第69話 紀子、空回り
「なんでここにいるの!?」
「なんでって………ひどいわね、ノリちゃん。せっかく里帰りした姉に………」
「里帰りはこの前したばっかりでしょ!?」
「むー………ノリちゃんのイケズ、石頭」
「何がイケズか―――! ちゃんと説明しろ―――!」
紀子のシャウトが、広々としたデパートの元駐車場に響き渡った。
「………といわれてもねぇ」
結はおどろおどろしい廃れたデパートを見上げると、ため息をついた。
「仕事なのよ」
「仕事?」
響太が首を傾げると、結は頷いた。
「そう。ここに幽霊が出るからって………先輩たちも神社に帰ってきたし、本当は他の人がやる予定だったんだけど、地元だしちょうどいいかなーと思って私が引き受けたのよ」
「引き受けたって……お姉ちゃん。除霊できるの?」
「できないわよ?」
「じゃあどうするの!?」
紀子、走ってきたばかりなのに絶叫の嵐。
ぜぇぜぇ言いながらそれでも突っ込むその姿は、なんか凄い。根性を感じる。
「私がやるのはただの調査。本当に幽霊が出るんだったら、本殿から偉い巫女さんを引っ張って来なきゃいけないから。もし出なければ、気休めのエセ除霊で終わらせるつもりだけど………」
「エセ除霊って………」
紀子、今度は絶句する。
「そんなものよ。安心したいだけなんだから、こんな気休めでも役目は十分に果たせるの」
結はそう言いながら、バッグからよくあるようなお札を何枚か取り出した。
「それより……響太さんがなぜこんなところにいるのか、聞いていいですか?」
結は口調を変え、響太に向き直ると、にっこり笑いながら聞いた。
「ええ、そうね。私もそれを聞きたいんだけど………」
「あう………」
今度こそごまかしのきかないこの状況に、響太はあうあう言いながら後ずさることしかできなかった。
「………なるほど」
「深春の妹のためぇっ!?」
響太から話を聞くと結は1つ頷き、紀子は絶叫した。
「そうだけど………そこまで驚くこと?」
「決まってるでしょ!」
響太が引き気味に聞くと、紀子は悲鳴のような大声をあげ、響太に詰め寄った。
「てことは何!? 深春が響太の家にいたのも!? 一緒に休んだのも!? 何か深春と仲良さげだったのもみんなそれが原因だったの!?」
「たぶんそれが理由だけど………」
「………………」
………ぺたん
紀子は気の抜けたように、その場に尻もちをついた。
「ちょ、なに、紀子!?」
「どうしたもこうしたもない………」
うあー何それ〜! と地面の方を向いてうめき声をあげる紀子。
(………………今までの全部、取り越し苦労だったってこと?)
「……どうした?」
「ええい! 私の悶々返せ―――!」
急に立ち上がると紀子はうぎゃ―――! と叫んだ。
………だが、心の中がかなりすっきりしてることには、まだ気づいていなかった。
(………あれ、ということは)
ひとしきり叫んだ後で、紀子はハタと思い至る。
(今までのは全部誤解………ということは。私、深春になんてことを………)
今度は逆に青くなる紀子。
「響太さん?」
「あ、はい」
今まで黙っていた結の声がして、響太は今度は結の方を見た。
「深春さんという方の願いを叶えて差し上げたいのですよね。志は大変ご立派だと思いますが………………1人で行くのはやっぱり危険です」
「………ですよね」
やっぱ無茶だったかと、響太はバツが悪そうに頬をかいた。
「………ですから、ここには私と一緒に入りませんか?」
「結さんと?」
「ええ」
こくりと結は頷いた。
「霊が見える響太さんがいれば私としても大変助かりますし、それに私には霊力はありませんが、それでも結神社の巫女です。いざとなれば、神さまに助けを求めるぐらいはできますから」
「………失礼ですが、効果あるんですか、それ」
「ありますよ。祝詞と言いまして。小さな思念ならこれで霧散させることができます。ですから、少なくとも気休め以上の効果は期待できますよ」
「へぇ〜………」
響太は感心したように頷いた。
「わかりました。ご一緒しましょう」
(………正直、1人でここに入るのは心細かったし)
こそっとそう考えながら、響太は笑顔で言った。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる結に、京都で会った時の彼女の面影を思い出して、響太は少しほっとしながら、頭を下げた。
「ちょ、ちょっと!」
紀子は慌てて声をあげた。
「私は!?」
「紀子はなぁ……」
「ねぇ、紀子」
結はたしなめるように言った。
「これは遊びじゃないの。下手をしたら命を落とすことだってある、危険な仕事なんだから」
「だったらなおさら心配よ! ここで突っ立って待ちぼうけなんてしたくない!」
「……だけど、あなたがいても正直邪魔なだけよ?」
「うっ……」
声をつまらせる紀子。
「おとなしくしてなさいね?」
「………はい」
結の有無を言わせない迫力に、紀子はしぶしぶ頷いた。