも大丈夫って言ってよ〜……)
響太は不満げな顔をしたが、結は響太の顔を見るとにっこりと笑った。
「そもそも霊はそこら中にうじゃうじゃいるものではありません。普段は人の中に収まってますし、人が死ねば時間をたてて四散していきます。
あなたが神社で見た黒い霧は、むしろ例外と言っていいのです」
「………」
「ですから、ここに霊がいる可能性は低いですし、例えいたとしても1つや2つ、集合体で現れることなんて滅多にありませんから」
「………そうなんですか?」
「ええ。例えるなら宝くじの一等に当たるぐらいの確率ですね」
ちなみに、響太はその手のモノに当たった試しがなかった。
「だからそこまでご心配することないと思いますよ?」
「……わかりました」
(……大丈夫。大丈夫)
響太は胸に手を当てると、すーっと息を吸って、ゆっくりと吐いた。
「………よし。大丈夫です」
(………たぶん)
しかし幾分落ち着いた様子で、響太は言った。
「ふふっ………ではいきましょうか」
響太たちは薄暗い廃デパートを、ゆっくり歩いていった。
……30話達成で喜んでいたのが懐かしいです。いつの間にか70話。