第49話 京都の神社
歴史の都、京都。
清水寺など神社仏閣など様々な文化財が残っており、深春たちもこの前ドラマの撮影で来た場所だ。
響太も修学旅行で来たきりで、こうして自分で来るのは初めてだった。
現在、京都駅。
ガラス張りの綺麗なビルと、行き交う人の流れを見ながら、響太はわくわくしていた。
(………こうして1人で遠くまで来るのって、実は初めてなんだよなぁ)
うろうろと歩きながら、響太は周りを見回した。
(本当は観光もしたいんだけど)
明日は学校だ。日帰りするためには早く目的の寺まで行かなくてはいけない。
響太はバス停まで歩いていった。
昼前。
綺麗な川が日の光を反射していた。
いい天気だ。
ビル街から離れ、古びた瓦屋根の家が目立つ田舎街まで来る。
響太は古びたバス待合所でバスを降り、素朴な味のする時刻表を見た。
(………帰りのバスが来るのは2時43分か)
周囲に家はあるのだが、人気がない。
地図を見ると、目的の『結神社』は視線の先、見るからに険しそうな山の中にあるらしい。
(……ちゃんと夕方までに帰れるかなぁ)
一抹の不安を覚えながら、山の麓まで近づく。
古びた木の看板があり、『←結神社』という文字が書いてある。どうやらここで間違いないらしい。
が、その矢印の先は草花で覆われていた。
(うっわ。ほとんど獣道だよ、これ)
不安がむくむくと大きくなっていくのを感じながら、響太は草をかき分け山の中に入っていった。
(山奥にあるという結神社……)
「いったいどこにあるんだよ!!」
響太は山の中で迷子になっていた。
怒鳴り声が山の中でこだましているのが、虚しく聞こえる。
昼先なのに木々に日光が遮られているから、山の中は少し薄暗い。
そのため、幽霊とか出てきそうで響太は気が気でなかった。
………ついでに言うと、この山はこの地域の人々には神聖視されており、人の手は滅多に入っていなかった。
そして山の入り口あたりはそこそこ整備されているのだが、この山は広く、奥に行くにつれて人の手が入ってこなくなる。
………ようは響太でなくても、迷いやすい山だということだ。
(………い、いや。ダメだダメだ。こういう時こそポジティブにいかないと!)
「ある〜日! 森のなっか! 熊さんに! 出逢った!
………………」
大声で森の熊さんを歌ったあと、響太は押し黙った。
「熊に会いそうで余計怖くなったわ俺のバカ―――――!」」
叫んでも仕方ないのだが。
しかし、幸運というものはあるらしい。
響太は1時間ほど迷った末、ついに目的の神社らしきもの………の後ろ姿を見つけることができた。
「裏口から入ってしまったのか………」
(………今更だけど、どうしてこんな山の中にあるんだ? これで本当に参拝客が来るのか?)
神社は木造でそこそこ古ぼけていたが、掃除はしっかりされているらしく、小綺麗だった。 響太は誰かいないかと思って神社の裏手から境内を見ると……
「は?」
(マテ)
視界の端にとらえたものに対し、響太は頭を抱えた。
それはもう盛大に。
(何か最近、俺の現実感覚ってやつが薄れてきてないか? アイドルとか幽霊とか、普通に生活してたら会わないだろ。んで挙げ句の果てには………)
下を向いてうんうん唸っていたが、響太は観念して顔をあげた。
向こうも響太の存在に気づいたらしく、にっこり笑うと箒を持ったまま小走りにやってきた。
「こんにちは。ご参拝の方ですか?」
「えと………一応」
目の前にいるのは、巫女さんだった。
落ち着いて柔らかい感じのする人で、長い髪を肩の辺りでまとめている。
メイド喫茶でウェイトレスにでもなったら、超人気者になれるだろう。
……とまぁそれはいいとして。
(いつからこの国は神社に当然のように巫女さんを配備するようになったんだ? 今時いないぞこんな赤白の服着てる人!)
響太は本人の前でかなり失礼なことを考えていたが、巫女さんはそれに気づかずに響太に話しかけた。
「でしたらこちらでお清めをお願いします」
「………はい」
響太は巫女さんに案内されて手水舎に行き、手を清める。
そして一応参拝を済ませた後、境内の掃除をしている巫女さんに声をかけた。
「すみません」
「はい?」
響太は、とにかく当初の目的を果たそうと考えた。
「少し相談があるんですが………」
「相談………ですか」
巫女さんは響太の真剣な表情を見て、少し考えた後、言った。
「………それでしたら、中でお話しましょうか」
巫女さんに誘われて、響太は神社の中に入った。
次回で50話達成!
………よくここまで続いたもんです。