第65話 町中で
「………えーと」
私服姿の響太は自転車で町中を走り回っていた。
きょろきょろと辺りを見回すが、サラリーマンや、定年になり暇そうに散歩しているおじさん、おばさんなど、そんな平和な光景しかなかった。
当然、幽霊のような存在など影も形もなく………………
「………はぁ」
(前途多難だな、これは)
そう考えながら、響太はため息をついた。
昨晩。
「やってもらいたいことって………………どうすればいいの?」
千秋と深春が話すためには、どうすればよいのか。
そう聞いた響太に、ユキナは逆に問いかけた。
「響太はんは、それにはどうすればええと思いはる?」
「ええと……」
響太はしばらく考えるが、正直幽霊とどうすれば会話できますか、といってもやれることなんて限られていた。
「やっぱり霊と会う、とか?」
(………考えたくはないけど)
あたるな〜! あたるな〜! と思った響太だったが、その意に反して、ユキナは満足そうに頷いた。
「その通りどすえ。霊とコンタクトがとれれば1番ええんどす。
せやけど、前にゆうた通り、霊は思念の集合体どすえ。死後、まとまっていた魂は身体を離れ、徐々に自らの身体を四散させ思念となり、そのまま自然に帰っていくんや。
まぁ、千秋はんはまだ生きとって魂は身体の中に残っとる、という可能性もあるんやけど………
響太はんは千秋はんの霊を見はったんやろ?」
「………うん」
「それは残念やけど、千秋はんの魂が身体から離れとる証拠どすえ。
せやから今、千秋はんの魂は身体を離れ、ちりぢりの思念になりかけとる、と考えてええと思うんどす。
せやから響太はんには、千秋はんのちりぢりになった思念を集めて欲しいんえ」
(思念を………集める?)
「………どーやって?」
「直接会って話しかけるんどすえ」
その後いろいろ、憑きものの事例だとか今までの巫女たちの仕事ぶりだとかを交えて、なぜそうすればいいのか難しい原理をユキナは教えてくれたが。
正直、そういうのに慣れてない響太にはわからなかった。
しかし、とにかく千秋の思念とやらを探せばいい、というのはわかった。
そして聞くところによると、思念は生前思い出深い場所にいることが多い。
ゆえに深春から聞いた千秋とよく行った場所を、響太は自転車で朝から探し回っていた。
………学校そっちのけで。
(………まぁ、俺も学校休む必要はなかったんだけど)
………なぜだろう。
響太の心には、何かにせっつかれているような、そんな気持ちがあった。
………一刻も早く、千秋の思念を集めなければ
学校を休む罪悪感より、とにかく少しでも早く行動したいという欲求が勝り、響太はこうして人生初の学校サボりをやっていた。
………が。
「………ぜんっぜん、進まない」
千秋と深春は、千秋が事故に会うまで隣町に住んでおり、この町にもよく来ていたらしい。
………だが、響太は生まれたときからこの町に住んでいる。
もし千秋の思念がこの辺りに漂っているのなら、すでに見つけているはずだ。
………というか。
(………他の霊っぽい霊を見た覚えがない)
よく考えてみれば、千秋の霊以外に響太は見たことがない。唯一の例外が、京都の神社にあったあの黒い霧なのだ。
(………今まで、霊感とかそういうのとは無縁だったからなぁ)
今までの出来事、みんな自分の妄想だったんじゃなかろうか?
そう首をかしげながらも、響太はふらふらと町中を自転車で走った。
とりあえず近辺の墓にでも行ってみようかなー、と思いながら信号待ちをしていたときだった。
ふと、思いついた。
(………そういえば)
響太がよく見ていた千秋の夢の光景が、地震に会う直前の千秋の見た景色だった。
………ならば、その時のデパートに行けば、何か手がかりが掴めるのではないか?
(………よし)
そう決めると、響太はペダルに力を込めた。