第61話 肉ジャガ
……さて、夕飯の時間である。
肉ジャガに和え物、ご飯に漬け物、みそ汁といったいつも通り、普通の夕食であるが…………
「「「………………」」」
重苦しい空気が山田家に漂っていた。
………特に。
「………………ぐすっ」
都なんかすすり泣きしてるぐらいだ。
「………にゃ?」
ただ1人、ことの張本人であるユキナだけは、呑気にミルクを飲んでいた。
(何呑気にしてるんだお前は〜!)
響太は心で叫び声をあげ、精一杯ユキナを睨んだが、ユキナは意に介さず毛繕いを始めるだけだった。
(……くそう)
しょうがなく、響太はみそ汁をずずず、とすする。
「……………どういうことなの?」
お茶を飲んでいた深春が、響太を見据えていった。
「………えーと」
ぽりぽりと首筋をかきながら、響太は視線をさまよわせた。
(………どうしよう?)
これを言って、はたして深春が信じるのか?
猫吉に神様がのりうつりました。それで、猫吉がしゃべりました?
(………信じないな。少なくとも俺はそう聞いたら信じるより、そいつの頭を疑うな)
そう考え、どうにかして深春をごまかそうと考えたが。
「………………」
「……………う」
深春の「ごまかさないでね?」という無言の重圧に、響太は耐えられなかった。
「………実は」
結局、響太は今まであったことを素直に話すことにした。
正直、相手にされないと思ったのだが。
「……なるほど」
予想以上に、深春のこの話題に対する食い突きがよかった。
「……あれ?」
響太はおそるおそる深春に尋ねた。
「……信じられるの?」
「私、幽霊の存在は信じてるし、興味も持ってるの」
そう深春はあっけらかんと言った。
「それで、京都で何があったの?」
「あうっ………」
どもる響太だったが、結局、京都でのこと、そして今まであった心霊現象のことまで、洗いざらい話すことになった。
「きょ、きょきょきょ響太!」
それを横で聞いてい都が、顔を真っ青にしながら言った。
「幽霊って! 大丈夫なの!?」
「あー………うん」
「それについては、ウチがお話し致しやす」
とんっ、とユキナがテーブルに上がった。
「いいやああああ! 化け猫おおお!」
ユキナを前に、ずざざざざ、と椅子ごと後ろに下がる都。
「響太はんは思念への感受性が強うなってはるよって、幽霊と接触した時にどうしてもその影響を強く受けてしまうんどす。だから、ウチがこうして響太はんの周りにおることで、幽霊との接触をなくして………」
「………………」
ユキナの説明の間も、都はぷるぷる震えながら部屋の隅に隠れていた。
「…………?」
その都の様子を見て、深春はわけがわからない、という風に眉をひそめた。
「……化け猫って? 私には猫吉、じゃなくてユキナさん? がにゃ〜って言ってるようにしか聞こえないんだけど」
「しょうがないどす。深春はんには、残念やけど思念への感受性が弱うなってはるよって」
ユキナがそういってもやはり深春にはにゃ〜としか聞こえないらしく、じーっとユキナを見
た後で、はぁ〜っとため息をついた。
「………わかんない」
「あー、その、ね? 俺と母さんは特別に感応能力ってやつが強いみたいで、それでユキナの声が聞こえるんだよ。聞こえないのがむしろ普通だから」
響太は慌ててユキナの言葉を、響太なりに通訳した。
「しょうがないところもあるんだよ」
「………うん、ごめんね、通訳してもらって」
深春は1つ深呼吸をすると、真剣な目でユキナを見据えた。
「………ねぇ、ユキナさん」
「なんどすえ?」
「………ようは、私がその黒い霧を退治するために、アイドルとして、何かやらなくちゃいけないんだよね?」
「そうどす」
ユキナは器用にこくりと頷いた。
「………今は休業中だから、スケジュールはいくらでも調整できるけど」
ちらりと都を見ると、都はしぶしぶ頷いた。
「ねぇ、だったら。
代わりに私の頼みも、聞いてくれない?」
……山田家の夕食は肉ジャガ。パニカルの夕食も肉ジャガ。
……そして、ちょっとした偶然なのですが、今日のウチの夕食も肉ジャガでした。www