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霊の心  作者: タナカ
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第57話 放課後になっちまった






「……ちくしょう。これだからローカル線は嫌いだ」


 ようやく学校についた響太は、疲労で四肢を引きずりながらため息をついていた。


(旅費をケチるんじゃなかった)


 乗り継ぎの待ち時間とかで、結局帰るまでに一日近くかかってしまった。

 学校を見上げるが、その時ちょうどチャイムがなった。

 ………放課後の。


「………来るのが遅すぎた」


 これじゃ休んだ方がよかったと響太は後悔した。

 カラスの鳴き声が悲しく思えるような夕方の真っ赤な太陽を見ながら、響太はかなり虚しくなっていた。

 ぼーっとしていると、部活のために生徒たちが出てきた。

 私服姿の響太は、その中でひどく浮いているような気がした。


(……とりあえず、職員室に顔だけ出そうか)


 そう思いながら、響太はパカッと携帯を開く。

 新着メールのフォルダを開くと、そこは都からのメールで埋め尽くされていた。


「さびしーよー」「愛が欲しい」「ううう……」「ぬくもりが………」「響太ああああ!」


 てな感じの題名ばかりだった。


(………どんだけパニくってんだ) 


 ……まぁ昨日から会ってないし、あの母さんなら仕方ないか、と響太は苦笑した。 


(それに、なんだかんだ言ってこうして心配してくれるのは嬉しいしね) 


 携帯を見ながらそんなことを思っていると。


「おー、響太!」

「あ………健」


 野球部の練習に出てきた健とばったり出くわした。

 野球部のユニフォームを着た健が、駆け足で響太のもとにやってくる。


「どうしたんだよ! 心配したんだぞ!」

「す、すまん」


 意外と友達思いな健の言葉に、響太は謝りながらも後ずさった。


「まぁ、元気ならいいよ。安心した」


 そう言いながら、健は屈託なく笑った。


(………こういうところは、凄いよな)


 普段何かとバカな言動が目立つ健だが、彼のこうして純粋に友人を心配できる、そんなところを響太は心から凄いと思っていた。

 意外と友人関係には臆病なところがある響太を信頼させる理由がこれだった。


「おーい健!」

「あ、先輩! 今行くっスー!」


 じゃな、と健は笑いながら去っていった。

 












(……さて)


 響太はとりあえず玄関にまで移動した。

 すると、


「お? 紀子」

「あ………」


 ちょうど靴を履き替えようとしていた紀子と出くわした。


「お、遅かったじゃない。もう下校時間よ」


 紀子は少しどもりながら言った。


「いや、ローカル線の乗り継ぎにえらく苦労してな」

「あ、そ」


 バタン、と自分の靴箱を閉めた。

 紀子は靴箱の方を向いたまま、響太の方も見なかった。


「じゃね」

「え?」

「私急いでるから」


 紀子はそれだけ言うと、足早に響太の横を通り過ぎる。

 さっきの健みたいに、心配するそぶりも見せなかった。


「あれ………?」


 なんだか、そっけなかった。

 響太は呆然とその後ろ姿を見送った。














 その後、職員室に顔を出したが、都は部活に顔を出しているらしく、いなかった。

 他の先生に都によろしく、ということを言付けて、響太は職員室を出た。

 そしていくらかぼーとしながら、家路につく。


「……紀子のやつ、どうしたんだろうな」


 考えるのは、紀子のことだった。

 妙にそっけなかったあの態度に、少し寂しさを覚えていた。


(……まあ恋人同士ってわけじゃないから別にいいんだけど………なんかなぁ)


 商店街で買い物中も、ずっと悩んでいた。


(最近少しべったりしすぎたのかな? それで距離取られてるとか……うわ、鬱だ) 


 そんなことを考えながら買い物をした後、暗くなった路地を歩く。


(……そういや深春にも話があるんだよな)


 京都でのことを思い返した。


(あの子はあの黒い霧を祓うために信仰心を集めるって言ってたけど………どないせいっちゅうねん)


 具体的にこれからどうすればいいのか、それがわからなければどうしようもない。


(……もしかして、あれはただの夢だったのでは)


 そんなことまで思い始めていた。

 とぼとぼ歩いていたが、どうにか家につく。


(………なんか久しぶりだなぁ)


 家を見上げながら、ほんの少し懐かしさに包まれた。

 頬を緩ませながら、響太はドアを開けた。


「ただい………」

「遅かったどすなあ」


 ……ま、とは言えなかった。

 言う前に、口が『い』の状態のまま固まってしまった。


「………は?」


 響太は自分の目を疑った。

 ベタだが、頬を思いっきりつねってみる。


(………痛い) 


 リアルの痛みを感じた。


(いやいや。俺の現実。いい加減戻って来いって)


 何度も頬を引っ張るが、夢は覚めてくれない。


「何をやってはるん?」


 その子は小さな首をわずかに傾け、こちらを不思議そうに見た。


(首を傾げたいのはこっちだ!)

  

 信じられない気持ちのまま、響太は視線を足下に落とした。


(………まさか、ほんとに?)


 ぱくぱく、と響太は金魚みたいに口を動かした。


「お久しぶりどすなぁ、響太はん?」


 そこには京都弁を話す、猫吉がいた。

 









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