第67話 いいわけ
響太がよく見ていた千秋の夢の光景、その時のデパートに行けば、何か手がかりが掴めるのではないか?
「………ってわけで、そのデパートの場所、知りたいんだけど」
響太は携帯で深春に、千秋が事故にあったデパートの場所を聞いていた。
「………響太くん。学校サボってたの?」
しかい深春の反応は、響太が想像していた以上にタンパクだった。
「いや、まぁ、うん。今日だけね。なんかいてもたってもいられなくて………」
「私も人のこと言えないけど、ダメだよ。サボっちゃ」
「今日だけだから……」
「……わかった」
深春はため息を1つついたが、どうにか納得したらしい。
「デパートの場所は隣町だし、すぐに教えられるけど。けどね、本当に行っても大丈夫?」
「………?」
「だって、あそこは………」
「………おいおい」
響太はデパートの前に立っていた。
………いや、デパートであった物の前に立っていた、というべきか。
「………つぶれてたのか」
5年前地震にあったデパートは、倒産していたらしい。
ガラスは壊れ、中は薄暗く、ガランとしていた。
キィ………キィ………と正面の扉が開いているから、すぐにでも入れそうではあるが………
廃墟と化したそのデパートは、パッと見お化け屋敷みたいだった。
(……本当に幽霊でも出そうだ)
「……黒い霧、いたりして」
ごくりとつばを飲んだ。
『あのままずっと眠り続けとっても、おかしくはなかったんどすえ』
ユキナの言葉が思い起こされる。
次に、1人であの霧にあったら、死ぬかもしれない………
その事実が、そのデパートに入ろうという決心を鈍らせた。
(………せめて、誰か一緒に入ってくれる人でも。
………でも、ユキナは今番組作りで忙しいしなぁ)
「………あ、そうだ」
響太はパッとシルバーの地味な携帯を取り出すと、ぴっぽっぱっ、とボタンを押した。
(確か、今はちょうど昼休みの時間帯だったはず)
ぷるるる、ぷるるる………
響太の家に行く途中の、町中。紀子は大きな本屋の横で、信号待ちをしていた。
制服のまま、とんとん、と近くの電柱を指で軽く叩いている。
(……早く、早く)
響太の家にいけば、すべてがはっきりするかもしれない。
その思いを胸に紀子は信号機を睨んでいた。
………その時だった。
「………ん?」
ポケットに入れていた携帯が、ぶーっ、ぶーっと震えた。
(……先生から? いやいや、先生が私の携帯の番号知ってるわけないじゃん)
だったら母親からか、いやけど………………と、紀子は思案した。
学校を抜け出してきた手前びくびくしながら、カバンから携帯を取り出し、誰からの電話か確かめた。
「………響太!?」
思わず大声をあげてしまった。
これから会いに行こうとしていた相手からの電話に、紀子はかなり驚いていた。
(響太、エスパー? いやいや………にしても、なんで?)
疑問に思いながらも、紀子はぴっと携帯の通話ボタンを押した。
「もしもし」
「あ、紀子。響太だけど………」
風邪などひいてなさそうな、元気な響太の声が聞こえた。
「どうしたの? ってか元気そうじゃない」
「ああ〜、ちょっとズル休み」
響太はそう言うと、乾いた笑いをした。
「何やってんのよ」
少し怒気を強めて紀子は聞く。
ごまかしは許さないぞ、と。暗にそう言っているように。
「ん〜………」
響太は少し言葉を詰まらせる。
「いやさ、今隣町の廃れたデパートの前にいるんだけど………」
「ふ〜ん。で?」
「えーと………怒らないで聞いてくれるととても嬉しいのですが」
「内容によるわ」
「………そこをちょっと、探検しようかなぁ、と」
「はぁっ!?」
紀子はまたしても大声をあげた。
(探検? 何それ、子供じゃあるまいし)
「いやさあ、紀子、この前、肝試しやったろ。あの時にお前、霊についていろいろ言ってたよな?」
「……確かに言った覚えはあるけど」
「えー、実はあの話に興味がありまして……」
「………なんで?」
「えーとー………」
あーうー、と言いにくそうに言葉をつまらせる響太。
「要領えないわね」
紀子は疑り深く聞いた。
「………今までの全部嘘で、実は誰かと遊んでるんじゃないでしょうね?」
「いやいや! それはない今1人だからほんとに!」
「ほんと〜?」
「いやマジだって」
「あーもー! ちょっとそこで待ってなさい!」
「はいっ!?」
「いいわね!」
「イ、イエッサー!」
紀子は気迫で、響太を黙らせた。